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大図書室へ



「まったく、真宵は、今どこで暇を潰しているのでしょうね。ぼっちです。ニートです。決まっています。真宵と違って、テスタメントは、聖書研究や伝道、懺悔を聞いたり祓魔師の仕事と、充実した日々なのです」
 なんだかすっごい上から目線で自信に満ちあふれながら、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)はイルミンスール魔法学校の通路を歩いていました。
「油断すると、真宵は、すぐ蒼学を襲撃して、魔法の実験を試みたりするので危険なのです。テストタメントとは違うのです」
 そうぶつぶつとつぶやくベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは、お菓子やパンの研究に余念がありません。はた迷惑で、仕送りの対象にもならない日堂 真宵(にちどう・まよい)と比べれば、実用的なレシピが残せるあたり、明確な仕送りの対象だと思っています。
「テスタメントは、真宵と違って世界の平和を恒久的に守るための研究にも余念がないのです」
 まあ、怪しい布教のための研究なわけですが。
「そのためにも、これから、大図書室で情報を集積しなければならないのです」
 そう言って、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは大図書室にやってきました。
 大晦日だというのに、大図書室は大勢の者たちで賑わっていました。
 ほとんどは、緋桜 ケイ(ひおう・けい)悠久ノ カナタ(とわの・かなた)のような、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントと同じイルミンスール魔法学校の生徒ですが、ここにある資料を求めて、他の学校からも大勢の者がやってきます。新たに生まれたという新世界に関する情報を求めてやってきている、鳴神裁や猿渡剛利たちのような者たちです。
 もちろん、太古からの資料に新世界のことが載っているはずはありません。けれども、大図書室の奧には禁書の保管されている部屋があります。それら禁書の中には、これから起こることが記された予言書という物もあるという噂です。
 また、さらに深層には、大司書のいるフロアがあり、まだ人の目に触れたことのない本まで存在するとの噂されています。
「ここだ。みんな、楽しい外出だったのにすまなかった」
 そう言って、大人数でぞろぞろとやってきたのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)たちです。
「いったい、ここになんの用があると言うのよ」
 本を見られるのは嬉しいけれども、理由がよく分からないと高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がコア・ハーティオンに聞きました。
『ガオオオン!』
「スミスミスミ〜!」
「ははははははは!」
 一緒についてきた龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)忍者超人 オクトパスマン星怪球 バグベアードがわさわさと騒ぎます。
「図書室で騒いではいけないのです。悔い改めなさい!」
 よりによって、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントに怒られてしまいました。
「もう、静かにしなくちゃダメだよ!」
 夢宮 未来にまで怒られて、三人がシュンとします。
 まあ、はっきり言って、そのガタイの大きさからしてはた迷惑な一行なのですが、さすがはイルミンスール魔法学校の大図書室、きっちりと受け入れています。まあ、受けいられなかったら、今ごろは世界樹の外へ自動的にポイされているわけですが。
「真に申し訳ありません」
 高天原鈿女が、司書さんたちに必死に謝って回りました。
「いいですか。まず、ここでは、テスタメントの言葉をよく聞くのです……」
 正座……のようなポーズにさせられた三人に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがくどくどと説教を始めました。
「それで、ここに何があるのよ」
 あらためて、高天原鈿女が声を潜めてコア・ハーティオンに聞きました。
「それは、私にも分からない……」
「何よ、それ」
 コア・ハーティオンの返事に、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が呆れました。
「だが、私には聞こえるのだ。誰かの、助けを求める声が……」
「幻聴ね。鈿女ったら、ちゃんと直してあげてよ」
 きっぱりと決めつけると、ラブ・リトルが高天原鈿女のせいにしました。
「調整は、完璧のはずよ」
 私のせいじゃないと、高天原鈿女が否定しました。
「幻聴じゃないなら、誰が呼んでいるんだ」
 わざわざ呼びつけられてこれかと、馬 超がコア・ハーティオンに詰め寄ります。
「ううむ、あちらの方なのだが……」
 自分の感性の赴くまま、コア・ハーティオンが大図書室の奥の方へと進んでいきました。はっきり言って迷惑なので、近くの書架が、自分たちからコア・ハーティオンたちを避けて道をあけ、しっしっと通りすぎるのを待ちます。
「何、何?」
 突然でっかい御一行に側を通りすぎられて、鳴神裁たちが目を丸くしました。せっかく調べ物をしていたのに、なんなのでしょう。
「すいません、すいません」
 一歩ごとに、高天原鈿女は平謝りです。
「ああ、こら、テスタメントのお説教はまだ終わってはいないのです!」
 逃がすものかと、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがその後をついていきました。
「いったい、なんの行列なんだろうね」
 猿渡剛利も、首をかしげます。
「むむ、俺様のマッドなセンスオブワンダーにピピッときた。あの先には何かある、追いかけようぜ」
「甲斐っち、やる気満々だあ。面白そう、ついてこうよ、ねー」
 元気を取り戻した三船甲斐に、アリス・セカンドカラーが何かカオスの臭いを嗅ぎつけました。
「ようし、追っかけるよ。僕たちの風から逃げられるものかあ、ごにゃーぽ☆」
 鳴神裁が元気よく言って、一同はコア・ハーティオンたちの後についていきました。
「まったく、なんなんだ、あの一行は」
 その様子を少し離れた所から見ていた緋桜ケイが、ちょっと迷惑だなあという顔をしました。
「まあ、ただの、迷惑者。パラミタにはよくいる者たち……いや、あの方向は……。よし、追うぞ、ケイ」
 最初は放っておけと言いかけた悠久ノカナタですが、コア・ハーティオンたちの進む方向を見て、急に後を追いかけていきました。慌てて、緋桜ケイがついていきます。
「声は、この奧からだ」
 どこをどう通っていったのか、行き止まりに立てかけられた巨大な本の前でコア・ハーティオンが立ち止まりました。
 その本の大きさは、ゆうにコア・ハーティオンを上回ります。まるで、大きなドアのようです。
「別に何も聞こえないが……」
 やはり空耳ではないのかと、馬超がコア・ハーティオンに言いました。
「アケル?」
 星怪球バグベアードが触手を使って本を開こうとしましたが、びくともしません。
「ダメじゃない」
 役にたたないなあと、ラブ・リトルが言います。
「そんな、おとうさんのせいじゃないです」
 夢宮未来が星怪球バグベアードをかばいました。星怪球バグベアードの中には、夢宮未来のおとうさんが乗っているらしいです。
「確かに、ここなのだが……」
 コア・ハーティオンが、そっと本の表紙に手をおきました。
 そのときです。
 突然、光を放ちながら、その本が開きだしたのでした。表紙がパタンと横にめくれると、開かれた本の中には、奧へと続く通路が現れました。本当に、どこかへ繋がるドアだったようです。
「行こう。誰かが……待っている」
 コア・ハーティオンが、本の中の通路へと、吸い込まれるようにして進みました。後に続くパートナーたちも、その身体の大きさに関係なく、一瞬の瞬きの間に通路の境目を通りすぎて、本の先へと進んでいきました。
「ああ、ここでは、テスタメントに断りなく、勝手に行動してはいけないのです。待てー」
 コア・ハーティオンたちが一斉に本の中に消えたのを見て、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントが小走りに後を追いかけていきました。
「遅れるなあ!」
 その後に、鳴神裁たちも飛び込んでいきます。
「あれは、大図書室の深層に到る本ではないか。あやつら、何をしに行くつもりだ?」
 その様子を見て、後を追ってきた悠久ノカナタが怪訝そうに言いました。何度かに渡る大図書室の探索で、巨大な本が深層へと到る入り口であること、そしてその最も奧に大司書がいることは、学生たちに知らされています。もっとも、その巨大な本の出現のタイミング自体が謎につつまれているので、いつでもいけるというわけではないのですが。
 それにしても、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントはイルミンスール魔法学校の生徒だからまだいいとしても、シャンバラ教導団が大図書室の深層、しいては、大司書になんの用があると言うのでしょうか。
「よし、追いかけるぞ、カナタ」
 そして、緋桜ケイと悠久ノカナタも大図書室の深層へとむかったのでした。