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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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ホイップ

 もちろん戦場以外にも、十二星華はいる。
 小春日和の公園。
 そんな一人ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)の元を、親友のソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が訪ねた。
「ソアちゃん! ベアさん!」
 電話で連絡を取って落ち合うと、ホイップは二人にたたっと駆け寄った。女王が危篤だと聞いて、いても立ってもいられない心理状態だったのだ。それでも二人に会えて、ホイップは嬉しそうだった。
 同じ東シャンバラ・ロイヤルガードではあるが、ホイップには砕音を見張りつつ帝国から連れ帰る任務は与えられていない。十二星華ではすでにテティスが使節団の西側代表として参加しており、それ以上、帝国に十二星華を送るのは危険だと判断されたのだろう。
「ホイップさん、今日お呼びしたのは、女王様への手紙を書いてもらえないか頼みたかったんです」
 ソアは改めて女王へのメッセージについて、ホイップに説明した。
「私も女王様に手紙を書こうと思うので、一緒に書きませんか?」
「私で何か役に立てるなら頑張るよ!」
 ソアの誘いに、ホイップは快諾した。
 するとベアが商店街の方を指して、申し出た。
「もし便箋と筆記用具以外にも必要な道具があれば、俺様が買出しに行くぜ!」
「ありがとう。手紙と一緒に女王様に渡して欲しいものがあるの。……あっ、でもせっかくだから、皆で行こう」
 三人は連れ立って、商店街に向かった。そして花屋で、ホイップの花である桃色のカスミソウを花束にして買う。
「この花を手紙と一緒に持っていって欲しいの」
「はい、ホイップさんの想い、大切に届けます」
「お安い御用だぜ!」
 ベアがどんと胸を叩く。

 三人は落ち合った公園に戻ると、木漏れ日がそそぐベンチに座り、便箋とペンを用意する。
 が……いざ、いきなり便箋を前にすると、筆が走らない。ソアが言った。
「うーん……いきなり手紙を書こうとしてもなかなか言葉がまとまらないですね」
 ベアがふむぅ、と太い首をひねる。
「だったらご主人、女王について話していれば考えもまるまるんじゃないか?
 そういえば……アムリアナ女王は、自分が不在である間にシャンバラの土地が荒廃し、地球諸国と手を結ばざるを得ない状況にしてしまったことに胸を痛めていたらしいな……
 俺様としても、ゆるヶ縁村の空京開発で故郷や家族を失ったゆる族がいたことを考えると、実感のある話だ。
 アムリアナ女王がアイシャに女王の力を託したのは、そんな想いもあるんだろうな……本当に、シャンバラのことを真剣に考えてくれている人だよな」
 ベアに続いて、ソアが話し始める。
「私もアムリアナ女王様のことは、シャンバラのためを想って行動してくれる優しくて立派な方だって思います……
 でも、私は女王様と直接会ったことも、お話したこともありません。だからホイップさん。私に女王様のこと、教えてくれませんか?
 女王様はどんなことが好きで、どんな風に笑って、どんな夢を持っていたんでしょうか?」
 ホイップは記憶を巡らせる。
「本当にぼんやりとしか覚えてないんだけど……とてもお綺麗でお優しかった事は覚えてるかな。
 いつでもシャンバラの民の事を想って、その為の努力はかかさない人だったはずよ。
 ……女王様は始め、女王様のクローンとして私たち十二星華を作るって計画が発表された時、人道に反する事だって反対していたようなの。
 でもシャンバラの未来の為だって押し切られて、十二星華が誕生したんだけど……女王様はその事にとても心を痛めていたみたい。だけど私たちに接する時には……きっと世の中のお母さんならこうするんだろうなっていう風に、とても優しくしてくださったわ」

 会話を通して女王への想いを再確認すると、ソアとホイップは手紙を書き始めた。
 ホイップの手紙の内容は、だいたい次のような内容だった。


 危篤だとお聞きして、すぐにでも飛んでいきたい気持ちでいっぱいです。
 早くよくなられますことを……。
 花に願いを託して。



 あまり、長くは書かなかった。書きたいことは一杯あるけれど、言葉にならないから、短いけれど、言葉とその花に全てを入れる。
 手紙に添えるのは、桃色のカスミソウ。
 花ことばは【切なる願い】だった。