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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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高原 瀬蓮

 その頃、東側代表の高原 瀬蓮(たかはら・せれん)は東シャンバラ・ロイヤルガードのロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)と共に、これまた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が淹れてくれた紅茶を飲んでいた。
 玲は西の人間だが、瀬蓮とはこれまでにも縁がある。
 ロザリンドと瀬蓮は紅茶を楽しみながら、おしゃべりに花を咲かせる。
「空京にできた新しいショッピングモールに、可愛い洋服屋さんが入ってるんですよ。新しい服を探すのに良さそうです」
「へえー、瀬蓮にも似合いそうかな?」
「きっと、とても似合いますよ」
 他にも、冬休みの宿題は進んでいるかとか、食堂で新しいお菓子が並んだなど、他愛のない世間話を続ける。
 周囲を行きかう生徒は「何をしているんだ」という顔で彼女たちを見るが、ロザリンドはそれよりも瀬蓮がリラックスして、いつもの調子を取り戻す事が大事だと考えていた。
 その甲斐あって、瀬蓮はあたふたしていたのを忘れて、ほやほやした、いつもの彼女になっていた。
 ロザリンドはそれを確かめ、彼女に聞いた。
「瀬蓮さんは、これからどうなって欲しいと思います?」
「これから?」
 瀬蓮は目をぱちくりさせる。
「ええ、学校の事、シャンバラの事、アイリスさんの事、自分の将来……。何でもかまいません。
 では分かりやすいよう、私の場合をお話しますね。
 私は桜井校長の事が好きで、校長を守るために強くまっすぐなれる事を望んで頑張ろうとしています」
 瀬蓮はにっこり笑う。
「じゃあ、瀬蓮はねー。アイリスがなんだか毎日いそがしそうだから、お手伝いできるようになりたいな。アイリス、最近むずかしい顔ばっかりしてて、あんまり笑ってないから、また前のように、みんなと笑って学校生活を送りたい。あっ、それにはエリュシオンとシャンバラが仲良くしないとダメなのかな? 校長先生が言うみたいに、みんなが仲良くできればいいのにね」
 ロザリンドは瀬蓮が、自分が何を望んでいるのかを考えられて良かったと思う。
(きっと、これが、これから先必要になるのじゃないでしょうか)


 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は西シャンバラ・ロイヤルガードとして、瀬蓮に冷ややかな視線を送っている生徒を見つけては注意をしていた。
「私もジェルジンスキーやシャムシエルのやり方を直接見てるから、エリュシオン帝国には反感を持ってるよ。
 でも、帝国や東シャンバラの人たちが、みんなシャムシエルみたいなのと一緒じゃない。瀬蓮ちゃんみたいに、東西とか国とか関係なく、みんなの力になりたいと思ってる人だっているの」
 たいていの生徒は美羽の注意で態度を改めたが、中には反論してくる者もいた。
「だって、あいつエリュシオン大帝の娘のパートナーだぜ。何の苦労もないお嬢様に生まれて、あげくバックに大帝国がつくとか何様だよ。偉ぶりやがって」
 美羽は怒った。ロイヤルガードとしてより、瀬蓮の親友として。
「瀬蓮ちゃんがいつ、偉そうな態度を取ったの?! そんなのヒガミでしょ! 瀬蓮ちゃんはそんな事しないんだから」
 美羽は言っても聞かない輩には、「瀬蓮ちゃんに変な視線を送ったらぶっ飛ばす!」という無言の圧力をかける。


 使節団の事務所に、ケーキの甘く美味そうな匂いが漂いだす。
 瀬蓮と七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がおぼんに、作ったばかりのカップケーキをたくさん乗せて運んでくる。
「みんな、おつかれさま〜」
「瀬連ちゃんと一緒にカップケーキを作ったんだ」
 さらに道明寺 玲(どうみょうじ・れい)もケーキに合う紅茶を準備している。
「東西問わず、皆でお茶でも飲んで親睦でも深めてはいかがですか?」
「はい、どーぞ」
 瀬蓮が、彼女を白い目で見ていた生徒にもケーキを渡す。美羽は彼が何かしてはいけないと、ずずずと圧力をかけながら近づく。と、彼がぽつりと言った。
「……なあ、彼女と結婚したら、帝国で貴族になれちゃったりして」
「はあ?!」
 よく見ると、瀬蓮を見る彼の頬はほんのり赤らんでいる。
 ごす!
 美羽は彼をどつき倒した。瀬蓮が「ん?」と振り向く。
「美羽ちゃん、ケンカはダメだよぉ」
「ケンカするほど仲が良いだけだよ! ……でもオオカミさんには気をつけてね」
「うん?」
 ちょっと不思議がりながらも、瀬蓮はうなずいた。