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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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自身の手紙

 五月葉 終夏(さつきば・おりが)はいつものヴァイオリンと弦を、便箋とペンに持ち替えて手紙を書いていた。
 文面を考えながら、代王や女王の事を想う。
(分かってはいたけど東西の代王はやはり使節団では行けない……か。本当はきっと西の代王は特に、会いに行きたかったんだろうな……。
 私は東西の代王の事もジークリンデさんの事もよくは知らない。だけど、ジークリンデさんに何かっあって悲しむ人がいるのは分かる。
 私達の想いで女王を助けられる可能性があるのなら今の気持ちを精一杯メッセージに込めよう)
「うん? どうしたの?」
 双子のように良く似た容姿をした、ウィンドリィの雷電の精霊チチ・メイリーフ(ちち・めいりーふ)タタ・メイリーフ(たた・めいりーふ)が終夏の所に駆けてくる。
 座って視線を合わせた終夏に、タタが言う。
「あのねあのね、ボクたち、アスコルドのおじさんにおてがみだしたいのー」
「え? アスコルド大帝にお手紙送りたいの?」
 驚く終夏に、タタは一生懸命、説明する。
「ボクたちのおもいがつよければ、ジークリンデのおねーさんはたすかるんだよね? それっておもいはつたわるってことでしょー?
 ならアスコルドのおじさんにだって、おもいがとどくとおもうんだー。ほんとうにわるいひとなんて、きっといないから。
 だから、アスコルドのおじさんにおてがみで『ジークリンデのおねーさんをいじめないで』って、おてがみだそうって、チチとそうだんしてきめたのー」
 終夏は「うーん」と考える。
「そうだねぇ……届くか分からないけど、ダメ元で一緒に持って行ってもらおうか? 運が良ければ、手紙が届いたくらいは伝えてもらえるかもしれないし。
 よーし! それじゃ、書いてみようか!」
 タタは歓声をあげ、チチはさっそく終夏から便箋とペンを貸してもらう。
「タタはじをかくのがにがてだから、ぼくがかくことにしたよー。
 みんながてをつないで、しあわせなきもちでいっぱいだったら、きっとあらそいなんて、おこらないよね」
 二人の様子を微笑ましくながめ、終夏はまた自身も手紙を書き始める。


 ジークリンデ様、アムリアナ女王様

 どちらのお名前を呼んだら良いのか分からないので両方のお名前で失礼致します。
 ジークリンデ様、アムリアナ女王様、どうか生きる事を諦めないで下さい。
 生きていれば楽しい事も嬉しい事も、綺麗な音楽も、たくさん感じる事ができる。
 だからどうか諦めないで下さい。
 今が一番辛い時なら、これ以上辛い事は起きない。
 あとは一番良い時へと、上がって行くだけなのですから。



 一方、チチが書いた手紙はこんな内容だった。


 アスコルドたいていさま

 はじめまして。ぼくたちはらいでんのせいれいのタタとチチといいます。
 てがみはとどかないかもしれないとおねーさんはいっていたけど
 でも、かきます。
 アスコルドたいていさま、ジークリンデのおねーさんを
 どうかいじめないでください。
 おねがいします。



 終夏はふたつの手紙をそれぞれ封筒に収めると、さらに『希望』の花言葉を持つスノードロップの種も入れる。
 この手紙を、帝国へ向かう使節団に託すのだ。