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わたげうさぎの島にて

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わたげうさぎの島にて

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【8・なにが正しいかの判断は、究極のところ自分でするしかない】

 うさぎたちを完全に振り切ってからも、しばらく飛び続けていた花音一行だったが。
 妙な体勢で乗るはめになったエメネアが、すこし酔ったようなので。一旦降ろしてもらい、いまは歩きで貴族の別荘へと向かい。
 その途中でルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と鉢合わせしていた。
「こんにちは、花音さん。じつは特戦隊に入れて欲しくてここまできちゃったよ」
「そうなんですか? 勿論いいですよー」
 ルカルカに花音はふたつ返事であっさりOKを出し。
 喜んだ彼女が焔のフラワシと、僥倖のフラワシを出現させれば、花音もストロー・ボブに会釈をさせて返してあげていた。そのまま手を取り合ってくるくるはしゃぐ彼女達に、ダリルは冷静に。
「ふたりとも、遊ぶのはそのへんでいいだろ。それで花音、例のダーツがあの別荘にあるのは間違いないんだな」
「ええ。お告げでそう聞きましたから」
「……そ、そうか」
 その言葉には、ダリルはもちろんルカルカもすこし心配になったが。
「とにかくっ! ダーツ確保にも、謎を解く為にも、まずはこの島で何が起こっているかを把握しないとね」
「はい。おそらくあの別荘の主人はそれを知っている筈です。なんとしても聞き出しましょう」
「なんだかずいぶんと、にぎやかだね」
 と、そこへ新たに顔を見せたのは甲斐 英虎(かい・ひでとら)甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)
 もっとも顔を見せたといっても。ユキノのほうは、いつも以上にもじもじおどおどしていて。英虎の制服の裾を軽く握りながら、その背中からちょっと顔を出すだけで。
 ダリルの顔を見て、ぴゃっと後ろに隠れてしまい。ダリルは表情にこそ出さなかったが、わずかにせつなくなった。
「あの、花音様。あたしも、ブライドオブダーツは必ず手に入れられるように頑張るのです。ダーツは普通のダーツの大きさのものなのでしょうか? それに、なぜこの島の吸血鬼の方が所持されているのかご存知なのですか?」
「ダーツは普通の大きさらしいですよ。吸血鬼のことも含めて、お告げが教えてくれましたから間違いないです」
 道すがら、英虎の後ろについたままダリルは花音へと問いかけてみたが。
 相変わらず根拠は『お告げ』ばかり。これでは電波人あつかいされても仕方ないのではと英虎は思いつつ、
「花音ちゃん、そのお告げって一体何なの?」
「え? そんなに皆、お告げについて知りたいですか? もーしょうがないですね。それじゃあ教えてあげます。まず天から女性の声が降ってきてですね……あたしに指令を送ってうんたらかんたら……ブライドシリーズの場所を教えてくれてかくかくしかじか……」
 質問には天真爛漫で自信満々に応えてくれる花音に、しばらく清聴していたものの。
 何分も話しつづけられて内心冷や汗を垂らし、
「ふ、ふぅん。それっていつ頃から聞こえ始めたの? もしかして前にポータラカ人に山葉と拉致されたって頃からなのかな? それとも、もっと前なのかなー?」
「ああ。それならさっきも聞かれたんだけど、たぶん拉致された時からかもしれないです。あたしも、うろ覚え状態ですけど」
「じゃあ、ブライド・オブ・ブレイドを手に入れたのもそのとき?」
「ええ。たぶん」
 そのあたりはなんともアバウトな花音に、いい加減付き合いきれなくなったので。会話を打ち切った。
「ブライドオブシリーズを全部集めてどうするのか……どうなるのかなー……」
 そして珍しく真面目な顔でぽつりと呟きながら、
 今度は面識があり、まだマトモそうなリフルに向き合った。
「そもそもブライドシリーズって何なの? リフルはそういう事に詳しそうだと思うけど、何か知ってる?」
「え? そう言われても……最強の光条兵器であることと、全部集めるとなにかが起きる、みたいな話くらいしか知らないわね」
 申し訳なさそうなリフルに、英虎はべつのことを質問することにした。
「そういえば前にティセラが、花音はブライドオブシリーズを使えないって言ってたけど」
「……? そんなことないわよ。それ単なるデマか、ティセラの嘘じゃない?」
「あ、あれ。そうなの?」
 なんだかんだと話をしていくうちに、ついに目的地へと到着した。
「ここですねぇ。一体誰がうさぎさんたちを苦しめてるのか知りませんけど、ただじゃおかないですぅ!」
 乗り物酔いから復活し、怒りに燃えるエメネアは勢いよく扉を開け放った。
「うーん。すぐ傍の部屋から、なんだか宝の気配と怪しい気配がするよ」
 イナンナの加護とトレジャーセンスを併用中のルカルカの言葉を聞くなり、エメネアは一気に特攻しようとしたが。そこは花音とリフルが両腕をつかんで静止させる。
「そう焦らないで。入ってすぐのところは、真っ先に怪しむべきですよ」
「……そうね。ほかに怪しいところはない?」
「あ。こっちからも、宝のかんじはしていますけど」
 同じくトレジャーセンスを使うベアトリーチェが、ホールの先に伸びている広い通路を指差した。
 どっちへ行くべきか悩んだ一同だが、大人数で狭い部屋へ行くよりは見通しのいいほうを選んだほうが安心ということで。ホールの先へと歩みを進めることになった。
「そういえば、この別荘の貴族ってどんな人?」
「……博物学や考古学に関心が強い人らしいわ。あとうさぎが大好きで、その嗜好からわざわざこの島を買い取ったとかどうとか……でもあまり社交的でもなかったみたい。情報はその程度ね。たいしたことじゃなくて悪いけど」
 ルカルカの問いかけにリフルは答えていたが、
「あ、そうだ。敵はナラカとか帝国の手の者かもしれないよね。例えば地図にタシガンと帝国との直結穴や、ザナドゥやナラカの別世界との繋ぎ目とか、超絶重要なポイントが載ってるかもしれないし。絶対地図を敵に渡しちゃダメだよ」
 そう念押しされたとたん、思わず立ち尽くしてしまった。
「……えーと。言いにくいんだけど」
「ほえ? どうかしたの?」
「いま私、その地図持ってないの。調査してた皆に預けてきちゃって」
「えええええ!? そ、そんな! どうするの! リフルだけはしっかりしてくれてると思ってたのに!」
「……ご、ごめん。あのときはラーメンに夢中になってたりしてたし。いくら調べても大したことはわからなかったし」
 たじろぐリフルに詰め寄るルカルカは、
 目の前が真っ暗になった。
 それほどの心境になってしまったのは事実だったが、いまは本当に別荘の照明が暗転したのである。エメネアが黄色い叫び声をあげ、全員に警戒態勢に入る。
「みんな落ち着いて! パニックになったら相手の思う壺だよっ!」
 美羽はすぐさまダークビジョンを使い、周辺を見渡して。
 さらにベアトリーチェは殺気看破で見えない敵にも意識をむけておく。
 ダリルも光精の指輪で光源を確保し、周囲を照らしてみれば。
 通路の奥に、なにかがいる。
「あれは、なんだ?」
 目をこらしてみれば、一羽のわたげうさぎがちょこんと座っていた。
 こんなときでなければ可愛らしい印象だが、さすがに今は怪しさが勝つ。
「敵のフラワシだよ、ダリル!」
「さっきの、青白いのがうさぎさんの後ろに!」
 ルカルカと花音の警告は同時だった。
 コンジュラーたちの声に真っ先に反応したのはダリル。魔道銃による一撃を、不可視の敵へ向けて放つ。
「おしい、外れた! よぉし、焔ちゃん! 行って!! ダリルは右から!」
 ルカルカはウルクの剣を構えながら、自分のフラワシをさしむけ。青白フラワシを追い詰めていく。
 花音特戦隊も加勢したかったが、この暗闇では同士討ちになりかねずヘタに動けない。
 護衛にまわっていた英虎は、子守唄で敵を寝かせられないか試していたものの。敵どころかわたげうさぎも寝ておらず、うさぎは通路を走りまわりながらこっちに跳んでくる。
 英虎は、ユキノや花音たちを背にしながら持ってきたサイコロを投げつけてやる。
 もちろん攻撃でなく単に怯ませるためのものだったが、意外にうまくいってうさぎは壁際の扉を抜けて逃げていってしまった。
「ふふ。俺もオトコノコだから、弱っちくても花音ちゃん達の方がずーっと強いよって分かってても、女の子は守ってあげたいんだよねー!」
 ちょっと誇らしげな英虎だったが、急にユキノによって、
「あぶない!」
 服を思い切り引っ張られて床に後頭部を打ちつけた。
 なにがおきたのかわからない英虎の頭の上を、棍棒のようなものがかすめ。それでやっと暗闇の中になにか別の敵がいることを察した。
「っ、敵はフラワシだけじゃなかったのね!」
 ダークビジョンを続行中の美羽は、闇で蠢く人影にすかさず反撃として天の刃を飛ばし。
 ベアトリーチェも殺気を感じる位置めがけてヘルファイアをはなった。
「ぐあっ!! くっ、この……」
 相手はたまらずうめき声をあげ、そしてその隙が致命的になった。
 美羽はその場で軽く跳躍し、ミニスカートをはためかせながら中空でバーストダッシュを使った。さらにレガースから爆炎波を放ち。スピードと火炎攻撃を混ぜた渾身のとび蹴りを、人影の首筋めがけて叩き込んでやった。
 当然喰らったほうはたまったものでなく、きりもみ回転しながら床と壁をバウンドし。動かなくなった。もちろん死んだのでなく気絶しただけのようだが。
 と、急に電気がまたついた。
「っ!」
 いきなり光が戻ったせいで、全員目がくらんでしまった。
 くらんでいた時間はそれこそほんの五秒くらいだったが。
 少しして目がなれてきた花音は周囲を見回して、
「え」
 絶句した。
 なぜなら。
 青白フラワシが皆がまごついている隙に逃げていたから――ではなく。
 襲ってきたもうひとりの人影が執事の服を着ていたから――でもなく。
 リフルがいつの間にかこの場からいなくなっていたから――であった。