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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【2】奇奇怪怪……5


 異様な気配が立ち込めた。背後からとんとんと言うあの足音が聞こえる。
 メルヴィアは敵の姿が見えるよりも早く隊員に命令を下した。
「敵襲だ、三等兵ども。各員、両翼に展開しろ。各個撃……」
「各個撃破で退路を確保するんだ! 探し物を見つけてもキョンシーに囲まれていましたじゃ笑い話にもならないぞ!」
 完全に台詞をかぶせてきたのは、ロイヤルガードの葛葉 翔(くずのは・しょう)だ。
 普段と同じ調子で檄を飛ばしてしまったが、無論のこと本来の指揮官殿はお冠である。
「貴様、上官の命令を遮……」
「戦闘になれていない奴は一人で戦おうとするな、複数人で戦うんだ!」
「だから、私の台詞を……」
「腕に覚えのある奴は前に出ろ、シャンバラとエリュシオンに名前を売るチャンスだぞ!」
「アイツすげーな……」
 サイボーグ戦士エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は思わず呟いた。
 が、しかし、メルヴィアの形相が般若化してるのに気づき、はっと口をつぐむ。
「よ、よし! ひと仕事するか!」
 刀身の長いバスタードソードを腰だめに構え、引きずるように敵に向かう。
「正直、ブライドオブシリーズに興味はないが……、腕試しには絶好の機会だ……!」
 長剣のひと薙ぎで複数のキョンシーをまとめて壁際に押しやる。
 と、そこに先ほどの翔が聖化したグレートソードで一撃。強烈なひと振りで、屍人の四肢が壁に叩き付けられた。
 しかし、片腕を断たれ、頭の半分を失っても、キョンシーは平然と起き上がり攻撃を行う。
「む……!」
 繰り出される生き血をすする尖った牙と鋭い爪を、翔は直感力を高め紙一重で攻撃を避ける。
 彼らが翔に気をとられている隙に、エヴァルトはワイヤークローを放ち敵を捕縛。
 そのまま引き寄せ、煉獄斬の一刀で斬り伏せた。切断面から上がった炎にそのまま焼き尽くされ動かなくなった。
「なるほど。要は原型がなくなるまで破壊するしかないってことか」
「ああ、そういうことらしい」
「屍体を刻むのは趣味じゃないが……この状況じゃ甘えたことは言えないか……!」
 エヴァルトは手近の一体に剣を突き刺す。そのまま持ち上げ振り回し、近付くキョンシーを振り払った。
 それから、倒れた敵の上に突き刺した一体を叩き付けると、真空波で肢体をバラバラに吹き飛ばした。
 翔も大剣を手足の如く軽々操り、キョンシー達の手足を切り落とし行動を制限していった。
「うおぉぉぉ、俺がロイヤルガードだ!!」
 女王の剣でまとめて敵を微塵に切り裂き吹き飛ばす。
「何でわざわざ叫んだのかはよくわからないが……初見の敵でも余裕のようだな、葛葉」
「見ていてくれたか、このロイヤルガードの戦いぶりを! 俺と言うロイヤルガードの勇姿を!
「う、うぜえ! 暑苦しい……!」
 個人的には『ああ、お前もな』と言う台詞を期待していたエヴァルトだった。 
 しかし、戦闘能力に定評のある2者、これまで探索隊の集めたキョンシーの情報も相まって安定した戦いを見せた。
 とは言え、敵のデータが揃いつつあっても、まともに戦えない者もいる。
「きゃあああああああああ!!」
 BibiliGirlベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)の悲鳴が上がった。
 何を隠そう彼女、ホラーやオカルトが大の苦手なのだ……って、あなたの職業、陰陽師じゃないの!?
「こ、来ないでえっ!!」
 手当り次第に悪霊退散(お、陰陽師っぽい)を連発……が、パニック状態で放った技は6発中、命中が2発。
 しかも、護符のあと悪霊退散と言う手順を踏んでいないので、穢れを祓って完全に仕留めるには至っていない。
 襲いくる敵……だが、ベアトリーチェに触れる前に、キョンシーはバラバラになって床に落ちた。
「あわわわ……」
「腰抜けが。死にたいのか」
 メルヴィアはそう言って、頭を抱える彼女の前に出た。
 斬糸をブレスレットから引き出し、迫る敵の前で腕を素早く振るう……と、ピッと屍人の身体に亀裂が走る。
 次の瞬間、水風船が割れるように黒い血液が壁や天井にブチ撒けられた。
「……メルメルの武器は鞭じゃなかったんだ」
「あれは指導用だ。それとも、貴様はこっちの武器で仕置きをされるほうがいいか?」
「どっちもお断りよっ!」
 美羽はべーっと舌を出すと、先ほど平らげたバナナの皮を放り投げた。
 行動予測とトラッパーでもって、跳ねるキョンシーの足下に正確にバナナトラップを配置する。
 すると、踏ん付けた敵はスッテンコロリン。腕を前に突き出したまま、豪快かつ爽快に床に仰向けになった。
「ほら、見てよー! さっきバナナを食べてたのも別におやつ食べてたわけじゃないんだからー!」
「うだうだ言ってないでさっさと仕留めろ」
「む、む、むかつくー!」
 美羽は大分腑に落ちないのか頬を膨らませ、火炎放射器でキョンシー達を焼き払った。
 まあ正直、今一番焼き払いたいのは、後ろでふんぞり返っているメルヴィア以外にないのだが……。
ううう……むかつくーっ! 私の部下になったらものすごいイジメてやるんだからーっ!!
 イジメいくない。