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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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 あしながおじさんの約束
 
 
 
 この休みに地球に帰りたい、と言った神野 永太(じんの・えいた)燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)は怪訝そうな表情になった。
「帰省、ですか?」
「うん。お世話になった施設に行きたいんだ」
 中学生の頃、永太の母は事故で亡くなった。そして父は……永太を見捨てて姿を消してしまった。
 1人になった永太は、行く当てもなく彷徨って、寂しくて寂しくて辛くて。
 毎晩夜風に当たりながら、幾度死のうと思ったことだろう……。こちらに飛び込んでしまえば楽なのだと、暗闇から死が手招きするのをじっと眺めていた。
 でも夜が明けると、全く逆に生きたいという気持ちで頭の中がいっぱいになった。けれどそれは良いことばかりに繋がってはおらず……生きる為に、永太は数多の悪事に手を染めた。そうしないと生きられなかった。そうしてでも生きたかった。
 けれど、そんな生活がいつまでも続くはずはない。
 永太は結局捕まり、警察の世話になった。身元引受人の無い永太は、そのままとある児童養護施設へと送られることとなった。
「そうだったんですか……」
 自分の知らない永太の過去に、ザイエンデは耳を傾ける。
「でも、その養護施設は本当に温かで、優しい場所だったよ。子供たちも、先生たちも。入所したばかりでまだスレてた私は無愛想だったのに、優しく気遣ってくれて、受け入れてくれて……家族だって言ってくれて……」
 居場所を失った永太に、ここにいて良いんだよと、ここがあなたの家なのだと言ってくれた人たち。
「そんな中で、一番私が懐いていたというか……その、好きだった先生がいてね」
 巴先生って言うんだけど、と永太はその名を照れたように発音した。
「私が入所した頃に、時を同じくしてやってきた新人の先生で、ものすごく元気で、私の話を一番親身になって聞いてくれた先生なんだ。その先生のことは、本当に、大好きだったな」
 新人として施設にやってきたのだから、色々大変なこともあったと思う。けれど巴先生は優しくて、いつも微笑みを絶やさなかった。
 細い身体なのに元気に溢れてて、時々子供たちと一緒に先輩職員から叱られていたりもした。
 悪いことをすればしっかり叱る先生だったけれど、その後反省した永太の頭を撫でて、分かってくれてありがとう、良い子ね、と褒めてくれた……。
「大好きだった、ですか?」
 過去形なのはもしや何か、と心配しかけるザイエンデに、永太は慌てたように首を振る。
「いや、今でも大好きだよ。あ! いや……えっと、今一番好きなのは、その、ザインだからね? でも、当時はなんというか、……その、あれだ……こ、恋してたんだと思う」
 巴先生はお母さんのような存在であり、同時に初恋の人だった。
 そう言う永太に、ザイエンデはじっと視線を注ぐのだった。
 
 
 帰省当日。
 永太に連れられて施設に向かいながらも、ザイエンデの心はざわめいていた。
(……私の知らない永太の過去……)
 過去の永太が救われて良かったと思うのに、巴に対してつい嫉妬の念が湧いてきてしまう。
 巴は永太の初恋の人。では自分は永太にとっての何なのだろう。
 そして何故、永太はこの帰省に自分を連れて行くのだろう。
 分からないことだらけだ。
 
 
 養護施設の佇まいは前と変わりなかった。
 正門を抜けて歩いて行くと、施設の庭で職員が子供たちを遊ばせているのが見える。
 入ってきた永太とザイエンデの気配に気づいたのだろう。女性職員は顔を上げ……そしてにっこりと笑った。
 若い頃の活発さはなりを潜め、落ち着いた女性となっていたけれど、永太がそれを誰かと見間違えるはずもない。
 そしてもちろん相手も、成長した永太を見分けられないなどということはなかった。
「お帰りなさい。偉いね、ちゃんと約束、守ってくれたんだね」
「うん。まだ大金持ちではないけれどね。巴先生も待っててくれてありがとう」
 それはずっと前の約束。
 ――永太が児童養護施設を出て、社会人になって大金持ちになったら、本に出てくる『あしながおじさん』みたいに、施設にやってきて子供たちのために寄付をする。
 それまで巴先生は待っててね、ぜったい戻ってくるからね、と指切りをしたのだ。
「それともう1つ。巴先生に報告をしたくて」
 永太はそう言って、少し引いた位置にぽつんと立っていたザイエンデを巴の前に連れてきた。
「私はもう1人じゃないんだ。ザインという大切な人がいて、守るべき家と家庭があるんだよ」
「え……?」
 紹介されたザイエンデの方が驚いた。それまではっきりと永太が、自分に告白してくれたことはなかったのだから。
「良かったわね。幸せになって、そして幸せにしてあげるのよ」
 巴は自分のことのように喜ぶと、ザイエンデに微笑みかけた。
「永太くんをよろしくね。永太くんはいつも無意識に頑張り過ぎちゃう子だから、気をつけていてあげてね」
「はい」
 反射的に答えてから、ザイエンデは思う。
 ここで肯定したということは、永太の告白を受けたということになるのではないかと。
 お幸せに、と巴が笑う。
 それは嬉しいことだし、良いことなのだけど。
(どうしてこんなことになったのでしょう……?)
 突然の、それも直接自分に向けられたのではない、けれど確かにプロポーズ的な言葉に、ザインは動揺し続けるのだった。