リアクション
○ ○ ○ ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、自宅に戻ると、数人の地球人が応接室で彼女の帰りを待っていた。 「こんにちは、ロイヤルガードの騎沙良詩穂です。お世話になっております」 立ち上がって深く頭を下げたのは、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だった。 それから。 「今回のお土産はこれ。口に合うかな?」 黒崎 天音(くろさき・あまね)が、お菓子をラズィーヤに渡す。 綺麗な、お菓子だった。 クラッシュされたレモンジュレが、キルシュのジュレの上に宝石のように飾られている。 「素敵なお菓子ですわね。戴きましょう」 ラズィーヤはメイドに食器や茶を用意させ、詩穂、天音、それから天音のパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と向かい合ってソファーに腰かけた。 「僕は雑談に来ただけだから、どうぞ」 天音は詩穂に先を譲り、お菓子とお茶を楽しむことにする。 「ありがとうございます。あ、戴きます」 出された紅茶を一口飲み、カップを置いて落ち着いた後、詩穂はラズィーヤに真剣な目で話し始める。 「役職の志願について、お話しがあります」 詩穂はそう切り出した。 百合園女学院は百合園は宮廷に人材を派遣するための学校だと聞いたことがある。 ラズィーヤは、神楽崎優子達、百合園生を宮廷にヴァイシャリー家の推薦として派遣するつもりであることも、察することができた。 自分もヴァイシャリー家の推薦を貰えば、新たな役職を目指せるのかどうか。 そのようなことを詩穂はラズィーヤに質問していく。 「最初はロイヤルガードではなく、新女王即位による新国家体制のもとで、新女王に仕える役職を希望していたのですが、アイシャちゃんからロイヤルガードに直接任命されました」 当時、ロイヤルガードの仕事は、東西に分かれて代王を護衛するものであった。 それよりももっと近くで、詩穂は女王であるアイシャを護衛したい、傍に居たいと思っていた。 「親友なのに、アイシャちゃんがシャンバラの女王になってしまったのに、……それなのに好きなんです」 切々と詩穂はラズィーヤに想いを語る。 「好きになろうと思ってフマナで救出したわけじゃないのに、いつの間にか親友になって、そして今では自然とお互いに好きになっちゃったんです……」 だからと、真剣に詩穂は言う。 「ロイヤルガードの、更に先があるのなら目指してみたいんです! 詩穂は給仕の家系です、至れり尽くせりで身辺のお手伝いもできます。女王の側近にご推薦していただけるのなら、どんな試練でも騎沙良詩穂に課して下さい、お願いします!」 「お気持ちはよくわかりましたわ」 一通り詩穂の話を聞いたラズィーヤは、軽く頷き――詩穂に穏やかな目を向けた。 「ただ、ヴァイシャリー家からの推薦は、百合園女学院の優秀者や、ヴァイシャリー家縁の方にしかお出しできません。 アイシャ様が親友の貴女をロイヤルガードに任命したのなら、それがアイシャ様のご意思なのではないでしょうか? ロイヤルガードという立場があれば、謁見も、有事に直接お守りすることも可能でしょう。 ですが、わたくしが女王の騎士を女王の側近として宮廷に派遣したのなら。その騎士には『シャンバラの女王』を守っていただかなければなりません」 個人への感情が強い者は、時に冷静な判断ができなくなったり、命令に背く可能性があるため、相応しいとは思わないとラズィーヤは言う。 「貴女は政府公認の役職名はなくても『アイシャの騎士』なのだと思いますわ。責任のある役職についたのなら、役職に縛られて、一番大切な人を守る為に、動けなくなることもあるかもしれませんもの」 微笑みかけて、ラズィーヤはこう続けた。 「想いは受け止めました。今日。わたくしは、あなたをアイシャ様の側近として、現シャンバラ女王のアイシャ様を全身全霊でお守りしてくださる方だと、理解いたしました。応援しておりますわ」 「はい……ありがとうございます!」 詩穂はぺこりと頭を下げた。 百合園生ではないので、難しいとは思っていた。 だけれど、真剣な想いはラズィーヤに理解してもらえたようだ。 アイシャと一緒に、考えていこうと詩穂は思う。 「あ、ではこちら、いただきますっ」 「どうぞ」 詩穂は天音が持ってきたジュレを、スプーンで掬った。 キラキラ輝いて見えるそのお菓子は、とても綺麗で、そして美味しかった。 「僕からはちょっと重い話もあるんだけれど」 天音はそう前置きして、書類をラズィーヤに渡した。 大荒野での龍騎士団との戦い。新型機、ユリアナ・シャバノフの件も含めた報告書だ。 「……報告は十分受けました。後で確認させていただきますわね」 ラズィーヤはあまりその話に触れられたくはないようだった。 「そういえば、気になっている事があるのだが」 空気を察して、ブルーズが口を挟む。 「シャンバラが統一されたなら、一時期の東西の対立を忘れさせる意味で、代王を立て東西を行政区として区切る必要性が低いと思うのだが理由はいくつかあるのだろうか?」 「パラミタ内への対処と地球側への対処を考えた場合に、東西に分けておいた方が効率的に行動できるためですわ」 それ以上、特に大きな理由はないようだった。 「対立に関しましては、そうですわね……。行政区域を統一しましても、学校同士が競争というレベルを超えて争ったり、または過去のトラブルをいつまでも根に持ってそれを根拠に他の学校に警戒しているような状態ならば、いずれにしても同じだと思いますわ。東西に分裂した時でも、校長同士は可能な限り、協調しようと常に努めてきましたし……当時のわたくしの内心はあなたのパートナーにはご理解いただいていると思いますわ」 にっこり、ラズィーヤは微笑みを浮かべた。 「今日はもう、難しい話はやめましょう。遊びに来て下さったのではないの?」 ラズィーヤがそう言うと、天音も笑みを浮かべて頷いた。 「うん。それじゃ、祭りを見に行かない? 護衛がなければ無理なら、バルコニーから花火でも」 「そうですわね、今日は街には出たくない気分ですから。夜になりましたら、バルコニーに向かいましょう」 それから、ラズィーヤはメイドにお気に入りのハーブティーを持ってくるように命じて。 ソファーにゆったり腰かけて、リラックスしながら歓談を楽しんだ。 |
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