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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【2】奇奇怪怪……9


「よくわからん連中に時間を浪費されたがまぁいい……目標はすぐそこだ! 確保だ! 教導団の意地を見せろ!」
「サー! イエッサー!」
 メルヴィアの命令とともに、教導団所属の面々が飛び出した。
 鋼鉄の獅子の橘 カオル(たちばな・かおる)ルカルカ・ルーは彼女を護るべく展開。
「なんだ、このキョンシー……初めて見るタイプだ」
 カオルは腰だめに構えた刀『獅子咬』に手をかけ間合いを計った。
 硬直した手足でコトコト歩く姿は可愛らしくも見えるが、元より獰猛なヘルハウンド、油断すればこちらの命がない。
 カオルとルカルカは目でタイミングをとり、一気に攻勢に出る。
 ルカルカのゴッドスピードの発動と同時に、カオルは神速抜刀でまず正面の敵を斬り伏せた。
 右耳から左顎にかけてひと太刀、ドス黒い血が広がった口から漏れる。
 がしかし、無属性の一撃では致命傷には至らない。
 飛びかかるハウンドの牙を受太刀で流し、刹那の隙を突いて鋭い蹴りをその腹に叩き込む。
「ぐっ……!」
 脚にずんとのしかかる鈍い手応え、キョンシーと化した彼らの肉は恐ろしく強固だ。
「カオル、頭を下げて!」
「ルカさん……!」
 咄嗟に身をかがめた彼の頭上に、レーザーナギナタによる疾風突きが放たれた。
 正面から一刀両断、敵は2つに分かれて飛び散った。
「次っ!」
 続いて左右から迫るハウンドの首を円を描く動作で刎ねる。
 清流の如き、美しい刃の軌跡にメルヴィアも「ほう……」と息を漏らした。
「た、大尉が感心している……!」
 滅多に見せない鬼将校の表情にカオルはガガーンとショックを受けた。
「お、オレも褒められたいぞっ!」
 と言いながら、突っ込んでくるハウンドの首根っこを持って一本背負い。そのまま暴れる敵を押さえ込む。
「く、くそー、オレの攻撃じゃ決め手に欠ける……! ルカさん、頼むー!」
「はいはい、任せ……」
 そう言った瞬間、光の銃弾がこちらに飛んできた。
「うわあっ!!」
 あわててメルヴィアとルカルカを抱きかかえ、カオルは倒れ込むように飛んだ。
 回避は成功。巻き込まれたハウンドは蜂の巣になって崩れ落ちた。
「な、なんなんだ一体……」
 おそるおそる目を開けたカオルは目前に広がる山脈に息を飲んだ。
 ぷるるんと波打つこの白く柔らかな女体の神秘……そう、これが教導団の誇るメルヴィア山脈である。
「貴様、いつまで私の胸に乗っている。殺すぞ」
「うわわあああっ! し、失礼しました!」
「あーらら、上官に手を出すなんて……彼女に言ってやろぉー」
「ルカさん、それはガチでやめて!」
 カオルは真顔で言いつつ、銃弾の来た方向に目をやった。
「ぎゃー、くるなくるなくるなくるなー!」
 麻上 翼(まがみ・つばさ)は泣き叫びながら、光条兵器のガトリングを乱射している。
 相棒の月島 悠(つきしま・ゆう)はと言えば、崩れかけた柱に身を隠し、どうしたものかと頭を悩ませた。
 普段は普通の女の子だが、制帽を着用すると軍人モードとなる特異体質の持ち主だ。
「ここに連れてきたのは失敗だったか。そう言えば、翼が心霊現象に耐性がないことを失念していた」
「でも、結構役に立っている気がするわ……」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)も身を隠しながらポツリと言った。
 彼女はニルヴァーナ探索隊以前、ブライドシリーズの探索を行っていた『花音特戦隊』の一員だった。
 既に解散してしまった隊だが、彼女は今ひとつ解散に納得しかねていた。
 隊長の出産(?)のため解散したのに、任務の引継ぎや隊の再編あった様子もない。
 それ、任務放棄っちゅうんやないかい、と言うのが主な腑に落ちない理由だった。
 それゆえ、自分まで当初の目的を放り出すわけにはいかない、と鳳明はこの探索隊に志願したのだ。
「役に立っている、か……。まぁそう見えないこともないが……」
 たしかに乱射された光弾はハウンド達から次々と原型のない肉塊を量産していた。
「ただ、こっちも危ないぞ。あれは」
「なに、これぐらい派手なほうが、戦いが盛り上がるってもんよ」
 鳳明は柱から飛び出し、光弾の雨をかいくぐりつつ……ハウンドの手足を狙って回し蹴りを放つ。
 脚を伝うは頑強なキョンシーの手応え、彼女はビリビリと身を振るわせた。
「い、痛ぁ〜〜っ!」
 2度3度と打ち込むが、やはり素手でダメージを通すのは困難だ。
 こちらは反撃の牙を凌ぐので精一。練気で呼吸を整え動きを悟られまいとするも、動きを正確に読んで仕掛けてくる。
 彼らが読むのは、呼吸をしているかしていないかのみ、していれば多少変化させたところで感知されてしまう。
「くっ! ダメージが通らないなら……!」
 鳳明は一旦間合いをとった。距離は十分、群れをなす敵は一斉に迫ってきた。
 狙うは一撃。カッと目を見開き、先頭のハウンドに渾身の掌打を打ち込む。
 無論、ダメージは通らないが衝撃に飛ばされ、後続のハウンドたちを将棋倒しに一気に崩してしまった。
「琳少尉め……無茶をしてくれる。しかし、これで勝利への軌跡が見えた」
 悠はグレネードランチャーで倒れた敵を一掃。
 連続して起こる爆発……そしてバラバラに吹き飛ばされたハウンドの残骸が上からパラパラと降り注いだ。
「全滅完了!」