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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション

 遺跡入口からは、むせ返るような熱気と、アルテミスの言葉通り不気味な気が漂ってくる。

「……暑いな……」

 遺跡がある山岳地帯は、どうやら火山帯であったようで、どこかでうねるマグマの低い音が響き、溶岩と地面が発する熱が充満している。
 絡みつくようなうっとうしい熱が、早速皆を悩ませる。
 そんなものを意に介さず、フレイムたんはぴょんととび上がって階段に足を踏み入れる。
 すると、フレイムたんを覆う炎と熱が消え、容姿だけ見るともはやただの犬となった。
 続いて、遺跡に人を招き入れたことで、フレイムたんの説明プログラムが反応する。
 ぴょこんと耳を立て、小高い岩に飛び乗ったフレイムたんから音声が流れる。

『希望を込めて、いつかニルヴァーナ再興に訪れるであろう人々に伝える……
私たちの街は、イレイザーと四体のモンスターに蹂躙された……
わたしたちは、我が故郷ニルヴァーナを棄てなければならない……
どうか、未来のあなたたちに、イレイザーを倒していただきたい……
このイレイザーは強力な結界で自らを覆い、到底わたしたちの力では太刀打ちできない……
イレイザーと共に来た3体のモンスターが、あなたたちの行く手を遮るだろう……
天井に溜まるガスを吸い火を吐く『別府』
地下水を吸い上げて毛穴から蒸気を発する『草津』
周辺の岩石を摂取して体内で溶岩に変えて吐き出す『下呂』
もう一つ。神殿には、『亀川』が居座っている……
氷属性のこれは敵かどうか分からぬが、利用すればあなたたちの役に立つかもしれない……
ギフトの力を、どうかニルヴァーナ再興のために……
わたしたちには時間がもうない……
伝えられるのはこれだけだが、どうかイレイザーを倒し、その奥にある……ブツッ

 音声はここで途切れる。
 フレイムたんはまた岩から飛び降り、数周回ってお座りをする。
 古代ニルヴァーナ人からのメッセージを受けた一同。

「イレイザーか……あれすげえ強いんだよな……」
「フレイムたんについては、あまりよく分からなかったな」
「うん、しかし……」
「なぜ名前が温泉……」

 偶然の一致と言うのは恐ろしいものである。 
 シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)は、いちいちキマッた所作で少し考えて顔を上げる。

「しかし、気になる……あの音声は『棄てなければならない』と言っておったし、メッセージを録った後はどこかに逃れるような口ぶりであったな。ニルヴァーナ人は絶滅したのではなかったのか?」
「それは……」

 シメオンの疑問には、黒崎 天音(くろさき・あまね)が仮説を立てながら答える。
 天音は、そのぬくもりを確かめるようにフレイムたんの頭を撫でながら、

空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)の例もある。脱出に成功したニルヴァーナ人もいたかもしれないよ? ただ、彼女でさえ本名を隠し、仮の姿で生きながらえたんだ。ニルヴァーナから逃れたとしても、僕たちがそれを見つけるのは絶望的と言っていいだろうね」
「ふむ。またそもそも、この録音の後脱出に成功したとは限らんしな……」

 シメオンは天音の仮説に納得しながら、フレイムたんに向かう。

「とにかく、必要なのは情報であるな。フレイムよ、まずは聞こう。ニルヴァーナが滅ぶに至った経緯……歴史を教えるのだ」

 ここに集う誰もが知りたいであろう、ニルヴァーナ滅亡の謎。
 フレイムたんからは、有益な情報が得られると踏んでのシメオンの質問である。
 が、問われたフレイムたんは、そっぽを向いて口を開け、ハッハッと息をするのみ。

「……? ふ、フレイムよ。ではイレイザーを倒すには何をすればよい?」
(みんなで戦えばいいと思うよ)
「ずいぶん大雑把な説明だな……ではフレイム。ニルヴァーナはなぜ滅びたのだ?」
(……)
「また無視か……」

 シメオンが頬を流れる汗を、手の甲で拭う。
 天音はくすくすと笑いがこみ上げながら、フレイムたんの耳を横に引っ張る。

「なるほど。インプットされてない情報は引き出せないか。では、これならどうかな?」

 天音は【スキルサポートデバイス】を取り出し、強化した【財宝鑑定】をフレイムたんにかけてみる。
 天音の後ろから、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が覗きこむ。

「天音、そんなスキルが通用するのか?」
「わからない。だがギフトについては謎が多いから、何が効果があるかわからないしね……それにしても、暑いな……」

 天音は湿った髪をかきあげる。
 汗が数滴髪の先から飛び、彼は服の襟を開いて風を煽り入れようとするが、服の中に入ってくるのは熱い空気ばかり。
 ブルーズは眉間にしわを寄せ、

「シャツをそんなにはだけるな、だらしない」

 と、【ブリザード】を調節して天音に涼を取らせる。
 周りでは、冷却系のスキルを使える者が周囲の者も含めて暑さの回避を手助けしている。
 が、ずっとスキルを使い続ける、というわけにはいかない。
 敵モンスターとの戦いも考えると、魔力が底を尽きないよう気を使わねばならない。
 天音は暑さにでなくうなだれて、

「やれやれ……ギフトのプロテクト技術は並ではないね。ギフトの情報はおろか、フレイムたんの力の解放の手順も分からない……」

 フレイムたんから引き出せる情報の限界が、天音によって明確にされる。
 天音は抱き上げたフレイムたんを向日葵の方に向け、

「さて、サンフラちゃん。どこから回ろうか? フレイムたんに力を示すのがギフト獲得のカギになるのなら、モンスターを倒すのも効果的かもしれない」

 と、フレイムたんの前足をぴょこぴょこ動かす。
 向日葵は意外そうな顔で、

「え? あたしたちと一緒に来るの?」

 いつも自由に動き回るため、彼がダークサイズ側なのか、向日葵側なのか立ち位置が謎の天音。
 今回はチームサンフラワーに紛れ込む心づもりのようだ。

「サンフラワーちゃーん。あっちに街みたいなのがあるよぉ〜。早く行こうよー」

 少し離れた岩の上から、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が手を振っている。
 妻との夫婦生活にいそしむ御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からノーンを託され、今回も向日葵と遺跡探索を楽しみにしている。

「はぁーい……ノーンちゃん元気だなぁ……」

 向日葵は汗をぬぐいながらノーンの方へ歩いてゆく。
 子供っぽい性格特有の元気特性なのか、彼女の冷熱耐性が強いからなのか、ノーンは汗一つかかずに走り回る。
 ノーンはフレイムたんにも手を振り、

「フレイムちゃんも一緒に行こー?」

 かまってくれる人にはすぐ反応するフレイムたん。
 天音の手から飛び出し、ノーンの方に駆けてゆく。

「おっと……そぉーらフレイムたん、まてまてー。うっふふふふ」

 と、フレイムたんを追って走る天音の目的は、あくまでギフトの謎を解明し、フレイムたんの力を突きとめることである。

「天音……いつにもまして、おまえというやつは……」

 ブルーズはため息をつき、天音を追って歩いてゆく。
 チームサンフラワーがフレイムたんと去ってゆくのを見て、

「あたし、フレイムたんをもっと探るわ。あたしがいないからって、勝手な暴走しないでよ。内偵監査部が見てんだから」

 菫がパビェーダを連れて、向日葵たちを追う。
 さらに、その様子を陰から見ていた柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)クレナ・ティオラ(くれな・てぃおら)

(フレイムたん……欲しいっ!)

 氷藍はノーンを追ったり天音に追われたりするフレイムたんを見て、

「愉快なおっさん(ダイソウ)になんとなく付いてきてみたけど……何だあのけしからんわんこメカは! 可愛いじゃんか! あんな純粋な存在を、ダークサイズと向日葵の闘争で汚してはいけないな!」

 続いてクレナも、氷藍に100パーセント同意して、

「氷藍もそう思いますよねっ! あんなにかわいい、あ、純粋で感情豊かなギフト。是非お友達に、あ、保護してあげなければ!」
「その通りだクレア! フレイムたん愛撫、あ、ギフト愛護の観点から、フレイムたんを保護するぞ。俺んちで!」
「ナイスアイデアです、氷藍! あの子は安全安心の私たちが、お持ち帰りして、あ、連れて帰ってあげるのです。ぁぁあ〜、見てください氷藍。フレイムたんがサンフラワーちゃんの顔を舐めてますぅ……いいなぁ〜」

 動物好きのクレナは本音をもらしながら、顔を赤くして身もだえしている。

「追うぞ!」

 二人もそれとなく、向日葵に合流していった。