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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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リアクション

 一方。迷宮内での迷子は人知れず、もう三名いた。
「キリがないじゃなぁぁぁいッ!!」
 掌底を飛びかかってきた巨大ネズミの土手っ腹に当てた琳 鳳明(りん・ほうめい)が叫ぶ。
「ほーめいー。足疲れたし、腹減った」
 ペタンと床に座り込んだ南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)がぐずつく。
「私だってペコペコのヘトヘトよぉ!!」
 今度は後ろから飛びかかってきた獣の顎を、タイミングよく鳳明が打ち上げる。
 高く打ち上げられた獣は天井に激突し、床に落ちていく。
「……」
 鳳明の攻撃でノビてしまった獣を、常に眠そうな顔でボーッとしている藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)が、さして驚く事もなく見つめる。
 天樹が獣の群れ相手に未だ孤軍奮闘を続ける鳳明に、ホワイトボードを見せる。
『眠れない』
【後の先】を使った得意の八極拳によるカウンター攻撃で襲い来る動物達を迎撃していた鳳明が、攻撃の手を休めて、天樹が書いたホワイトボードを見つめた後、
「……私だって、休みたいわよ! もうッ!!」
 怒りのこもった鳳明の一撃が、動物愛護団体が激怒しそうなエグイ角度で獣を吹き飛ばしていく。
「……ふ、ふはは。地祇が自分の土地以外の場所から出られんとか洒落にならなくね? まじヤバくね?」
 ヒラニィが宙の一点を見つめ、不気味な言葉を吐く。
『狂った?』
 新規書き込みがあったらしい天樹のボード。
「言いだしっぺが勝手に白旗上げてるんじゃないわよ!!」
 パートナーへの獣達をど突き続ける鳳明の頭に、陽の光を浴びていた時代(十数時間前)の事がフラッシュバックされる。
 それは、セルシウスがミノタウロス退治を依頼される前……。
 偶々クレタ島を訪れていた鳳明達。
 クレタ島は、クノッソス宮殿をはじめとする遺跡やサマリア渓谷やアギア・イリニなどにある渓谷などが観光地としても有名であると、島民にアドバイスされた鳳明は、それらを観光するつもりであったのだが……。

「おい、鳳明! 面白そうなモノを見つけたぞっ!
 ヒラニィがつり目の輝きをランランとさせてやって来る。
「面白そうなモノ?」
 天樹もホワイトボードに『?』と描く。
 ヒラニィに案内された鳳明の前には、不気味な迷宮の入り口があった。
「観光案内にも書いてない割にはデカい上に中々変わった建造物だな!」
「でも、ヒラニィちゃん、ここ鍵かかってるし。何か、赤字で『入るな!』って描いてある気がするんだけど……」
「……よし、入るか!」
「即決なの!? 私の話聞いてた?」
「何、ヤバかったら他の者に見つかる前に出れば良い! ふむ、いっちょ前に鍵なんぞかけおって。わしにかかれば……」
 ヒラニィが頑丈そうな鉄の鍵をガシガシと触り、
―――カチャッ!
「あ、開いた」
「ふっ、【ピッキング】なぞ朝飯前よ! いざ行かん、未知なる世界へ!」
 ヒラニィを見つめた鳳明が、天樹に話かける。
「どうしよう? 天樹さん?」
 天樹がホワイトボードに『ダンジョンがあるなら、行こうよ』と描く。
「……そうだね。鍵がかかってるって事は危険か宝物があるってことだしね!」
 こうしてパートナーであるヒラニィの悪乗りに付き合わされた鳳明は、何も知らずにミノタウロスの迷宮に踏み込んだ。
「ヒラニィちゃんの我侭に付き合ってこの大きい建物に入ったけど、何だろうねココ。迷路みたくなってるけど……」
 ほんのり冷気が漂う迷宮内を歩く鳳明達。
「こんな迷宮じみた建物に入ってると、ここが地球じゃなくてパラミタみたいな気分になるねー」
 天樹がコクンと頷く。
(突入から数時間後)
「……ちょ、ちょっと広すぎない? この迷路! 何か知らないけど目の血走った動物が襲ってくるし」
「鳳明! もう畏れ慄いたか!? コレくらいの歯ごたえが無ければ、わしが退屈するであろう!!」
 ヒラニィが高笑いする。鳳明の後ろで。
「いや……動物達の相手してるの、私なんですけど……とにかく早く外に出よう!」
『どうやって?』
 天樹がホワイトボードを見せる。
「……」
「……」
 一同が初めて『自分たちが完璧な迷子になっている』という事実に気付いた瞬間であった。
(さらに数時間後)
「お腹空いたよぅ……。ずっと同じ所グルグル歩いてるような気がするし……そう思わない、ヒラニィちゃ……」
 トボトボと迷宮内を歩く鳳明。
 相変わらずの好調さをキープしているヒラニィに振り向くと、ヒラニィはどこかに隠し持っていた芋ケンピを食べていた。
「……ヒラニィちゃん、そのお菓子は!?」
「……やらんぞ? これはわしの非常食なのだ!」
「酷い!! こういう時はみんなで協力しあって助け合うものでしょ!?」
「あ、コラ! 返せ!!」
 鳳明とヒラニィが芋ケンピを巡って争う中、天樹は【物質化・非物質化】で隠し持っていた食料をこっそり食べつつ、描画のフラワシでこっそりマッピングしたりする。
 ヒラニィの悪乗りに付き合い、鳳明と共に迷宮に入った天樹だったが、道中こっそり【サイコメトリ】を使いこの迷宮の事情を知ったりしていた。……が、もう迷宮内に入っているし、何より二人が面白そうなので黙っていたのだ。
(そして、現在)
 獣達を撃退した鳳明が、ハァーッと長い息をついて床にへたり込む。
「ちょっと休もう。……私達、このままここで餓死したりするのかな?」
「鳳明。わしが昔聞いた話がある」
「え?」
 ヒラニィがユラリと語りだす。
「その昔、雪山で猛吹雪のため遭難したグループが洞窟に逃げ込んだものの、寒さで次々と倒れていった。しかし、数人は何と奇跡的に救助された。だが、救助隊が遭難した人間の数を数えても、どうも人数が合わない。不思議に思った救助隊が洞窟の奥に、衣服や骨や血が滴る肉の欠片を発見し……」
「ヒラニィちゃん!! そ、そういう怖い話はやめて!!」
 ブルッと身を震わせた鳳明が、今自分が倒した動物達を見る。
「こ、この動物さん達は食べ……たら、マ、マズいよね? ね、天樹さん?」
 鳳明が天樹に尋ねる。
「天樹さん……?」
「Zzzz……」
 天樹はホワイトボードを片手に眠っていた。
「ふむ……天樹……よく見ると美味そうであるな」
「……本当、顔も綺麗だし……はっ!?」
 鳳明が首をブンブンと振る。
「駄目だよヒラニィちゃん!! それは本当に最後の最後の手段! 非常食だよ!!」
「ふ、わかっておるわ。鳳明!」
 実は、天樹は目を閉じて休んでいただけなのであるが、ふと聞こえた二人の恐るべき会話に、本気で眠らざるを得なかった。
「(今の会話は夢! そうだよ、夢だよね!!)」
 眉間に皺を寄せた天樹は、硬い床の上で眠れない一夜を過ごす事になるのであった。