百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

はっぴーめりーくりすます。

リアクション公開中!

はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション




第四章 We Wish A...



31.あなたと。


 クリスマスイブだろうがなんだろうが、そんなことは関係ない。
 恋人がこの日忙しくて、そして自分には短期の仕事が回って来ていてアルバイトができるというなら、橘 カオル(たちばな・かおる)は働くことを選ぶ。
 そういうわけで。
「いらっしゃいませー」
 サンタの服を着て、ケーキ屋さんでアルバイトに勤しんでいた。
 手先が器用だから、細かい作業はお手の物。
 ケーキのデコレーションなどお茶の子さいさい、砂糖菓子だって簡単に作れる。
 何かもうひとつ欲しいなと思い、店頭で飴細工を作り始めたらそれがまた人気で。
 ――へへー。バイト代弾むって言われちゃったぜ。
 思わぬ高収入にうきうき浮かれて、「いらっしゃいませー」の乱舞。
 ありがとうございましたの代わりに、メリークリスマスと笑声で言って、お客様から笑顔をもらって。
 たまに、カップルを羨ましく思ったりもして。
 ――いやいや、幸せそうなんだから、嫉妬すんなってば、オレ。
 ――オレらはオレらで、お互いの時間が合った時に会えばいいさ。
 けれどそうやって、自分の考えを貫いて。
「メリークリスマス!」
 誰か一人でも多くの人に、笑顔を、幸せを、届けられるようにと。
 だって、気の持ちようや考え方の一つで、世界は変わるんだ。
 ――ま、オレに出来ることなんて限りあるけどな。
「ねぇねぇ、飴さんでサンタさん作ってー!」
「任せとけお嬢ちゃん!」
 こうやって、頼まれたことに応えることくらい。
 だけどそれができるんだから、嬉しいじゃないか。


 バイトを終え、日払い報酬を受け取ったその足で向かった先はアクセサリーショップ。
 恋人である李 梅琳へ、何かプレゼントしたいなと思って。
 ――だって、クリスマスだし。
 記念に、残るものを。
 アクセサリーなら指輪かなー、とショーケースの中の物を見定める。
 デザインはシンプルなものの方が似合うだろう。仕事の邪魔にもならないだろうし。
 同じ理由で、石も大きすぎたらいけない。
「あ」
 ――これ、いいな。
 アクアマリンのついた、指輪。
 梅琳の誕生日石がアクアマリンだし。派手過ぎないし、地味過ぎないし。
 それになにより、強く輝いていたから気に入った。
「すみませーん、これくださいっ」
 店員さんに声をかけ、
「ご自宅用ですか?」
「いえ。プレゼント用にラッピングをお願いします」
 可愛くラッピングもしてもらって。
 ――いつ渡せるかな?
 ――喜んでくれるかな?
 その瞬間を夢見ながら、カオルは大通りを歩く。


 前方から、カオルのバイト先へ向かおうとする梅琳に遭遇するまで、あと10秒。


*...***...*


 楽屋裏にて。
「よ……余計なお世話だ、このやろー……」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)は、ある品物を手にぷるぷると身体を震わせた。
 それは、コトノハ・リナファからのクリスマスプレゼント。
 いつの間にか楽屋裏にあった、『和希さんへ♪』というメッセージカード付きのそれを披いたら、中から出て来たのは豊胸剤。
 メッセージカードには続きが合って、『ちっぱいを気にされていたようなので……』と書いてあった。
 ――悪気はないんだろうけどよぉ……。
 思わずメッセージカードをくしゃりと握ってしまう程度には、得も言えぬ気分になり。
「…………」
 だけど、自分のことを考えて、善意でプレゼントを贈ってきてくれた相手からのカードをぐしゃぐしゃにするのはどうか、というわけで、皺を伸ばし。
 それから、プレゼントを鞄に仕舞い込む。
 代わりにミューレリア・ラングウェイ手製のマフラーを鞄から取り出し首に巻いた。
 気分は軽い。
 突拍子もないプレゼントだったが、本番前に力を抜く手伝いにはなったらしい。
「っしゃ! 行くぜぇー!」
 気合の声、ひとつ。
 和希はギターを手に、舞台へ踊り出た。
 クリスマスイブのイベントとして、熾月 瑛菜(しづき・えいな)が主催で音楽祭をやると聞いて。
 恋人の都合がつかなかった和希は、自分の音楽で誰かを楽しませることができれば、と駆けつけたのだ。
「パラ実軽音部の部員で、S@MPコンサートマスターの和希が居れば心強いよ」
 舞台に立った瞬間、瑛菜に言われた。
「褒めんなよ、つけあがってミスしたら笑えねぇし」
「和希が? 冗談!」
 どうやらそれなりに信頼はしてもらえているらしい。
 ――なら、その信頼に応えねーと俺じゃねーよな!
 緊張は解れ、やる気は溢れ。
 ミューレリアからもらったマフラーのお陰で、雪降る寒い日の気温にも耐えられる。
「あたしの歌を聴けえぇぇぇ!!!」
 瑛菜の、張りのあるよく通る声を皮切りに。
 ドラムがリズムを刻み、キーボードがメロディラインを奏で、そして和希の弾くギターが場を盛り上げる。
 そして、瑛菜の歌声が乗って。
 大盛況の音楽祭になったことは、言うまでもない。


*...***...*


 12月25日。
 明日、世に言うクリスマスは天海 護(あまみ・まもる)の大切な弟、天海 北斗(あまみ・ほくと)の誕生日だ。
 クリスマスのお祝いももちろんだけど、彼の想い人と一緒に、幸せになって欲しい。
 軍人の家系に生まれはしたものの、身体が弱くて。
 常に死と隣り合わせで生きてきて。
 でも今はこうして、たくさんの友達と、そして大切な弟と共に、日々元気に生きている。
 だからこそ誰よりも強く願う。
 世界の平和と、みんなの幸せを。
 そして明日は、楽しい毎日を共に過ごしてくれる、大切な弟の誕生日。
 皆への、平和の祈りと共に。
 弟の幸せも届けられるサンタクロースになれたら、と願う。
 だから自分にできることをしたいと考え、ケータイに手を伸ばす。


 ヴァイシャリーの街は、輝いていた。
 イルミネーションはもちろんのこと、恋人とデートする人々の顔から何から、もう全て。
「あー……」
 こうして、皆が幸せそうにイチャイチャして盛り上がっているクリスマスイブ。
 だけども。
 北斗はちらり、横に居る兄を見遣った。
 ――兄貴は、相変わらずだなー。
 地味で、物静かな護。
 やっぱりというかなんというか、彼女なんて居ないから。
 ――今年も、オレと兄貴、普段と何も変わらないクリスマスになるんだろーなー……。
 男同士の、残念な感じのクリスマス。
 そうなることを予想して、苦笑が漏れたりため息が漏れたり。
 だけども護は、
「北斗! 次はあそこへ行こう!」
 護なりに北斗のことを楽しませようと、いろいろな所へ連れて行ってくれる。
 雑貨屋さんや、機械の部品が置いてある店。喫茶店へ行ったり、広場で聖歌隊の歌を聴いたり。
 晩御飯だって、普段とは雰囲気の違ういいお店で食べたし。
 ――うん。
 ――兄貴は、俺を想っていろいろしてくれてんだ。
 ――ため息なんて、吐いたら失礼だよな。
 今更ながら、そう思い。
「よっしゃー! 楽しませてくれるんだろ、兄貴?」
 悪戯っぽく笑って、兄の後をついて行く。
 地味だけど、二人のクリスマスを楽しもうと。
「どこ行くの?」
「公園。大きなツリーがライトアップされていて綺麗なんだって」
 前向きに考え、公園まで白い息を吐き吐き、歩いて。
 ツリーを見ているうちに、時計台が12時を指した。
 ――あ。
 ――25日になった。
 自分の、誕生日に。
「よっ」
 そしてその時、聞き覚えのある声。
「え、」
 まさか、と振り返ると、そこには。
「レオン!?」
 レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)が立っていた。
 ――なんで? どうして?
「ゆ、夢か?」
「夢でも幻でもないぜ?」
 そう言って、レオンは笑った。
 振り返り、護を見る。護も、にっこり笑っている。
 ――兄貴のサプライズか!
 それと、護が想っているであろうことを――北斗が、レオンに想いを伝えてそれが実ることを願っているだろうことまで理解したところで。
「北斗、」
「誕生日、おめでとう!」
 二人から祝いの言葉をかけてもらって。
 ああ、もう。
 こんな風にお膳立てされたら、ありったけの気持ちを込めて、感謝と愛の告白をするしかない。
「兄貴、レオン。ありがとう!」


 『25日は、北斗の誕生日なんだ』。
 そう、護は電話で言っていた。
 だから、25日になった瞬間、北斗の誕生日を祝ってほしいと。
 護や北斗とは、そう浅い付き合いでもないし。
 それくらいならいいかなーと、二人が出掛けてきているヴァイシャリーまで出向いて。
 公園で、合流して。
 誕生日を迎えた彼に、ハッピーバースデー。
「誕生日、おめでとう!」
 急だったから、プレゼントは用意できてないけれど。
 せめて祝おうと思ってそう言った。
 すると、
「兄貴、レオン。ありがとう!」
 北斗は心から嬉しそうに礼を言って。
 それから、急に真剣な眼差しで、
「レオン。オレと、付き合ってくれ!」
 告白を、してきた。
 前にも告白をされた相手である。
 あの時の答えを、レオンは思い出す。
 『俺、北斗のこと、もっと知りたいと思うぜ。それは、好きだからだろ? だけど、その好きが――』
 答えはまだ、出ていない。
 ――こんなオレのことを、優柔不断だと北斗は笑うか?
 表情から、北斗は察したらしい。
「……そうだった。オレ、レオンに『好きだ!』って、言わせるっつったもんな」
 少し、寂しそうに微笑んで言う彼に。
 申し訳なく思う。
 だけど、そんな気持ちで付き合いたくないんだ。
 付き合うからには、真剣な気持ちで付き合いたい。
「だけど、今日はオレの誕生日だから」
 びし、と北斗は指を突き付け、
「一日、付き合ってくれよ?」
 楽しそうに、笑った。
 ――気ぃ、遣わせてんだろーな。
 わかっていても、ごめん、としか言えない。言うのも失礼だから言わないが。
 自分の気持ちがはっきりする、その日まで。
 もう少し、待っていて。
 代わりに今日は、あげるから。
「もちろん! 夜通し遊ぶでもなんでも、付き合うぜ?」