百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション公開中!

シャンバラ独立記念紅白歌合戦
シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦 シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション

 
●来年もまた、この場所で会えることを願う
 
「はい、そこ詰めて詰めてー。ちゃんと全員入れてあげてね」
「そこ、余計なものを縮めるのだ! 私を見習え!」
 
 理子とジークリンデの“再会”の後、今日の『シャンバラ独立記念紅白歌合戦』のラストステージに向けて、準備が進められる。理子とセレスティアーナが、今日のイベントに出場した歌い手を全員、ステージに並べようとしていた。ちなみに、セレスティアーナが何を縮めろと言ったかは、ご想像にお任せする。
 
 地球の紅白歌合戦でも、最後は出場者が全員ステージに立ち、共通の歌を歌った。
 ここでも、それをやろうというのだ。
 
「……これから、どうされるのですか?」
「私は、地球に戻ります。
 私は、あそこにいなければならない、そんな気がするのです」
 
 準備が進められる間、アイシャとジークリンデが言葉を交わす。
 ジークリンデの言うその場所とは、理子とジークリンデが出会い、そして再会を果たした森のことであった。
 何かは分からないが、そこには自分を引きつけるものがある、そうジークリンデは言った。
 
「そうですか。では、しばしのお別れ、ですね。
 ……また来年、ここでお会いできるといいですね」
「ええ、そうですね」
 
 お互いに別れと、そして再会を願う言葉を交わした時、理子とセレスティアーナが準備が終わったことを伝える。
 
「皆さん、ご協力いただき、ありがとうございます。
 それでは、本日最後の歌、皆さんで一緒に歌いましょう」

 
 マイクを手にしたアイシャが、今日の出場者に呼びかけ、そして会場を訪れた観客へも呼びかける。
 
 
 ――「私」は、「あなた」を幸せにしてあげたい。
 自分を犠牲にして、誰かを幸せにしたいと思っている「あなた」を。
 
 大丈夫、「私」にはそれができる。
 きっと「あなた」に幸せを運んでこられるはずだし、「私」も幸せになれる。
 
 さあ、蒼く澄んだ空へ羽ばたこう。
 「あなた」の幸せを探しに。「私」の幸せを探しに。
 
 そして、帰ってきた「私」を出迎えた「あなた」に、こう言うの。
 「あなたと私の幸せ、見つけたよ」――。

 
 
「うぅ、寒ぃ。早くコタツであったまりてぇなぁ」
「もー、ニーズヘッグさん、すっかりコタツが気に入っちゃったね?」
 
 会場の大合唱が聞こえる中、その上空を回遊するニーズヘッグの背に乗り、るるが光術で作った光の球をばら撒く。
 撒かれた光の球はふわふわ、と地面に向けて落ちていき、会場の皆をほんのり、と照らしていた。
 
「ニーズヘッグさんは、2021年はどんな年にするか決めてるの?」
「あぁ? どんな年ったって、なるようにしかなんねぇだろ」
「ダメダメ、こういう節目の時に、これからの事をちゃんと考えるのは、とっても大切な事だよ?
 ……そうだ、校長先生とか、他に契約したみんなと、たくさんお話した?
 お互いのことをもっとよく知る、そんな年にしてみるのもいいんじゃないかな」
「ふーん、そんなもんかね。……ま、知らねぇよりは、知っといた方がいい気がするぜ。
 んじゃ、テメェは2021年、何すんだ?」
 
 ニーズヘッグの問いに、るるが2021年にやろうとしていることを告げる。
 
「るるはね、新天地を目指して大学受験しようと思ってるの! ちゃんと下宿先も探してるんだよ」
「……ダイガク? なんだそりゃ。よく分かんねぇが……なんとなく、そいつをやるためにイルミンスールを離れるつもりなのか、ってのは想像つくぜ」
「うん、だから、来年は会う機会減っちゃうかもしれないけど。
 でも、次にフレースヴェルグさんやラタトスクさんの所に行く時は、るるも必ず連れてってよ。約束ね!」
「ああ、分かったよ。テメェを連れてかねぇと、オレが面倒なことになりそうだ、ってのも想像がついた。
 テメェもオレも、どこにいるかはそん時次第だろうが、連れてくさ」
 
 会場では、合唱が終わり、いつまでも鳴り止まない拍手が続いていた――。
 
●歌合戦終わって……
 
 『理子とジークリンデの再会』という一大イベントの興奮冷めやらぬ会場は、そのまま年越しカウントダウンイベントへと移行していた。
 その最初に、紅白歌合戦の最終結果が発表される。
 
「参加者に偏りがあるため、紅組、白組、それぞれの平均点で発表します。
 結果は……
 
 紅組:47.75
 白組:49.33
 
 白組の勝利です!!」

 
「フッ……私が参加した以上、当然の結果であろう」
 いつの間にか白組の代表ということになっていた(事実、母体数が少ないところに60点を叩き出し、平均点を大きく押し上げた)ジェイダスが、彼のために用意された薔薇の花束を受け取り、観客に向けて微笑む。それだけで、会場の約半数は卒倒し、残り半数の内の何割かも、いけないと思いながらも心動かされてしまう。そういうところも、他の校長(一緒に歌った者も含む)の点数が軒並みカットされる中採用されたのも、ジェイダスの美しさ所以である。
 
「次は、最も高得点を獲得した出場者の表彰です!
 ……見事、53点を獲得した、『SNOWMAN HOLIC』の皆さん、どうぞ!」

 
 スポットライトを浴びて、メンバーである美央鬱姫ジョセフタニアがステージに進み出、それぞれ表彰を受ける。
「母上の勇姿、拙者、しかと見届けたでござる! 拙者、涙が止まらなかったでござるよ!」
 花束の贈呈役を自ら引き受けたスノーマンが、歌の場面を思い出したか、目に涙を浮かべながら美央に花束を渡す。
「ジョセフ、カヤノさんは?」
「カヤノサンなら、ミーに伝言を預けて行ってしまいマシタ!」
 言ってジョセフが、カヤノから預かった伝言を美央に伝える。何でも、「ミオとみんなとで作ったステージに、あたいが出てって水差すのもね」だそうであった。
「カヤノさん……」
 「ジョセフから話する時間作ってって言われたから、作ってあげる! 待ってるから、来なさいよね!」と言い残していったカヤノを思い、美央が呟く。
 
 そして、表彰が終わり、ステージがカウントダウンイベントへ進行する中、美央はカヤノの指定した場所へ急ぐ。
 観客席の一つに座っていたカヤノが、美央の姿を認めて立ち上がる。
「おめでと。ま、あんたたちのステージ、すごかったもんね。優勝して当たり前よね。
 うーん、あたいも頑張ったんけどねー」
 ティアと組んで出場し、その時の最高点を叩き出すも敗れたことを言うカヤノに、美央が受け取った花束から一輪花を抜き取り、カヤノの髪に挿す。
「カヤノさんのおかげで、優勝できましたから」
「……そっか。うん、ありがと、ミオ」
 
 その後二人は、ニーズヘッグ襲撃の時の話など、積もる話を年が明けるまで延々と続けていた――。
 
 
「今年も終わるのね……」
 年越しというイベントに皆が沸き立つ中、李 梅琳(り・めいりん)がぽつり、と感慨深げに呟く。
 今年は、シャンバラの統一が果たされた記念すべき年。そのこと自体は、皆で喜びを分かち合うに足る出来事だろう。
 無論、統一を果たしてそれで終わりではない。外部、主にエリュシオンからの抵抗が予想されるだろうし、内部にもまだまだ抵抗勢力が存在していることも予想できた。
 それらからシャンバラの民を護るという“任務”が、教導団に組する者たちには用意されている。
 
「お、いたいた。梅琳、ちょっと休憩しない?」
 
 そこへ、橘 カオル(たちばな・かおる)が顔を出す。肩から提げた魔法瓶を示して、にかっ、と笑うカオルに、梅琳も表情を緩めて頷く。
「そうね。そうしましょうか」
 
「……あー、身体に染み入るぜ」
「ええ。それに、いい香りがする。心が安らぐわね」
 
 魔法瓶の中身、ハーブティーを口にするカオルと梅琳。
 容器から、そして口をつけたそばから、ほわん、と湯気が立ち昇る。
 
「梅琳は、今回のシャンバラ独立についてどう思う?」
 
 カオルの質問に、梅琳が予め考えていたことを反芻するように答える。
「喜ぶに足る出来事だと思うわ。当初の予定とは異なったかもしれないけれど、シャンバラが国として成立したことは、教導団にとっても益になるでしょう。
 同時に、これで終わりではない、とも思うわね。エリュシオンのこと、寺院のこと。問題は山積しているわ」
 
 そう、これで終わりではない。
 国として成立を果たしたシャンバラだが、今後はより一層、エリュシオンからの圧力が予想される。近頃は鳴りを潜めている鏖殺寺院も、このまま終息していくとは思いがたい。今年も一波乱あったが、来年も一波乱、それ以上の波乱が予想された。
 
「そっか。ま、オレは今までと変わらず、梅琳の傍にいるだけだぜ」
「か、カオル! 恥ずかしいことを言わないで」
 
 カオルの言葉に、梅琳がポッ、と顔を染める。
 そして二人、会場の盛り上がりを遠くに、何を言うでもない、しかし何も言う必要のない満たされた時間を過ごす。
 
「……っと。いよいよだな」
 モニターに『10』の数字が映し出されたのを見、カオルが身を乗り出す。
 
『……5、4、3、2、1……0!!』
 
 会場が一体となってカウントダウンを行い、そして0になった瞬間、夜空に花火が打ち上げられる。
 冬の空に花開く様は、見る者を惹きつける。
 
「カオル、あけましておめ――」
 
 そして、梅琳がカオルを振り向き、新年の挨拶を……と思った矢先、カオルが顔を近づけ、唇を梅琳の唇へと押し当てる。
「!――」
 何が起きたのか分からないまま梅琳がそれを受け入れ、やがて事の次第に気付いてカオルを突き放す前に、カオルが自ら身を引き、にかっ、と笑って言葉を紡ぐ。
 
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
「…………もう。
 そう言われては、文句も言えないわ」
 
 拗ねたような表情を浮かべ、梅琳があけましておめでとう、と言い、カオルの唇に唇を寄せる――。