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第58章 二人きりで

 のんびり買い物と散歩を楽しんだ後。
 御洒落なレストランの、庭園に面した特別席に、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は、主であり恋人である神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)を誘って訪れていた。
 庭園を眺める形で、2人は並んで腰かけて料理を楽しむ。
「街の中に、甘い匂いが漂っていましたね……。お腹空いてしまいました」
「そうですわね。こちらのレストランのお料理、お嬢様のお口に合えばよいのですが」
 微笑む有栖に、ミルフィも微笑み返す。
 雑誌やインターネットで、探し、暇を見つけて自ら訪れて、念入りに下調べしている。
 だから、有栖が気に入ってくれるという確信もあった。
「凄くきれいな庭園。心が癒されます……。最近、色々ありましたから」
 料理を待つ間、有栖は庭園をのんびりと眺める。
 静かで、穏やかな印象を受ける、庭園だった。
「ロイヤルガードになられまして、お忙しくしていましたから……。今日くらいは、2人きりでゆっくりしたいですわ♪」
「ええ、ミルフィ♪」
 笑顔を浮かべる2人の元に、ウエイターが料理を運んでくる。
 オードブル、スープ、魚料理、肉料理と、2人は談笑しながら食べていく。
 美味しい料理を味わって、会話をたくさん楽しんで。
 ……全ての料理が届き、2人の元に、誰も訪れなくなった時。
 有栖は、バックを開けて、中に忍ばせてきたものを取り出した。
 可愛らしいピンク色の袋に入ったチョコレート。赤いリボンが結んである。
「えっと……ミルフィ……これ、私の手作りの、ショコラトリュフです……」
 ミルフィは少し驚いた。
 チョコレートは貰えるかなと、思ってはいたけれど、有栖が自分の為に、事前に材料を用意して、作っていてくれたなんて……。
「ありがとうございます、お嬢様」
 感動しながら、ミルフィは有栖からチョコレートを受け取った。
 ミルフィはその場でリボンをほどいて、中身を見てみることにした。
 自分の為に、大好きな人が作ってくれた、チョコレートを。
 有栖はちょっと恥ずかしそうにしている。
「さすが、お嬢様ですわ……」
 金色の小箱の中に、丸くて可愛らしいショコラトリュフが6個、入っていた。
 一つ一つ、有栖が心を込めて作ったものだ。
 その他に、箱の上にはカードが乗っかっている。
『大好きなミルフィへ いっぱいの愛を込めて 有栖』
 カードには、有栖の字でそう書かれていた。
 カードの文字を見た途端、ミルフィは感動で手を震わせた。
 それから、有栖に目を向ける。有栖も、勿論ミルフィを見ていて……。
 2人だけの、空間で。
 2人はしばらくの間、見つめ合っていた。
「お嬢様……」
 小さな声を発した後、切なげに瞳を揺らして、ミルフィは腕を伸ばした。
 そして、有栖を抱き寄せて、キスをした。
 有栖は、瞳を潤ませて、ミルフィを見つめる。
「ミルフィ……大好きなの……」
「わたくしも……わたくしの方こそ!」
 大切で、大好きな唯一の人を、ミルフィは強く抱きしめる。
 有栖も、ミルフィの体に腕を回して強く抱きしめ返した。
 大好き、ありがとうと、互いに繰り返し言いながら。