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恐竜騎士団の陰謀

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恐竜騎士団の陰謀
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12.じゃあその恐竜でいいわ



「実にうまい事いくもんだね。一人一人には作戦の断片しか伝えてないのに、うまく型にはまるもんだ」
 遠巻きに極光の谷を眺めながら、九條 静佳(くじょう・しずか)は感心したように言う。
「色んな事を一度にやろうとすると効率落ちるじゃない。頭の中も同じようなものよ、色々考えることがあると効率が落ちる。だから、個人は個人に必要なことで頭をいっぱいにさせてあげれば、いい結果になるわよ。あとは、その手綱を握る人の手腕次第ね」
 今回の黒幕の一人である伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、混乱する恐竜騎士団の面々を眺めてほくそえむ。極光の谷から出ていったトラックの一団とは別に、様々なトラックが走りまわっているせいで、後続の追撃部隊が迷走しているのだ。
「それじゃ、そろそろ仕上げね。やる事、ちゃんと頭に入ってる?」
「分割された追撃隊を一つずつ潰していく。こっからは力仕事だね」
 ダミーのトラックには戦闘能力は無い。あくまで時間稼ぎだ。
 それに、風紀委員にはやられるまでは地位の保証がされる。というルールがある。これは安直に、文句があるなら倒せ、と言っているようなものだ。さすがに、騎士団をまとめて相手にはできないが、迷走して細かく分散されたものなら勝算は十分にある。
「恐竜に乗ってキマクを駆け回る私の舎弟とか、結構刺激的で面白いわよね」
「………それだと、支配者が変わるだけではないか?」
「あんなトカゲ男よりはずっとマシよ。それじゃ、新入りにパラ実の洗礼を受けて貰おうじゃないの」

「ひゃっはあっ♪ 教導団じゃあるまいし、風紀委員とかばっかじゃないの?なのだ」
 スプレーショットで弾をばら撒き、足の速い小型の恐竜に乗った小隊の動きを足止めする。恐竜相手なら、氷属性を持った禍心のカーマインは効果絶大だ。
 適当に攻撃したら、
「恐竜騎士団って、恐竜並みの脳みそしかないからそう呼ばれてるんだよね〜♪」
 と口撃をいれて、距離を取る。今のところ屋良 黎明華(やら・れめか)の予想通り、いい感じに足止めができていた。こうして致命打にはならない追いかけっこを繰り返すと、堪忍袋の許容力が少ない奴が一人か二人突っ込んでくる。
 そうなったら、必殺のガンナーガールシューティングを額にプレゼント。こうして数を減らしていく。頭に昇った血も冷えて、むこうも願ったり敵ったりだろう。さすがに恐竜騎士団か、直撃してもせいぜい恐竜から落ちるぐらいだが、足さえ奪えば黎明華の目的は十分達成する。
 しばらくおいかけっこを続け、なんとか六人組を全員恐竜から落としてあげると、もう十分と黎明華は彼らを置いてその場を離れた。
「そろそろみんな逃げ切れたはずなのだ。黎明華も伏見さんと合流してそろそろ帰るのだ」
 極光の谷の襲撃が始まった時から、黎明華はずっと戦いっぱなしだ。十分楽しめたが、さすがに疲れた。増援がこれ以上くるかもしれないし、体力があるうちにオサラバといきたいところである。
 そんな黎明華を、ぬっと影が覆う。
 太陽が雲に隠れたのではなく、巨大な何かが太陽の光を遮ったのだ。こんなところで、突然大きなものと言ったら恐竜ぐらいしか思いつかない。
 黎明華が振り返ると、全貌が見えないぐらい巨大なブロントサウルスがこちらを見下ろしていた。
「やっ、やばいのだ」
 あんな超ド級の巨大恐竜ともなると、倒す倒さないの前にどう戦えばいいかわからない。誰かイコン持ってこい、だ。とにかく逃げないと、と背を向けようとした黎明華に向かって、
「黎明華ちゃん、こっちこっち」
 と、聞き覚えのある声が届く。え? と思ってよく見ると、ブロントザウルスの頭の上に明子と静佳の姿があった。ブロントザウルスはゆっくり頭をおろしてきたので、少しびくびくしながら手招きする明子と一緒に頭の上に乗る。
「伏見さんがどうして恐竜の頭の上にいるのだ?」
「カツアゲしてきたの」
「コレに乗ってた恐竜騎士をぶちのめしたんだよ。それで―――」
「俺が説得した」
 自慢げな口調でレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)が言う。今はセーラー服となって明子に装備されているが、かつては竜であり恐竜とは親戚みたいなもの、らしい。
「ほんとは、倒した奴も舎弟として頂くつもりだったんだけどね。幸せそうに夢みてたから、起こすのは可愛そうだなって思ったの」
 うふふ、と可愛らしくそんな事を言うが、たった二人でこの大物を倒してきたのだとすると、その笑顔が怖い。
「邪魔になりそうなのはあらかた片付けてきたから、あとは逃げる人たち次第ね。それじゃ、この子に乗って帰りましょ」
「わかったのだ」



「よし、射線に入った! 離れろ!」
 フォルテュナ・エクスの声が聞こえてすぐに、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が離脱する。巨大な恐竜にはそんな機敏な動きはできず、イコン用のアサルトライフルの餌食になって墜落した。
「やっと終わったぁ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がへなへなとその場に座り込む。身動きのほとんど取れないトラックの天板の上で、襲い掛かってくる恐竜騎士団との戦いは、気を遣わないといけない部分があちこちにあり、体力も気力もかなり消耗してしまった。
 そのうえ、恐竜に有効な一撃を加えるには場所が悪く。うまく立ち回りながら、なんとかフォルテュナの構えているイコン用アサルトライフルの射線に押し込まなければならない。
「これで同じ規模のものがもう一度来たら、さすがに守りきれる気がしないな」
 エヴァルト・マルトリッツが遠くを見ながら言う。とりあえず、増援の姿は無い。
「このまま一気に逃げ切りたいところだな」
「もう間もなくだと思うけど………あれ? なんだろう?」
 コハクが進行方向を指差す。見てみると、人だかりができている。場所はイルミンスールの森のすぐ手前だ。人だかりのほとんどは、モヒカン頭で統一されている。
「逃げてきた人たち、かな?」
「足止めを食らっているようだな」
 人だかりの少し手前で、知恵魂暴夷を止める。
「ちょっと見てくるね」
「あ、僕も」
 コハクと美羽の二人が人ごみを抜けていくと、やはり足止めを食らっているらしく、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)の二人が道を塞いでいた。
「いいからどけっつってんだろうが!」
 二人に向かって吠えているのは、ゲブー・オブインだ。
「あんたたちは今日までやりたようにやってきたんでしょ。因果応報よ! いいじゃない、自浄作用ができたんだからしっかり更正してきなさい!」
 エリスもエリスで、きちんと言い返している。
「ふざけんな! てめぇらには人の心ってもんがねぇのか!」
「あるわよ! 愛と正義と平等の名の下に! この神聖なるイルミンスールに侵入せんとするパラ実は許さないわ!」
 舌戦はいい感じにヒートアップしている。割って入るのはかなり危なそうだ。
 パラ実の横暴に対して、溜め込まれた怒りの貯金がついに満額に達してしまったのだろう。しかし、今は緊急事態である。なんとか通してもらわないといけない。
「恨むんなら、これまでの自分達の行いを恨むのね!」
「んだとこのやろう!」
「野郎じゃないわよ!」
 しかし、これにどうやって割って入ったものか。
「ちょっとちょっと」
 ぽんぽん、と美羽の肩が叩かれる。
「はい?」
「貴方達も逃走組み?」
 声をかけてきたのは、先ほどまでエリスの隣に居たアスカだ。
「あ、はい。そうだけど」
「そうなんだ。パラ実生には見えないから、他所のところから手を貸しにきた感じ?」
「うん」
「まぁ、見ての通りなんだけど。私としても、パラ実の生徒を受け入れるのは嫌なんだよね。問題児ばっかだし。けど、今回は通してやれって話になっちゃってるのよ。でも、それでやっぱり私達の学校が荒れたら嫌じゃない?」
 アスカの言うことには一理ある。というか、今までが今までだけに重みが違う。
「怪我人は仕方ない、あとうちの生徒が関わってるのも放っておくわけにはいかない、って事で渋々通してきたんだけど、あの連中がねー。まぁ、そんなわけでエリスの怒りが収まるまで誰も通れそうにないかなー。うまーく遠回りしてなんとか頑張ってよ」
「そんな」
 美羽達もやっとの事でここまでたどり着いたのだ。それに、恐らくまで追っ手はきているだろう。ここから遠回りなんてできる余裕は無い。
「だったら、これを」
 と言いながら、コハクがロイヤルガードエンブレムを取り出してアスカに提示した。
「これで、僕達の身分が保障されないかな?」
「あー、なるほど。そうきたかー。んー、そういう話なら、ちょっと待ってね」
 アスカは二人のもとを離れると、エリスのところに言って何かを耳打ちする。それから二言三言のやりとりがあって、アスカが戻ってきた。
「とりあえず通してあげるってさ。よかったね。団体様ご案内、それじゃ私についてきてよ。この先に落とし穴あるから、私の言う通りに進む事。いいね?」
 美羽とコハクは、しっかりと頷いた。
 恐らく、本当に落とし穴が用意してあるのだろう。そして、静止を振り切って乗り込もうとした相手が落ちても、事故として片付けるつもりなのだ。本当に、心の底からパラ実生を歓迎してはいないらしい。
 隣人に迷惑はなるべくかけないようにした方がいいんだな、と二人は学んだのであった。