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リアクション
「はぁッ!!」
「そこだッ!!」
コウと刀真が振り下ろした剣を、ジャックが両手に二刀流した剣で受け止める。
「まだまだ甘いねぇ……」
「あんた、戦い慣れているね?」
コウが呟く。
「そりゃ、一応ねぇ」
笑うジャックがコウの剣を弾き、同時に後方から跳躍し飛びかかってきた理沙の攻撃をかわす。
「早い……」
刀真がすかさずジャックに追撃をかけ、【先の先】で先制しようとする。
「(貰った……)」
刀真の赤い瞳がジャックの行動を予測し、剣を振るうが、ローグであるジャックは身のこなしを生かし、両手の剣で刀真の剣を受け、それを中心点として、クルリと空中で舞う。
「理沙! コウ! 仕留めるぞ!!」
「わかってるわよ、刀真!」
「成程。いい発想だ」
理沙とコウが地面を蹴ってジャックの着地点に低空ダッシュをかける。
「(三人分かぁ……)」
空中を舞うジャックが自分の着地点に走る理沙に、短剣を投げる。
「おっ……と!?」
スポーツ万能な理沙はその優れた動体視力で直ぐ様ナイフをかわすも、一旦急停止したため時間をロスした。
「(これで、二人になった……)」
「終わりだ!!」
刀真とコウが剣を振るう。
―――ガキィィィンッ!!
「えっ!?」
二人がジャックだと思ったのは、地面に刺さった剣であった。
「どこに!?」
「ここだよ」
コウが見上げると、地面に刺さった剣の柄の上に両足を揃えたジャックが立っている。
慌てて剣を振るうも、ジャックはまたも空中を飛び華麗に着地する。
「そこの銀髪の君……随分運動したからお酒が回ってきただろう?」
ジャックが刀真を指して微笑む。
「ハァハァ……冗談じゃない」
苦笑する刀真がやや揺れる視界に、片膝をつく。
「もう! 大助と夢悠は何してるの?」
理沙が見ると、大助と夢悠は剣を合わせ、何やら「雅羅を助けるんだ!」「『さん』を付けろ、ボサボサ頭!!」とお互いに牽制しながら、『男の戦い』の真っ最中であった。
「ふふふ……余のために争う男達! 実に素晴らしいぞ!!」
違ったベクトルで喜ぶネロの声を聞きつつ、幽那は五体のアルラウネと闘技場の傍で試合を見守っていた。
アルラウネは、それぞれ、お嬢様ですので見てるだけのヴィスカシア、幽那につっかかりつつお手伝いするリリシウム、クールにノリノリでお手伝いするラディアータ、ぽやぽやとノリノリでお手伝いするディルフィナ、ぼーっと見てるだけのナルキススである。
「ジャックはノリノリで戦ってるし、ネロはあんな感じだし……ハァ、どうやって収集つけようかしら……ん?」
闘技場では、ジャックが空中で理沙とやり合い、地面に顔面から叩きつけられていた。
「血……僕の……」
ポタポタと垂れる鼻血を見つめるジャック。
「(私が行かなきゃ……駄目みたいね)」
幽那は重い足取りで闘技場へ向かう。
× × ×
血の匂いのする闘技場を離れ、一旦ここで美しいアマルフィの光景をお楽しみ頂きたい。
アマルフィとは、イタリアのソレント半島の南東、サレルノ湾に面するアマルフィ海岸の中心地であり、周囲を断崖絶壁の海岸に囲まれ、小湾の奥に位置する小規模な浜に作られた港から断崖上に向かって形成されている街である
外敵の侵入を妨げる為もあって階段で出来た路地が複雑に入り組んでおり、また狭い土地を有効活用するため、アーチの上に家を建て上へ上へと建て増したために断崖にへばりつくように建物が密集している。
「ここに来たかったんだ。ローマと違う時間が流れる、この世界一美しい海岸の街に。……ただいま」
大量の菊の買い物荷物を持ったエミリオが後ろから付いてくる中、菊が街を見渡し、小さく呟く。
「エミリオ……おまえ、ここが何処か、分かるよな?
「え? ここは、アマルフィ……?」
「(俺の人生の分岐点、第二の故郷、そして……)おまえと初めて出会った場所だ」
「……久しぶりやね。この海と風。あん時と変わらへん」
懐かしそうにエミリオが断崖絶壁の海岸を見つめる。
「ここが、今回の修学旅行の最後の場所だ。楽しんだか?」
菊のツインテールが潮風になびく。
「……菊、今日はほんまにありがと。僕、めっちゃ楽しかった」
「……はっ、言っただろ。絶対楽しませるってな」
エミリオから顔を逸した菊が、
「俺はいつか必ずここに帰ってくる。昔の俺が誓った以上に強くなってな。……その時は。その時は、お前も来て欲しい。……一緒に」
吹きつける風の音に消えない菊の決心の声。
「……菊さん……勿論、わたくしは側におります。お嬢様」
……なんちゃって、と付け加えようとしたエミリオだが、海からの風を気持ちよさそうに受ける菊の横顔に、発音が出来なかった。
「……はっ。また財布盗られそうな商人……いや使用人だな」
振り返って笑う菊。
「……それは言わんでおくれやす」
「さて、食事でもするか……来い、荷物持ち!」
「また階段ですかぁ……全く、僕やなかったら誰も付き合えへんのとちゃいますかぁ?」
エミリオは前を行く菊に遅れないよう、長いアマルフィの路地の階段を駆け上がっていくのだった。