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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!

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魅惑のタシガン一泊二日ツアー!
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1章

1.


 薔薇の学舎の一室に、遅くまで明かりが灯っている。
「ふふ……完璧ではないか!」
 出来上がった原稿を前に、アーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)がうっとりと呟いた。
 彼が作成しているのは、今回の【旅のしおり】だ。
 今回の旅行のスケジュールに加えて、各場所の解説やおすすめの商品などが紹介されている。ページ数もそこそこの、かなり豪華なものだった。
「レモ君、喜んでくれるといいね」
 マーカス・スタイネム(まーかす・すたいねむ)が微笑む。
 アーヴィンが旅のしおりをつくると言い出した時はやや驚いたが、レモがより旅を楽しめるようにとの配慮と知り、喜んで協力することにした。
 そのほかにも、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)も、しおりの作成に手を貸している。とくにブルーズは、お土産人気ベスト3を調べてきたり、事前に細かな調査をしてくれていた。
 それらをまとめ、写真やイラストとともにアーヴィンが仕上げることとなったのだが、問題は。
「でもこれ……これから製本するんだよ、ね?」
「……まぁ、そうだな」
 あまりにも力が入りすぎ、完成がこの前日の真夜中になってしまったということだろう。
 しかもこれから、二人でざっと百部近くの【旅のしおり】を印刷して製本しなくてはいけないわけだ。
「なにをこれしき! 百部程度、イベント前日と思えばむしろこれこそが通常であろう!」
「僕、そういうのよくわかんないんだけど……」
 拳を握るアーヴィンに、マーカスはいつもの困り顔で呟く。まぁそれが普通だ。
「それにしても、だ」
「ん? なーに?」
 さっそく印刷機械を動かしながら、アーヴィンは熱っぽい眼差しで。
「薔薇園といい、温泉といい、最高のシチュエーションが目白押しではないか。いつもとは違う所、いつもとは違う雰囲気に戸惑い…やがて芽生える愛とかが始まるに違いない! そしてそれをガン見するわけで!」
「ああ……うん、そうだね……」
 またいつもの残念な病気が始まった。なるべく右から左に流そうと思いつつ、マーカスは手を動かす。
「だが、ここにもう一つの可能性がある。それは、留守番をしているラドゥさんだ。ジェイダス理事長すらいない一人の夜、それをどう過ごすか……たった一日とはいえその身は彼を求めてうずき、胸を押さえていた利き手はゆっくりと下へと伸びて………なんて展開になっているんではなかろうか!なかろうか!」
「うんもう少し声おさえてね。夜だしね」
「そうその夜がもっとも重要かつ問題だ! 二人部屋でしっぽりと過ごすもよし、旅の開放感から外というのも捨てがたく、……いや、四人部屋の中、ひっそりと気づかれぬようにというのもいい……!」
「うん、これこっちむきで折ればいいんだよね」
「何故俺は一人なのか! 複数存在することができればあますことなく……、……そうか、録画という手が……?」
「うん、犯罪者がパートナーってそれ普通に泣けてくるから本気でやめてね」
「わかっている。そのような無粋な手を使う俺様ではない。リアルなBL空間は、その二人の間に醸し出される空気こそが最重要! それを感じるには、無機質な録画などというものでは所詮二流というものよ」
 額に指先をあて、アーヴィンはキリっと表情を引き締めるが、マーカスは頭が痛い。なにがって全部本気で言っているのを知っているからだ。
「……何で契約しちゃったんだろう……」
 しみじみと呟きながら、マーカスは瞳を輝かせるアーヴィンとともに、せっせとしおり作りに励むのだった。


 そして、翌日。
「え、アーヴィンさん、熱だしちゃったの?」
 マーカスからしおりとともにアーヴィンが今回の旅行を欠席すると報され、レモ・タシガン(れも・たしがん)は驚きに目を丸くした。
「そっか……残念だなぁ」
「僕もだよ。でも、気にしないで、楽しんできてね」
 マーカスはそう微笑んだ。アーヴィンの場合、妄想熱といったほうが正しい気がするし。
「参加者は、受付を済ませたらバスのほうに移動だよ」
 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が、そう声をかけてまわっている。
「そろそろ、まいりましょうか」
「うん。……お土産買ってくるからね!」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)に誘われ、レモはそう言うと、マーカスと別れた。
「良い天気のようですので、良い思い出が出来るといいですね」
 山南 桂(やまなみ・けい)が、穏やかにそう口にする。
「ホントだね。なんだか、ドキドキするなぁ」
 レモは小さな両手で、ぎゅっと【旅のしおり】を抱きしめると、明るい笑顔を見せた。

 今回は、薔薇の学舎の生徒たちは、多くがホスト側として参加している。
 今まで閉鎖的な雰囲気が否めなかったタシガンだが、これを期に他校生にももっと親しみをもってもらえればと、それぞれに張り切っている様子だ。
 ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は、頼もしげにそれを見守っていた。
「かといって、あまり気を緩めるなよ」
 ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)が、ジェイダスの身なりを整えてやりながら、そう忠告する。
「まぁそう拗ねるな。たった一泊だろう?」
「す、拗ねてなどいない! 勘違いするな!」
 ラドゥはそっぽを向くが、本心などバレバレだ。ジェイダスは少年の顔に妖艶な笑みを浮かべ、ラドゥの頬を一撫でしてやった。
「いい子にしていろ?」
「…………」
 ラドゥの頬が赤く染まる。全く、ジェイダスは喩え少年になろうとも……いや、見た目が若々しい分、かえってアンバランスな色気が強まった気がする。
「人数、揃ったぜ」
 ヴィナとともに、ルドルフの補佐をつとめているリア・レオニス(りあ・れおにす)の報告に頷くと、二人もまた、バスへと乗り込んだ。
 いよいよ、旅行の出発だ。
 最初の目的地は、陶芸工房である。
 バスの中では、さっそく配布されたしおりを手に、何をしようかと生徒たちは楽しげに話し合っていた。