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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

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【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
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「ぽち、ぽち、どこにおるん?」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、飼い犬のぽちを探して、わんにゃん展示場を訪れていた。
 首輪をしている子犬を1匹1匹抱き上げて、まじまじ見つめて、ひっくり返してお腹まで確認する。
「ぽちはお腹の下のほうに特徴のある模様がありますん。あとその辺りをこないしてなーでなでなでなでとすると喜びますんえ」
「ぎゃわんわんわん」
 そうして、エリスが撫でると大抵の子犬は強く抵抗をして、エリスを振り切り走り去ってしまう。
「痛っ、噛まれてしもた……」
「あらあら、満足していただける撫で回し方ではなかったようですわね」
 くすくす、隣でティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)は笑っている。
「このままでは見つかりませんわね。秘策を伝授いたしますわ」
 言って、ティアは小瓶と一つ取り出した。
「さっき、戴いたお薬ですのよ。犬の言葉が分かるようになる薬です。犬を探すには、己も犬になるのが一番ですわよ?」
「これを飲めばいいん?」
 単純に犬の言葉が理解できるようになる薬だと思いこみ、エリスはティアから受け取った薬をごくごく飲みほした。
「ん……きゃうん?」
 そして、エリスは可愛らしい子犬へと変身した。
「とっても可愛いですわ。こちらは可愛らしさの邪魔になっていますわね」
 ティアは勿論即、エリスの首輪を外してゴミ箱に投げ捨てた。
「お、こんなところにも子犬が。お風呂の時間だそうすよ」
「きゅうん?」
 成り行きでわんにゃん展示場のお手伝いをしている志位 大地(しい・だいち)が、エリス犬をひょいっと抱き上げて、撫でながら連れて行く。
「きゃん? きゃんきゃん!(ティア、ティア、どういうことですやろー!?)」
「隅々まで洗っていただいてくださいませ〜」
 エリスは助けを求めているようだが、ティアは笑顔で見送る。
「大丈夫大丈夫ですよ、綺麗に磨いて、気持ちよくしてあげますから」
 きゃんきゃん鳴いているエリス犬を、大地はシャワーコーナーに連れて行き、展示場のお世話係からならったように、体を洗ってあげることにする。
 水をかけて、シャンプーをして、体をもむかのように手を滑らせて。
「水が怖いなら、目をつぶっていてもいいんですよ。痛いことは何もしません。すぐに済みますからね」
「き、きゃうん……っ」
 お腹も胸も、足の付け根も、お尻も尻尾も。
「きゅうーん」
 両手で丁寧に丁寧に洗ってあげる。
「くぅーん、くぅ……ん」
 最初は抵抗していたエリスも、心地よさに負けて大地に身を任せていく。

「可愛い子犬と子猫が、ホント沢山。ああもう、この仔もあの仔もかわいくてかわいくてっ」
 大地がエリス犬を捨て犬と勘違いして隅々、そこかしこまで丁寧に洗っている間、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)(人型名:氷月千雨)は、わんにゃん展示場内で子犬と子猫と戯れていた。
「きゃんきゃんきゃんきゃん」
「あらあら、お転婆さんなわんちゃんね」
 その中でとっても元気に走り回り、他の動物たちに絡んでいる柴犬の子犬を両手で包んで、抱きしめた。
「ああもう、ホント可愛い。可愛すぎっ!」
 ぎゅーっとぎゅーっとぎゅーっと抱きしめて、頬をすりよせる千雨。
「きゃんきゃんきゃんきゃ……ん、きゅーーーーん……」
 尻尾を振って、嬉しそうに千雨の胸に顔をくっつけていた子犬だが、次第にがっかりしたような声になっていく。
 途端。
 千雨はばっと子犬を体から離して、にっごり笑みを浮かべる。
「……この子は厳しくしつける必要がありそうね」
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
 顔は笑顔なのに、なんだか真っ黒なオーラが見えて。
「きゃわーーーーん」
 柴犬の子犬は千雨の全くナイ胸を蹴り飛ばして、脱出。
「待ちなさいっ!」
「待つのは、お主のほうじゃっ」
 追い掛け回そうとした千雨の前に、飛び出したのはミアだった。
「気持ちは痛い程にわかるぞ。だがしかし、子が母の象徴のでっぱりと柔らかさを求めるのは仕方のないことなのじゃ。そうなのじゃ、そうなのじゃ……」
 そういうミアもなんだかとっても悔しげだった。
「こら、そこはダメだって踏んじゃったら大変」
 その間に、柴犬の子犬はまたもやレキの足の間に入り込んでいく。
 彼女は今は、スカートを穿いていない。いつものTシャツにスパッツという姿に戻って、シャワーブラシを使い、子犬と子猫たちを順番に洗ってあげているところだ。
「大人しくいい仔にしててね〜♪」
 レキの周りには相変わらず、子犬も子猫もいっぱいで、彼女はもてもて状態だった。
「そ、そうね。私としたことが取り乱しそうになってしまったわ。そうよね、子供だもの、母性を求めてるのよね、それだけのことよね。女の魅力と母性は別物……ふ、ふふ……」
 千雨は遠い目をして薄く笑いながら、ミアと一緒にお世話に戻っていく。
 でもなぜだろう。やっぱり特に雄犬、雄猫はレキばかり選ぶ。
 千雨にもすり寄ってくるのだけれど、抱きしめた後に、去って行ってしまう。
 何故だろう……。
「タオルじゃぞ」
「ありがとうミア」
「私も手伝うわね」
 ミアがタオルをレキと千雨に渡す。
 そしてそれぞれ、濡れた子犬と子猫にタオルを被せて、拭こうとする。
「うわっ、冷たい〜ふふ」
 その直前に子犬と子猫が体をぶるっと奮わせて、3人のことも濡らしていく。
 でも3人共、怒ることはなく、微笑みを浮かべて。
 ふわりとタオルで包み込んで抱きしめながらお世話をしていくのだった。

「最近変身を促す薬に凝ってらっしゃるようでございますが、次は家財道具やお料理に変身してしまうような凄まじいものがでてくるのでございましょうか?」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)(壱与)は、友人のリーアを手伝って薬の配布をしながら聞いてみた。
「ふふ、次はどんな薬をつくりましょうかね〜♪」
 リーアはまた何か作り出しそうな雰囲気だった。
「ところで、この薬を飲んだ人物で、鴉になってしまわれた方がいますよね? 何故でございましょうか」
「薬を飲むときに変なことを考えていると鴉になっちゃうようなのよね。でも、動物化した人物の毛を食べればもとに戻れるみたいだから、問題ないでしょ」
「いえ、問題でございます。鴉に襲われ放題になる方が出てしまいますわよね……?」
「襲われている小動物を救うことで、客達に弱気者を救う心とか、助けてあげたとかいう満足感を与えようとしてるわけよ!」
 リーアは胸を張って堂々と答える。
「なるほど、色々考えているのでございますね……とはいえ、人知れず襲われる仔もでそうではありますが」
「人間に戻ってからたーんと仕返しすればいいわ」
「正常に変身をした方は、時間で戻れるようでございますが……鴉になってしまった方で、戻れなくなってしまった方はどうなってしまわれますのでしょう?」
「さあ」
「さあでございますか」
「うん」
「…………」
 壱与はどきどきしながら、更に聞いてみることに。
「こ、この状態で犬猫や鴉との間にお子様が出来てしまう惨劇などは……?」
 先ほどから、ティアがエリスをからかって、発情期の犬も混じっている雄犬部屋に放り込んだりしているのだ。
「それは大丈夫よ〜。子犬と子猫は生後1,2か月位の状態だから、生殖器は発達していないはず。そういう間違いは起こらないはずよ。鴉は知らないけど」
「そ、そうでございますか」
「……試してみたいわね、ふふ」
「!!!!」
 壱与はリーアの恐ろしさを垣間見た気がした。

 数時間後。
 ぽちがわんにゃん展示場にいることに気付いてはいたが、探しに行こうと子犬エリスを誘い出し……むしろ、首輪をつけてリードで引っ張り回し、散々弄んだあと。
 汚れてぐったりしている彼女を、ティアは再び大地に預けた。
 大地が再び丁寧に彼女を洗ってあげている最中に。
 エリスの変身は解けたのだった。
「ぎゃーーーーーっ、なんしはるんどすかーーー!!」
「い、いや何するって、汚れている子犬を頼まれて洗ってあげて……あれ?」
 大地も事態が飲み込めずしばし混乱。
 何せ、可愛らしく、胸の大きな素っ裸な少女を組み敷いている状態だったのだから。
「この方が貴方の全てを確認し、余すところなく揉みしだいて(洗って)くださったのですよ。感謝しなければねぇ、エリス」
「いやーーーー、ケダモノーーーーー!」
「あらあら。獣だったのは、自分の方でしょう?」
 叫ぶエリスをティアはにこにこ見守っている。
「ケダモノって……え? ええ?」
 大地は自分の両手を見て……洗っている時の感触を思い出して。
 裸の彼女を見下ろし、我に返って赤くなる。
「ゴホン……役得でしたね」
 ぼそりと言って、大地はそそくさと立ち去った。
「ティア、服、服ーっ」
「はいはい、服持ってきますから、それまではワンちゃんネコちゃん達に隠してもらってくださいませね〜」
 そう言って、ティアはエリスに犬猫用のエサを大量にぶっかけてその場を後にした。
「きゃうん、ひゃん……っ」
 その後、その部屋からは、長時間にわたり奇妙な声が響いていたという。