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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「カヤノサン、カヤノサン」
「ん? ああ、ミオんとこの」
 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)に呼ばれ、カヤノがやって来る。
「オウ、カヤノサンヒドイデス。名前くらい覚えていて欲しいデス」
「ゴメンゴメン、えっと、ジョセフだっけ。で、どうしたの?」
「それがデスネ……」
 ジョセフが、紅白歌合戦に出場するという赤羽 美央(あかばね・みお)に、この前のニーズヘッグ襲撃の際勝手に『雪だるま王国』に侵入して水晶を壊したことをあげつられ、魔法で演出するように強いられたことを話す。
「……それ、あんたの自業自得じゃない?」
「そんなこと言わないで協力してくだサーイ! ミー、氷の魔法覚えてないんですヨネ!」
 頭を下げてジョセフが懇願する。腕を組んでいたカヤノが、ふっ、と表情を緩めて答える。
「ま、いいけど。ミオが出場するってんなら、手伝ってあげたいし。最近ドタバタしてて、そういうの出来なかったから」
「オウ、美央も最近忙しいみたいデス。カヤノサン、今度ゆっくり美央と話す時間を取ってくだサイ!」
「分かったわ、あたしもそうしたいしね。……ほら、早く連れていきなさいよ」
「了解デース!」
 カヤノという協力者を得、ジョセフは美央とタニア・レッドウィング(たにあ・れっどうぃんぐ)北郷 鬱姫(きたごう・うつき)が出場するステージへと急ぐ――。
 
 
 ――小さな雪降る街に 少女は意地悪な義母と一緒に住んでいた――。
 
 それまでのいわゆるバンド形式とは違う、アコーディオンやピアノなどの鍵盤楽器、ヴァイオリンなどの弦楽器を含むバックバンド演奏(その中には、雪だるま王国の事務員も含まれていた)の中、少女(鬱姫)が雪だるまを作っていた。
 とても楽しげな笑顔を浮かべて、手を真っ赤にして、少女は大きな雪だるまを完成させていく。
 
 ――凍えるような雪煙の中、少女は雪だるまを作った
 新品の襟巻きと手袋を使って、雪だるまを作った――

 
 タニアのナレーションが音楽に被さる中、ついに少女が雪だるまを完成させる。
 自身が身に纏っていた襟巻きと手袋を着せてあげ、少女が誇らしげな顔を浮かべる。
 
「ねえ、これ、ミオがやろうって言い出したの?」
 舞台の端っこで、カヤノがごく弱い氷の嵐を生み出しながら、闇術で見え加減を調節する(というのも、カヤノではレライアのように“雪”を降らせることは出来ないからである。あくまでカヤノは“氷”が専門であるため、ごく弱いものでも雹程度が限界である)ジョセフに問う。
「そうみたいデスネ。美央が書いた童話を元にしたそうデスヨ」
「ふーん……」
 舞台を見守りながら、カヤノが術の維持に集中する。
 
(まるで、本当に雪原の中にいるみたいです……。
 舞台の中で浮かないよう、心を込めなくてはいけませんね)
 少女役を演じる鬱姫が、事前にステージの元となった話を読み、感じた深さ、そしてこの話が伝えたいことが観客に伝わるよう、物語の少女になりきって振舞う。
 
 ――義母は少女を咎めた
 襟巻きと手袋を持って帰ってくるようにと……――

 
 家から追い出され、涙を浮かべながら見上げる少女。
 しばらくして、少女は吹雪吹きすさぶ中を、雪だるまの下へと向かう。
 
 白銀の世界を北へ向かう 大きな楡の木の下 雪だるま
 激しくなる吹雪が 残酷に私の力を奪っていく そして
 「もう……だ……」

 
 ステージに崩れ落ちる少女。
 カヤノが思わず加減を弱めようかと思うくらい、鬱姫の演技は心がこもっていた。
 
 ――Then for a several time has passed.――
 
 照明が落とされ、タニアの声だけが響く。
 やがて、うっすらと光が差すように、ステージが照らされていく。
 
 温かな光と 静かな世界
 夢か現か それとも 死後の世界か

 
 光に照らされ、少女の瞳がゆっくりと開かれる。
 
 「うーん……」
 「気がついたかい? お嬢さん」

 
 目の前には 白い服の少年
 首には新品の襟巻 手には新品の手袋
 雪だるまにあげた襟巻と手袋

 
 白いコートを着、男装した美央が、少年役として言葉を発する。
 
 「僕は君の 雪だるま。たくさんの贈り物 ありがとう
 さあ、僕にお礼をさせてくれ
 君を 好きな場所に 連れていってあげよう」
 「うん!」

 
 ――そして 少女と雪だるまは歩き始めた――
 
 間奏に入り、どこかの民族が奏でるような、そんな音色がステージを満たす。
 楽しそうに歩く少年と少女。タニアが、旅をしていることをイメージしていろんな曲調に変わるように作った曲の中、たまに昇る太陽の暖かさに顔を綻ばせ、多くの時間吹きすさぶ吹雪に身体を縮こませ、二人は旅を続ける。
 
 ――一人の少女と 一人の雪だるまは共に旅を続けた
 
 白銀の森 凍らない泉 暖かな洞窟 動物たちと小さな村
 少女と雪だるまは いつも一緒に数々の物を見ていった
 
 しかし、季節は時と共に移ろう物
 旅と共に少女の靴底は削れ
 旅と共に雪だるまは小さくなっていた
 “別れ”の季節は着実にすぐそばまで来ていたのだった――

 
 二人の楽しげな笑顔。それが、暗転する世界に飲み込まれる。
 やがて、うっすらと照らされていくステージ、しかしそこに少年の姿はなかった。
 
 春の訪れを示す タンポポ
 見知らぬ街で 雪だるまは溶けて逝った
 私は 一人 水たまりを見つめる
 水面に映るは 私一人

 
「水たまりじゃないけどね」
「ファイアストームじゃ蒸発しちゃいますヨ」

 カヤノが張った氷面を見つめ、少女が嗚咽を漏らす。
 ひとしきり泣いた後で、少女が水たまりの傍にあった襟巻きと手袋を拾い上げる。
 
 ――ボロボロになった襟巻きと手袋を 拾い上げた少女
 それは雪だるまにあげたもの

 
 はらり、と小さな紙切れが落ちる。
 何かとばかりに少女は拾い上げ、中を見、表情が固まる。
 それは、雪だるまが最期に残した言葉。
 
 もう一度 冬が来れば きっと会えるから
 もう一度 雪のある街で 一緒に旅を始めよう
 それまで さようなら

 
 ありがとう 素敵な雪だるま
 今度 旅につれていくのは 私よ!

 
 ――そして、少女は涙を拭き力強く歩き始めた
 幾千里も超え、彼女たちは出会う事ができるだろう
 季節がめぐるように、幾度でも――

 
 幕が下りるようにステージが暗転し、やがて音楽も絶える。
 次に照明が灯され、出場者が出てくるまで、観客は圧倒的なステージに何も言うことが出来ずにいた。
 
「この曲は、私が書いた童話『スノーマン』を元にした物語音楽です。
 雪だるまは春には溶けてしまいますが、でも、冬が来ればもう一度雪だるま出会えるように……きっと、貴方を支えてくれる人は現れる。
 そういうことを伝えたくて、今日、歌いました。
 ここまで付き合っていただき、ありがとうございました」

 
 そして、美央が観客に向けて挨拶を終え、鬱姫とタニアと共にぺこり、と頭を下げたところでようやく、観客は拍手と歓声を送るのであった。
「涙が出てきますネ! ……オウ、カヤノサン、泣いているのデスカ?」
 泣くと言いつつ泣いていないジョセフに対し、カヤノの瞳からは涙が零れ落ちていく。
(……人間と知り合う前のあたいは、レラと冬のたびに出会い、そして春のたびに別れていた。
 今、一年中レラと会えること、あたいに付き合ってくれる人がいることは、とっても、幸せなことなんだよね)
 
 ステージから、美央と鬱姫、タニアが引き上げてくる。
「カヤノさんが手伝いに来てくれたことは、最初の時に分かりました。ありがとうございました」
 美央に、そして鬱姫とタニアにもお礼を言われ、カヤノが慌てて涙を拭い、照れくさそうに腕を組んでそっぽを向く。
「べ、別に、ただちょっと面白そうだって思っただけよ! ミオのこと手伝ってあげようなんて、ぜんぜん思ってないんだから!」
「素直じゃないデスネ、カヤノサン――」
 ついツッコミを入れてしまったジョセフへ、カヤノのツッコミが炸裂する――。
 
 涼司:10
 鋭峰:8
 コリマ:9
 アーデルハイト:9
 ハイナ:8
 静香:9
 
 合計:53
 
 ジェイダスと『P−KO』を除けば、最高点を出した彼女たちへ、もう一度観客の拍手が送られる。