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2021年…無差別料理コンテスト

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第7章 静かに・・・時には激しい・・・!和の世界

「よし、作るぞ!」
 一晩おいた鍋を紫音が強火にかける。
 ゴポゴポ・・・。
 沸騰した鍋に水を加え、再び沸騰するのを待つ。
「いったんざるに・・・。で、豆を鍋に戻して、水はこんなもんかな」
 差し水をしつつ豆の皮が伸びるまで煮続ける。
「おっ、伸びた!火を弱くして、1時間30分くらい待つんだよな」
 菜箸で摘み指で引っ張って確認し、火加減を調節する。
 フツフツ・・・。
 小さく沸き常に豆が煮汁につかっているようにしておく。
 セットしたタイマーが鳴り、食べてみる。
「ん、しかっり柔らかくなってる!」
 皮まで柔らかくなった豆をフードプロセッサーにかける。
 ギュァアア。
「ペースト状したやつと、グラニュー糖を半量ずつ鍋に入れて・・・。火はこんなもんでいいか」
 中火にしておき水分を飛ばすように、強火にして練る。
「焦げないように気をつけないとなー」
 手早く練り鍋の底に一文字書いてみる。
 余熱で硬くならないようにさっと火から下ろして、少しずつバットに移し冷まし、残りも全粒白餡にする。
「えーっと次ぎはぎゅうひか」
 白玉粉を耐熱性容器にサラサラと入れ、半量の水でペースト状になるまで溶く。
 残りの水を加え、菜箸を使ってとカシャカシャと溶かす。
「そんで砂糖を加え混ぜて・・・」
 600wの電子レンジに30秒間だけかけ、取り出してよく混ぜてまたレンジに1分間かけるのを、もち状の生地になるように2回繰り返す。
「こうしておかないとくっつくしな」
 かたくり粉をふったバットに取り出し、まとめておく。
「風花、後は頼んだ!」
「は〜い」
 綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)は紫音が作った全粒白餡を、耐熱性のボウルに入れて紙タオルで蓋をする。
「約4分間どしたなぁ〜。―・・・混ぜ合わせて・・・そんでまた混ぜ合わせて♪」
 電子レンジにかけて、2回くらい取り出し、少し粉をふいた状態にする。
「作ってくれたぎゅうひを加えて・・・」
 ヘラでよ〜く混ぜ合わせ、バットにちょっとずつちぎって広げ、冷ましつつもみまとめる。
 なめらかな生地になるまで、2・3回繰り返す。
「それじゃアルス、お願いしますぇ〜」
「うむ、分かった」
 水で食紅を溶いたアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)は、濃いめの桃色に色づけをする。
「こうして皆で和菓子を作るのも、面白いのぅ」
 芯にする白餡も丸めつつ、のんびりと過ぎていく時間を楽しむ。
 白い練りきりの1つを手で直径6cmに広げ、それに桃色の練りきりを1つ重ねて押し広げる。
 丸めた芯の白餡を1つのせて包み込む。
 手の平で形をキレイに整え、指先で先端をつまみ、可愛らしい桃の形をつくる。
「和菓子とは、芸術品を作るのに似ている感じがするのじゃ」
 器用にヘラを使い丸みから先端に向かって、弧を描くように線を入れていく。
「我は茶を入れるか」
 アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は茶碗に沸騰させたお湯を、静かに入れる。
 そこへ茶筅をサッ・・・と入れ、温めてからお湯を捨てる。
「とっても和って感じがしますねぇ。浴衣とも雰囲気が合ってるですぅ〜」
「5月に似合った和菓子と、抹茶を楽しんでもらおうと思ってのぅ」
 抹茶を茶杓山盛りにすくい、茶碗に1杯半入れて熱湯を60ml程度注ぐ。
「日本の飲み物ですよねぇ?」
「ふむ・・・。あまりこういうのは、飲んだことがないのか?」
 茶碗を片手で押さえ、茶筅で抹茶のダマをつぶすようにしてから混ぜまる。
「そういうのがあるのは知ってますけど。入れてくれる人がいないんですぅ〜」
「フフッ、そうか。心ゆくまで堪能していくといいのぅ」
 カシャカシャ・・・。
 “の”の字を描くように、茶筅をすばやく動かし泡立てる。
「いい音ですぅ〜・・・。心が落ち着きますねぇ」
 エリザベートは目を閉じて、お茶を立てる音を楽しむ。
「お抹茶、いただきますぅ〜」
 ずずずー・・・。
「音を立てて飲むものではありませんぇ」
 風花が傍にいき、そっと教えてやる。
「そうなんですかぁ〜!?」
「音を立てずに、ゆ〜くり飲むんどす〜」
「お茶って奥が深いんですねぇ」
「わらわたちの作った桃の練りきりも、食べてみて欲しいのじゃ」
「とてもキレイな和菓子ですぅ」
 アルスに勧められて食べてみる。
 ぱくっ。
「―・・・っ!?」
 1口で食べた彼女にアルスたちは目を丸くする。
「お茶の席では少しずつ食べるんどすぇ〜」
「む〜、そうでしたかぁ・・・」
 またもや風花に教えられてしまう。
「お茶と和菓子のおかわり欲しいですぅ」
「たくさんあるからどんどん食べてくれ!(こうして見ると、まだ子供だよな)」
 風花に言われたことを忘れ、夢中で食べる少女の姿に紫音は・・・。
 そういう席じゃないし、まぁいっかと和菓子を勧める。



「へぇ〜お茶を立ててくれるんだね」
「よっていかないか?」
 紫音が綺人とクリスをお茶の席へ呼ぶ。
「うん、こういう和の席もいいね」
 スッと畳の上に正座してアストレイアにお茶を立ててもらう。
「結構なお点前で・・・」
 そう言うと綺人は音を立てずに飲む。
「とっても美味しかったですよ」
 クリスも飲み彼女に感想を伝える。
「―・・・和菓子もどうかのぅ?」
「いただきます」
 勧められた和菓子を少しづつ上品に食べる。
「むむっ、お茶って難しいですぅ〜」
 3人の様子を観察してエリザベートも学ぼうとするが、結局・・・覚えきれなかった。



「透乃ちゃん・・・これ、とっても恥ずかしいんですけど」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)は百合の柄の浴衣を、彼女の要望で着ているのだが・・・。
「えー?とっても似合ってるよ」
 舐めるように霧雨 透乃(きりさめ・とうの)が眺める。
「でもこの格好を、エリザベートさんにデジカメで撮影されてしまったら・・・」
 ミニスカ丈で小さいサイズを着ることになってしまった。
 透乃の企みで陽子の服は小さくなってしまうようだ。
「撮られても減るもんじゃないし?」
「ですけどっ、この前のハロウィンなんて・・・。あの仮装を動画サイトにアップされたんですよ」
「陽子ちゃんだけアップされたんじゃないよ。気にすることないって!」
「今回も撮られてしまう気がするんです」
 デジカメを持った少女がいないか、陽子はきょろきょろと警戒する。
「私なんてぜーんぜん気にならないよ?」
 薔薇の柄の入った派手な浴衣で、胸周りや肩を露出させている透乃はコンテストだし撮影くらい当然だと、堂々とした態度をとる。
 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に対抗しているだけだが、陽子と違って恥ずかしいとは、米粒サイズも思っていない。
「まずは私の大好物の、ジャガイモとニンジンの皮剥きからしようっと」
 得意な家庭料理を作ろうと慣れた手つきで、しゅるしゅると皮を剥く。
「半分くらいに切っておこうかな。これも適度なサイズにしておかないと、床に落としちゃいそうだね」
 玉葱と大荒野にいた巨獣の肉、糸こんにゃくも手に持ちやすい大きさに切る。
「料理コンテストやらも、武道の一種のように見えるようでありんす」
「その声は・・・ハイナちゃん!」
 声のする方へ振り返ると、大胆に肩や胸を露出させたハイナの姿を見つけた。
「わっちも見学させてもらおう」
「今度も和風なんですねぇ?」
「エリザベートさん!(あれ・・・デジカメを持っていませんね。今回は撮らないんでしょうか・・・)」
 聞き慣れた少女の声音に陽子が振り向く。
 彼女の手にカメラがなく、ほっと息をついた。
「陽子ちゃん、いくよーっ!」
「はいっ!」
 透乃がジャグリングしている具を、凶刃の鎖の先端の刃で切る。
 シュパパパパッ。
 鮮やかに切られた具たちが・・・。
 ゴトゴトゴトボチョ。
 透乃の足元のボウルへ落ちていく。
「(うわぁ〜ん、陽子ちゃんの刃が近すぎるよ!)」
 離れた距離からなのに顔面すれすれまで迫る刃。
「この方が、緊張感があって面白いでしょう?ね、透乃ちゃん」
 本人は悪びれる様子もなく、天使のように可愛らしく微笑む。
「うん、そうだねっ」
 “怖い・・・怖いよ笑顔が!”
 そう心の中で叫び、信頼はしているものの、心の中は汗でびっしょりだ。
「ぎりぎりの間隔を見極めるとは素晴らしいっ」
「具と格闘してるみたいで面白いですぅ〜♪」
「もっとぎりぎりにしてみますか?」
「ふむ、出来るのならやってみなさい」
「―・・・はいっ♪」
「へ・・・・・・?わわわっ、ちょ・・・待って陽子ちゃん!これはキツすぎると思うんだけど!?」
「当てませんけど、避けたら危ないですよ?」
「おっけー・・・陽子ちゃん。信じてるから、ほんっとーに信じてるから!(ハイナちゃんめ・・・よけいなことをっ)」
 間隔1ミリの世界に心臓をばくばくさせる。
「全部切り終わりましたね」
「うん・・・後は任せるよ」
 一歩間違ったら自分が陽子に料理されるんじゃなかったと思いつつ、片腕で額の汗を拭う。
「具と砂糖、それと・・・醤油を妖精スイーツ、みりんを鍋に入れましょう」
 陽子はボウルの具と調味料などを鍋へ入れて甘煮する。
「にくじゃがのように見えますけど?」
「えぇ、にくじゃがですよ」
「でも、妖精スイーツなんて入れるんですぅ〜?」
「ほどよい甘さが出るんですよ」
「ん〜そうなんですかぁ?」
「それにしても、向こうは何を作っているんでありんす?」
「もう1品、作るみたいです」
 その透乃は・・・。
「こいつら、どんな味がするのかな?」
 黒光りする妖怪の死骸を適度に千切り、醤油やみりんに浸す。
「ほう・・・楽しみでありんすな」
 知らないということは、時として幸せなこともある。
「冷めないうちにお召し上がりください」
 三つ葉をのせたにくじゃがをハイナたちにあげる。
「いただくとしよう」
「ちょっと甘めで美味しいですぅ〜」
「一工夫するだけでも味わい深くなるとは」
「そちらのお2人もどうぞ」
「もらおうかな。ん、他に何か入れた?」
 普通のにくじゃがとちょっと違うな、と綺人が首を傾げる。
「透乃さんは何を作っているんでしょうか」
 驚きの歌を歌いながら家庭の天敵に、片栗粉をつけている透乃をクリスがじっと見る。
「油で揚げあげてるよ?えっ、ちょっとクリス。それもってどうするの」
「はい?こ・・・これは!?」
 無意識のうちに手にしている虫殺しを見て、クリスは頬から汗を流す。
「何をする気っ!」
「私にもわかりませんが。どうしてか、あれに噴射せずにいられないんです!」
「(やばっ、ばれちゃたのかな)」
 綺人がクリスを押さえているうちに、ハイナたちに食べさそうと運ぶ。
「虫・・・でありんすか?」
「うん・・・美味しいよ」
 怪しまれないように透乃が先に、ぱりぱりと食べてみせる。
「ハイナちゃん、お酒どうぞ」
「おつまみということなのでありんしょうか」
「苦いですぅ〜っ、私はちょっと苦手ですねぇ」
「フフ・・・実はそれ。虫は虫でも、黒光りする妖怪なんだよね」
 その言葉に周囲の空気が凍てつき・・・。
「―・・・家庭の天敵」
 クリスがそう粒やいたとたん。
「死骸だろうと消滅あるのみ・・・!」
 セレアナに出来立ての揚げ物に虫殺しを噴射されてしまい、コンロの火で全て燃されてしまった。
「灰になっちゃった・・・うぅっ」
 せっかく作ったのに、と透乃はしょんぼりと項垂れた。