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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【戦いの合間――急転】


 
 表面での戦いが佳境を迎え、アールキング内部での戦闘が開始されてから暫く。
 激しい激突が継続されているものの、それぞれの艦も部隊も正常に機能し、戦況は安定していた。

 最初の接敵時以来、極端な増援が向かってくることもなく、機影は確実にその数を減らし、抉られ、引き千切られたようにして垂れ下がる根の隙間へと潜り込むようにして、侵攻は続いている。
 イコンに乗る面々が、それぞれ交代で補給と整備のローテーションを組める程には、余裕があるといってよかった。

 そんな内の一機。
 右方に位置する戦艦ウィスタリアで、エネルギー残量を半数以下にまで減らしたゴスホークが補給のために寄艦していた。
 整備班と一緒に忙しなく動く桂輔は、エネルギーを補給されていくゴスホークを見あげて息をついた。
「損傷は殆ど無かったから、エネルギー補給次第、直ぐに再出撃できるよ」
「そうか」
 真司が僅かに息をつくのに、桂輔は少し笑ったが、直ぐにその表情を硬くする。
「くれぐれも気をつけて。多少の損傷なら修理できるけど……流石に中破となると、そうはいかないから」
 まだ機体が動くならいい。大破となれば、パイロットの生命が危険なのだ。じっと心配を告げてくる目に真司が頷くと、桂輔は息をついてぱたぱたと次の機体へと駆けて行った。
 幾つかの機体はエネルギーの充填待ちだし、各機の部下イコン達もそこそこに消耗が激しい。だが今のところ、彼等の中で大きな被害が出ていないことに、桂輔は僅かに安堵もしていた。
(あっちの機は少し機体を冷やさないと……あっちの補給は二分で完了するな……)
 データを取り、観察し、指示を飛ばす。
 修理し、補給し、調整をかける。
 そんな、最前線で見られるような激しさも、派手さもない仕事ではあるが、戦場が順調に安定を続けていられるのは、そんな桂輔たちの努力が有るためだ。
 修理を終え、再び戦場へ立てるだけの充分な手を尽くされた機体に、桂輔はその背中を押すような想いで、その装甲を軽く叩いて、発進用のカタパルトへと誘導し、接続していく。
「カタパルト接続完了」
 桂輔の言葉に、アルマがその後を引き継ぐ。
『接続確認――……進路クリア、発進してください』
 そんな二人の声に応える様に、真司は視線を戦場へ向けた。

「ゴスホーク、出る!」




 一方で、その機動性を活かし、先行して偵察中の鉄心の機体は、ソナービットを展開した広範囲の情報を収集しつつ、できる限りの戦闘を避けながら、根の影を滑りぬけるようにして、奥へと進んでいた。
 単騎では、強引に突破しようとした所でそこで力尽きるだけだ。情報の収集を優先させ、より正確な枝や根の状況、内部構造をデータ化して味方へと送っていく。
「手の内、全部見せて貰うまで帰らないからな」
「ここが正念場……ここさえ突破すれば……中枢まではあと僅かです!」
 呟く鉄心に、ティーが励ますように口にする。
 事実もう大分深いところまで、侵攻は進んでいる。このまま順調に推移すれば、そう時間もかからずに核へ至る道へと到達できるだろう。
 そう考えた時、ティーは不意に、アールキング自身のことについて、その思考は動いた。
「貴方も、貴方だって、同じ筈だったのに……どうして……」
 光条世界や、大世界樹からも、否定されていたアールキング。
 あらゆるものを利用し、犠牲にし、踏みつけて来たその末路はただただ虚しく、ティーには「可哀想」とすら思えるのだ。たとえばヴァジラがそうだったように、誰かが手を差し伸べれば、或いはもっと違う道があったのか。それともやはり、世界樹という生命は、もっと違う感覚の中で生きているのだろうか。
 眉を寄せるティーの横顔に、何を考えているのか察して、鉄心もふと息を漏らした。
「実際の所、新しい世界でも必要とされてはいない。哀れだな……」
 呟き、一瞬の沈黙が落ちる。
 モニターだけが、ちかちかと光を揺らし、音を立てる、そんな中。
 アールキングについて考えていた鉄心は、不意にその「性格」を思い返していた。
「何か引っかかるな……」
「何がです?」
 鉄心の無意識の呟きに、ティーが首を傾げた。
「上手く言えないが、随分と……手応えが薄い、ような」
 戦況は順調に、味方側の優位で進んでいるように見える。勿論それは、契約者達のたゆまぬ努力の結果であり、実力でも有るのだが、連携の良さと各個の実力の高さ以上に「順調過ぎる」ようにも見えるのだ。
「あのアールキングが無策にも勝機の無い戦いを受けて立つ……と言うのはな」
 考えにくい、とその声は懸念を滲ませた。
 幾度か関わったアールキングの印象は傲慢で邪悪、同時に他者を操り利用する狡猾さを持っている。こんな風に真っ向から迎え撃ったりするろうか。そんな警戒を持って臨んでいたためだろうか。不意に覚えた違和感に、鉄心はマップの表示範囲を切り替えて、その違和感の正体に気がついた。

「――ッ、艦隊に警告! 下方より”根”が急速接近中ッ!!」

 悪意は、彼等の真下から、接近していたのだ。