校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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話はまた現代に戻る。 ややこしくて申し訳ないが、更にややこしい展開は雅羅を追った者達に待ち受けていたのだ。 コロッセオは、ネロ帝の黄金宮殿の庭園にあった人工池の跡地に建設された。その工事はウェスパシアヌス治世の75年に始まり、ティトゥス治世の80年から使用されるようになった。使用開始に当たっては、100日間に渡りイベントが続けられ、数百人の剣闘士が闘い命を落としたと言われている。 とどのつまり、闘技場である。 「ふふふ……やはり余の国は落ち着くわ」 コロッセオの上段に設けられた椅子に座ったネロ・オクタヴィア・カエサル・アウグスタ(ねろおくたう゛ぃあ・かえさるあうぐすた)が、眼下にある闘技場を見つめる。 見ると、古代を彷彿とさせるように剣闘士達が剣や槍で激しく戦っている。 「まったく、ネロの我儘に付き合う身にもなってよね……」 多比良 幽那(たひら・ゆうな)がネロにポツリと呟く。極度の高所恐怖症である幽那は階段の手すりに掴まり、下を見ないようにしている。 「何を言う幽那。見よ。余のおかげで参加者達も嬉しそうにやっておる!」 「見たくない……それに盛況なのは、お国柄と商品のおかげじゃない?」 幽那がコロッセオ上段に置かれた石像を見る。 その石像は、どれも少女や女性の姿をしたものであり、今にも動きそうな程精巧に作られている。 「私ずっと聞きたかったんだけど、あんなシロモノ、一体どこから手に入れたっていうの?」 「ここは余の国ぞ? 余が戻った折、是非祭りに協力したいと申し出た者達がおったのじゃ……素性は知らんがな」 「……怪しくない?」 ネロは暴君ネロと呼ばれたローマ皇帝ネロであり、久々の故郷でハイテンションになっていた。 そして、ネロと言えばコロッセオ。(実際にコロッセオが使われたのはネロが皇帝の時代ではないが……) 「祭りを開くのじゃ!!」 イタリアの地でネロが叫んだ言葉に、幽那は、昔ネロが芸術活動等に理解を示し民衆に人気があった事を思い出すが、それから既に20世紀立っている。 「(すぐ、終わるに違いないわ)」 そう思った幽那は、呑気に構え、観光ガイドのページを捲っていたのだが……。 話は急展開する。 観光をしていた幽那が目を離した隙に、ネロはコロッセオの使用許可と、何やら怪しい男達との密談を成功させ……。 暇そうでなおかつ血気盛んな若者たち(女性含む)を集めて、コロッセオでの剣闘士の戦いを再現させていたのだ。 勿論、実際に殺人がされてはいけないので、ケンカ祭りみたいな行事である。 ネロにカリスマ性があると言っても、予想外の人の集まりに幽那はその真相の調査も含めて、今回のイベントの司会をすることになったのであった。 「……本当に、一体どこで、あんな石像を……」 幽那が呟くと、また新たに石像が運ばれてくる。 「……何か、見たことある人ね」 直ぐ様、布が掛けられたが、美形で髪が長く、胸が大きく、推定十五歳から二十歳未満と思われる少女の石像には見覚えがあった気がする。 「幽那、何を油を売っておる。司会をするのじゃ!」 ネロにそう指示された幽那は、マイクを持って下へと降りていく。 闘技場から、戦う男達の声が聞こえる。 「うおー! よくも俺の嫁をーーッ!!」 「僕の妹を景品にーーッ!!!」 戦う男達の声がやや気になった幽那。そもそも景品はネロのハグだと聞いていたのだが……。 「(ネロったら、自分のハグじゃ駄目だからって副賞にあの石像をつけたのかしら? それにしても石像を嫁だとか妹とか言うなんて何処の趣味人なのよ?)」 日本では、本や映像の中の少女を『俺の嫁』だとか言うらしい、との話を思い出しつつ 、闘技場までの通路を歩いていると、ジャック・ザ・リッパー(じゃっく・ざりっぱー)を見つける。 「ジャック、あなた、また出るの?」 幽那の声に顔に傷跡のあるジャックが苦笑する。 「ネロに、次の試合は僕も剣闘士として出ろって……今日二度目だけどねぇ」 「ご苦労様。血を見て暴走したら、私が殴ってでも強制退場させてあげるから」 「よろしくぅ」 普段は大人しいジャックだが、大量の血液を見ると発狂し、殺人鬼として覚醒してしまうのだ。 「(何か危険な匂いがするわねー……ま、少しは危険な方がお祭りって面白いし)」 闘技場の方から「「「おおおぉぉぉーーッ!!」」」という満員の観衆からの声があがる。 「さぁて、お互い仕事しなきゃね」 幽那はジャックと共に、闘技場の眩い光の中へと出ていく。 「……て、あら? また見慣れた顔が一杯」 幽那の前にいたのは、雅羅を追っていた大助、刀真に、事情を知って追走に加わった夢悠、コウ、理沙であった。 同じイルミンスール魔法学校の生徒である、コウと夢悠は、現れた幽那を見て驚く。 「幽那? あんたが黒幕だったのか……」 コウが幽那に詰め寄ろうとすると、幽那の前にジャックが立ちふさがる。 「キミ、どいてくれよ! オレ達は幽那に話があるんだ!」 「幽那は今回は司会でねぇ……僕が剣闘士役なんだ」 「そんな事はどうでもいい……雅羅はどこだ?」 刀真が低く唸ると、大助も続く。 「そうだ! オレは雅羅を守るって言ったのに……言った途端、誘拐なんて」 「大助、気持ちはわかるけど、雅羅ってそういう星の下に生まれているから……」 理沙がさりげなくフォローする。 「(何か事情がよく分からないけど、まぁいっか)コホンッ……えー、それではネロ祭の第一八試合を開始します!」 幽那がマイクで叫ぶと、観客達が「「「うおおおおおお!!」」」と地鳴りのような歓声をあげる。 「(イタリアの人達ってお祭りに慣れているからイイわね……)さて、試合形式は現在居るメンバーによるサバイバルマッチです! 最後まで生き残った一人が、ネロ帝によるハグと副賞の石像を手に入れられます!!」 「石像?」 理沙がピクリと眉をあげる。 「そんな事はいいから、雅羅はどこだよ!?」 「そうだそうだ、雅羅を出せー!」 大助と夢悠の声がハモる。 「……嫌な予感がする」 「刀真?」 コウが刀真を見つつ、地面に刺さってある一振りの模造刀を引きぬく。コウを含む闘技場のメンバーは入場する時に愛用の得物を没収されていた。ついでにパートナー達とも引き離されている。 「では、ネロ帝! 試合前のお言葉をどうぞ?」 幽那が振ると、コロッセオ上段のネロが椅子から立ち上がる。 「余は嬉しいぞ! 余の国でかのような祭りが開催出来る事。そして、そなた達が余のハグを求めて集まって来てくれた事に!! 存分に戦うがいい!!」 「「「うおおぉぉぉぉぉーーッ!!!」」」 観客の声に、ネロが嬉しそうに手を振って応える。 「それでは、ここで今試合の副賞の景品を発表します! 今回も美少女の石像です」 幽那の言葉と同時に、石像に掛けられた布がバサリと落ちる。 「!」 「やっぱり……」 「あ、あれは……」 コウ、刀真、理沙がそれぞれの感想を述べた後、 「「雅羅あぁぁぁぁーーッ!」」 大助と夢悠の絶叫がハモる中、 「じゃあ……始めようかねぇ」 ジャックが左右の長さが違う腕で落ちていた短剣と剣を拾い上げ、不気味に微笑むのであった。