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リアクション
数年後、2030年〜
「……いつまで空京大学に所属してるんですの?」
ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は相変わらずの美貌を保っていた。美女に罵られるのが好きだという向きにはたまらないのだろうが、彼はむしろその背後にちらりと見える努力に賞賛を贈りたくなる。
ついでに言えば、三十路前後で学費を払って空京大学に通い続けているのも努力であろう。
南 鮪(みなみ・まぐろ)は、だからというわけでなく、性格的にそんな嫌味など気にしなかった。
「ヒャッハァ〜今年は面白い奴がいねーか? 世界にパラミタの愛を届けて世界の愛を軒並み頂く愛の支配様がやってきたぜぇ〜」
あと、アポ取ってきてるし。取れたのは何度目だろうか、毎回同じことを言いに来ている自覚は彼にもあったが。
背後ではパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)が静かに頷いている。
「……スカウトのお話ですわね。どうぞお掛けになって?」
「おう、失礼するぜ」
百合園女学院の応接室。ここに来るまで何年かかり、何十回断られたことか。
しかし下積みの時代もようやく報われてきたようだ。
鮪は今や、ただの空大生ではなかった。
良く判らない本を書き続けたり、信長と並行して良く判らない映画を監督して発信して、アンダーグラウンドだったりサブカルチャーな方面での知名度が上がってきていた。アンケート葉書によれば熱心ファンにはゴブリンやドラゴンや恐竜が多いらしい。
……まぁそんな感じで、本人的には仕事を積み重ねてきて、物凄い有名になってるつもりなのである。
そんなつもりなので、最近ではかつての悪人ぶり?もなりを潜め、人材集めや創作活動にのめり混んでおり、ここ数年で犯した犯罪はおそらく下着泥棒(強引に良い下着とトレードする)の類ぐらいだった。
上等なソファにどっかり腰を掛けると(信長は横で礼儀正しく)、挨拶もそこそこに用件に入った。
「やっぱよォ〜百合園のオンナは匂いが違えんだよな。本一冊でもラジオの向こうからでもネットの向こうからでも漂ってくるお宝の香りが違うぜ。黄金の種もみ倉庫一杯分でも足りねえ」
「百合園女学院の教育を評価していただいて嬉しいですわ」
「アクション女優じゃなくても良いんだぜ。ああけどダンスは踊れると良いらしいぜアレは意外と出来る奴いねーんだよな。服飾や脚本志望も受付中だぜぇ〜」
鮪の言葉に応じて、信長が四角い風呂敷包みをコーヒーテーブルに置いた。それを開いて見せると、中は新しい募集要項のチラシの束だった。
今までにも鮪は女優募集チラシを百合園女学院に置かせて貰っており、そこから鮪の元へ面接に訪れ、女優デビューしている女生徒もすでに何人かいた。
ラズィーヤも、今のところ人身売買とかお色気とかそっち方面ではないと見て、こういう形ならと協力しているのだ。
実際百合園には演劇部もあったし、演技面ではまだまだの生徒も普通に身に着けるのが難しいダンスや所作は完璧にこなせるという生徒も多い。
彼女はチラシの中身を眺めると、
「前に紹介した元白百合会会長ですけれど、彼女は今推理小説家として活動してますわ。少しは生活も落ち着いてきてるようですから、お話を持っていってはいかがかしら?」
「推理か……そういや、次作の題材はまだ決まってねぇな、右府様」
「そろそろ超大作と行きたい時勢よな。うむ三部作とかああ言った類ぞ。ゆえに活きの良いヒロインを任せられる新人も発掘しておきたい所である」
信長が重々しく頷く。
……とはいえ、純粋に映画作りしている鮪に比べて、今の信長はこれも地盤固めの一環。
彼方此方の地域復興、空大への色々な種族の進学、そしてこれも名前を売るための行為でもあった。
実は「そろそろ誰しもが大統領や総理大臣になれる制度」を作り出馬したいとか考えているのである。目標は織田政権樹立。
「超大作ならば超大作に相応しいスケールの大きな題材と共感できるストーリーが必要ですわね。たとえば宇宙、ドラゴン、お姫様……。
あらそうでしたわ、ヒロインですけれど、本日希望者がいらしてますわよ」
「うむ、頼んだぞ」
二人は面談室にしてもらった教室に移動した。
信長が面接官だ。鮪が無差別に動き回らないよう隣に座らせたまま、教師立ち合いの元で面接をしていく。
「悩ましき事あれば映画以外の事でも申してみよ」
といっても、その辺は織田信長。優しいばかりではない。
「パラミタを代表する女性として更により一歩踏み出してみぬかね。うむ代表するか否かの選別基準はわしの独断である!」
ところでその頃、鮪のパートナーの一人ジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)はというと、一応正体を隠す為にサングラス着用しつつオフの旅を楽しんでいた。
「いや今日は偶々自転車で通りがかったら顔見知りと会ってしまって済し崩し的に参加するハメに」
ジーザスの職業は、済し崩し的に映画でもスーパースター(神の子)である。
道行く人とに何故か見付かって話しかけられたり一緒に写真撮影するまでがスーパースターである。
「憧れちゃうよね。日本の着物を着て茶の湯とか日本舞踊。先入観で偏ったシャンバライメージの派手な撮影で無くてそう言うのにも私も出て見た……おっと」
自分を知らないジョギング中のおばちゃんにも、口を滑らしたふりをしつつ自分アピールを忘れない。
「何か私を知ってるって人達が勝手に盛り上がってこの手の映画の撮影が増えて……」
聖書的な映画のディスクを取り出してジャケットを見せつつ、
「っと私が出てるのでは無いからねオフレコで」
そんなジーザスはブログを運営中。ずれた感覚で時々炎上するのも味だ。
「人の子に祝福を。汝はもう愛されている」
今日も、そんな風に転んで泣いている男の子や電車に鞄を挟まれたお姉さんにうっかり祝福を振りまいている。
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