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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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ファーシー

 ファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)の携帯電話がなった。神野 永太(じんの・えいた)からだ。彼女にとり、かけがえのない大切な人だ。
「永太さん、どうしたの?」
「実はあなたに頼みたい事があるです。今、大丈夫ですか?」
 永太の声は普段どおりの暖かい響きで、ファーシーは安心する。
「ええ、大丈夫よ。……頼みたい事って?」
 永太は、使節団が女王へのメッセージを集めている事を話す。ファーシーもすでに空京放送の番組や、周囲の人々の話から、だいたいの事は聞いて知っていた。
 しかし永太が、彼女に女王へのメッセージをもらえないかと頼むとさすがに驚いた。
「わたしに……?」
 彼女自身は、人並みに女王を信仰している。週末の礼拝も毎週、行っていた。
 しかし、こうして独自にメッセージを頼まれると、果たして自分で良いのかと戸惑ってしまう。
 永太はそんな彼女を説得する。
「私自身、女王との接点は無くて……。
 蒼空学園に所属していた頃、まだ女王がジークリンデと呼ばれていた頃、リコちゃんと冒険を共にして、その際に顔を合わせたことが有るくらいなのです……。
 でも、その時の、リコちゃんと和やかに、笑顔を交えながら言葉をかわすジークリンデさんの顔を私は忘れることは出来ません……。
 私は、その光景を取り戻してあげたい。いつかリコちゃんの傍で、ジークリンデさんが微笑んでいられる未来を失いたくないから……。
 だから、女王を救うために思いが必要というのなら、ファーシーを利用するようで心苦しいけど、でも、どうかぜひ、ジークリンデさんへのお言葉をお願いできないだろうか……?」
「……うん、分かった。電話をくれてありがとう」
 ファーシーは、頭の中で情況を理解して、またメッセージをまとめる時間が欲しいと求めたので、永太はそこで一旦電話を切り、数時間後にまたかけなおした。その頃にはファーシーも、メッセージを送る為、心を決めていた。
 メッセージは、電話での会話を永太がボイスレコーダーに録音して、使節団に渡す事になっている。
 永太が準備OKだと告げると、ファーシーは緊張した面持ちで口を開いた。
「……女王様、頑張ってください。わたしも……わたしは、何度も自分を壊そうとしました。そのうちの1度は……魔に犯されて皆を襲う存在になりかけた時。
 でも、みんなが願ってくれて、生きてって想いを伝えてくれて、今、わたしはここにいます。生きて、前に進むことが出来ています。勿論、立場は全然違うし、これから辛いことも沢山あるかもしれない。だけど……生きていたら、いつか光が見えるから。みんなが居れば、闇から抜けられる日が、来る筈だから。だから、最後まで――頑張ってください」