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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 大家族の食卓は戦争です
 
 
 
 しばらく家に足を向けていなかったが自分のルーツである『家』はやはり大事だと、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は里帰りを決意した。
「帰ってもうるさいだけだけど、しばらく顔見てねーとどうも寝覚めが悪いじゃん」
「それは誤用ではあるまいか?」
 すかさず突っ込むオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)を、うっせーよ、の一言で切り捨てると、島に乗り付けた船から陸へと光一郎はひらりと飛んだ。
 
 実家の敷居をまたぐ前に子供たちにもみくちゃにされる、というのが帰宅時の洗礼だったけれど、今回はそうはさせない。
「じゃじゃっじゃーん♪」
 取り出したるは俺様ヒーローの着ぐるみ。
 それを着込むと、道中近所の人の注目を浴びつつ光一郎は帰宅した。
「たっだいまーっと」
 帰った家には相変わらず子供がひしめいていたが、中には見知らぬ顔もある。
「また数増えてないか?」
 出迎えた兄の南臣 洋一郎に尋ねてみれば、そうでしょうねぇと毎度のように何を考えているのか解らない返事が返ってきた。
「つーか親父は?」
「不在ですよ」
 ぎゃあぎゃあとうるさい子供の中にありながら、洋一郎は涼しげな顔で答える。家のこと全ての面倒を見ているというのに、いつも穏やか、常に温厚篤実そうな様子を崩さない辺り、只人ではないというか、頭が上がらないというか。
「家にいないとなると、渋谷? 汐留? 六本木? 赤坂? 虎ノ門?」
「どれもハズレです。お台場ですよ」
「それ知らねえ、新キャラ?」
 そう尋ねながらそう言えば、と思い出す。光一郎はもう1年以上帰ってきていないのだから、変化があって当然というものだ。
「このヒーローもなつかしいねー。もう前の前のシリーズだもんねー」
「ぐはっ……!」
 子供の指摘に、光一郎は落ち込んだ。
 が、それも一瞬。
「こんなこともあろうかと! パラミタのうまいものまずいもの総覧で、山海の珍味多数を携えて帰ってきたのだ! どうだ、この先見の明は」
 さあ出せ、と言われ、オットーは担いできた食べ物を出した。
「運んできたのはそれがしだ」
 なんてオットーの言葉など耳に入らぬように、光一郎はそれをどうだとばかりに食卓に並べた。
「食えよジャリども家族ども!」
 途端に戦場となる食卓に、思えば飯の時はいつもこうだったと光一郎は懐かしく思い出す。これを勝ち抜いてきたからこそ今の自分があるのだ。
「あ、コロッケは俺様のっ! 取り皿に取ったものを奪うとは、お兄ちゃん職業ジャスティシア、そんなルールは許しません!」
 そうか自分はまだ若いから、過去を振り返ることは許されず、今を生きなければいけないのだと納得すると、光一郎も食べ物争奪戦争まっただなかへと突入する。
「おいそこ、長幼の序を知らんのか!」
 知らなーい、なんてあっさり返されつつも光一郎は次々にマイルールを生み出しては子供たちを煙に巻く。
「オットーさんは成人してますよね。書を巧みにして硬骨……さながら顔真卿のようです。ならはいける口でしょう? 実は掘り出し物のワインがあるんですよ」
 地下のワインセラーから持ってきたワインを手に、洋一郎はひとしきり講釈をたれたあと、ああやっぱりこちらが良いかと焼酎の良いのをあけた。
「あ、鯉くんは共食いになるから魚も肴もいけませんよ」
「むむむ。それがしゆる族ではなくドラゴニュートである」
 そんな抵抗むなしく、肴にと思っていた料理は光一郎の腹に消える。
「あーと、また衣装庫から適当に見繕って借りてくわ。パラミタで評判いいんよ。あ、これ肖像画」
「借りていくのはいいですけれど、きちんとクリーニングに出してから返して下さいよ。おお、これはなかなか似合ってますね」
「だろ? さすが俺様衣装が映えるぜ。……そこ、まだまだ甘いっ!」
 描いてもらった肖像画を見せびらかしながら、光一郎は自分の皿にのばされた子供の手をびしりと叩いた。