校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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だが、非力なセルシウスの投擲した槍は、ミノタウロスの頑丈な体に当たって、ポトンと落ちる。 「ぬぅ!? やはりここからでは無理か……」 嘆くセルシウスを見たみすみと朔が駆け寄る。 「セルシウスさん、私とみすみが支えます!」 「何!?」 「行って下さい、ミノタウロスの元へ!!」 セルシウスの足を持った朔とみすみが、呼吸をあわせる。 「みすみ! 行くよ!」 「はい、朔さん!」 「「せぇぇのぉぉーーッ!!」 「ヌゥオオオオォォォーーーッ!」 ミノタウロスへと大きく跳躍するセルシウスを見上げる朔とみすみ。そこに腹を満たした鳳明を連れたエリヌースがやって来る。 「みすみ! やはりあんただけじゃ駄目ね!」 エリヌースが鼻でみすみを笑う。 「エリヌースさん? どういう事?」 「あれじゃ、顔までは届かないわ。それくらい分かりなさいよね! ……ま、そこであたしの出番な訳だけど」 「朔さん、みすみさん。私もお手伝いするよ!」 鳳明が大きく息を吸い込む。 「鳳明? どうするつもり?」 「あたしを飛ばしてもらうのよ! 鳳明、準備はいい!?」 「はい……行きますッ!!」 八極拳の構えをした鳳明が、呼吸を整えて狙いを定め……。 「はぁッ!!」 最低限の痛みと効力で、エリヌースの体を思いっきり上へ飛ばす。 これまでの攻撃から、ミノタウロスは頭部への攻撃以外は全て屈強な体で跳ね返してしまう事を、セルシウスは知っていた。顔までは、あとひと跳躍分が足りない。 「(駄目か……)」 上昇が止まりそうになるセルシウス。 「セルシウス!! あたしを使いなさい!」 セルシウスの直ぐ下に、鳳明によって投げられたエリヌースがいる。 「貴公……感謝する!!」 「ふふん! みすみに出来てあたしに出来ない事なんてな……ブニュゥッ!?」 セルシウスがエリヌースの顔を踏み台にしてもう一段階跳躍する。 「ちょっ……あたしの顔をー……ブムゥ!?」 何故か二度凹むエリヌースの顔面。 空中を飛ぶセルシウスが、ミノタウロスの肘、肩、首……そして、ついに顔の直ぐ横にまで到達する。 一方、その下では、未散と衿栖がミノタウロスの炎に完全に押されていた。 「くぅ……ここまでなの……ハッ!?」 力を振り絞る衿栖がふと何かに気付く。 「未散さん! スカートが……!」 「えっ……」 未散の短いスカートがめくれ上がり、イタリア旅行を楽しみにしていた彼女の気持ちを具象化した黒い『ブラダ』のパンツが見えている。 「あ゛ーーーーーッ!!」 下から聞こえた未散の絶叫に、セルシウスの「元従龍騎士セルシウスの渾身の一撃を、今ここに!!」というカッコイイ名乗りはかき消された。 だが、クワッと目を開いたセルシウスが、ミノタウロスの目を目掛けて槍を思いっきり投げる。 ―――ドスッッ!!! セルシウスの投げた槍がミノタウロスの左目に突き刺さる。 それと同時に、パンツと力を全開にした未散の炎がミノタウロスの炎を押し戻す。 二人の炎は、ミノタウロスの口内へと突入し、内臓系を木っ端微塵に破壊した。 「ヴォオオオオォォーー!!」 断末魔の叫び声をあげたまま、倒れていくミノタウロス。 「勝った……のか?」 「ええ……多分」 殿を務めて満身創痍のシリウスとリーブラがミノタウロスの後ろから、倒れていく姿を見つめる。 「やっと鍋にありつけるわ」 「ええ。苦労して倒した分、味が不味いハズありません」 クロセルとハイタッチで健闘を称え合った社は、846プロとして縁がある衿栖と未散達にも牛鍋の事を伝えに向かう。 一方、皆が喜ぶ中、セルシウスは腕を組んだまま落下中であった。 「(うーむ。高く飛ぶ事だけを考え、その後を想像していなかったな……さて、どうしたものか?)」 「大丈夫だぜ、セルシウスさん」 「む!? 近くで声が聞こえた気が……」 「俺はずっとここにいるんだぜ? ここだよ!」 光学迷彩で姿を消していた永谷が姿を現す。 「おお! 貴公か!!」 「ええ、ずっと盾役をする、と言ったでしょう?」 永谷が微笑し、自分より背の高いセルシウスを抱え、ミノタウロスの胴体に着地する永谷。 「……おっと! 槍を回収せねばならない」 「愛用の槍なのか?」 「いやいや。あの槍はエリュシオン帝国より貸してもらったレンタル品なのだ」 セルシウスがミノタウロスの胴体を歩いて行く。 「貴公、良いのか?」 ミカエルが永谷に近づく。 「何がだ?」 「セルシウスの非力な力では例え目と言えども、貫くなど不可能……姿の見えぬ誰かが力を貸さなければ今頃は……」 「ミカエル。俺は卑怯とか抜きに、無事に倒しきることを優先しただけだぜ? それに、俺はセルシウスさんと帰り道でもっと建築の話をしたいだけだ」 真面目な永谷が、彼女にしては珍しくミカエルに悪戯っ子の笑顔を見せる。 「あーあ。倒しちゃった……従者にしたかったのにぃ」 朱鷺が残念そうに見つめる後ろでは、朔とみすみが落ちたエリヌースを抱え、渋るアテフェフに治療をお願いしている。 花琳は皆の様子をビデオカメラで撮影していた。 「バッテリーがある間に倒して貰って良かったわー……ん?」 花琳が倒れたミノタウロスに近寄る人物を見つけて、サッとビデオカメラを回す。 「全く、大変な修学旅行であったな」 セルシウスが倒れたミノタウロスの目から、槍を引きぬく。 「(……随分、絵になる男ね……)あ、バッテリーが切れちゃった……」 「さぁ、諸君! 帰ろうぞ!!」 「「「おおぉぉぉーーッ!!」」」 歓声をあげる一同。社とクロセルに朔を加えた面子が、牛鍋用の肉の確保に走っていく。