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リアクション
場所は変わって、ここは子供服を扱うブティックである。
「カルテさん、これなんてどうでしょう?」
サクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)が白いリボンの着いた落ち着いたジャケットを見せる。
「ううん、絶対にコレだよ! そんな地味なの似合わないって!」
アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が手に取ったのは、紫色の肩がザックリ開いた派手なドレスである。
「えーと……」
二つの衣服を見せられて困惑の笑顔を浮かべているのは、白星 カルテ(しらほし・かるて)である。
カルテは助けを求めるような目を白星 切札(しらほし・きりふだ)に向ける。
「ママ? どっちが似合うかな?」
「ん? そうですね……両方ともカルテちゃんには似合いそうですよ。試着してみたら?」
切札がニッコリとカルテに微笑む。
「あ……う、うん」
二人から渡された服を持って、カルテが試着室へと入っていく。
試着室傍のカゴには、これまでカルテが試着した衣服が山のように積まれている。
「(ハァ……ワタシ、何着着るんだろう)」
切札とカルテはサクラとアゾートと共に、ブティックを訪れていた。
そのブティックは子供服を扱う店であり、値段も至ってリーズナブルだ。本来ならば、切札とカルテの二人だけで訪れてもいいような気がするが……。
「あ、カルテちゃん?」
「何? ママ」
切札に呼び止められたカルテが振り返ると、切札がピンクのドレスを持っていた。それは斬新な……あまりにも斬新なリアル天使の刺繍が全面にされたドレスである。
「これなんてどうでしょう? きっと可愛いですよ?」
「……うん! 着てみるね」
「着るんだ、それ」
「着るんですね、それを……」
アゾートとサクラが顔を見合わせて、溜息をつく。
そう。娘であるカルテのために洋服を買ってやりたい切札であったが、そのセンスに自信が全く持てない為、アゾートとサクラにご登場願ったのである。
試着室に入っていったカルテの脱いだ靴を直してやる切札に、アゾートが小さく声をかける。
「キミがボク達に、娘の服選びを手伝って、て言ったわけがわかったよ」
「すいません。アゾートちゃん、でも、折角イタリアに来たんですからあの子には良い物を買ってあげたいんです」
「でも、切札さん? あの服全部を買ってあげるわけではないのでしょう?」
サクラが山積みになったカルテが試着した服のカゴを見やる。
「えーっと。そうですね。でも、あの子が気に入ったなら、何とか……ほら、聞けば10万Gの高級服を買う人達もいるって言うじゃないですか? それよりは安くつきますよ」
「親バカだよねぇ」
アゾートが言うと、切札が照れて頭を描く。
「えぇ皆さんにそう言われますよ……自分では厳しくしているつもりなのですけど」
「……」
サクラは心の中でツッコミをかき消した。何となく、そうするのが良いと思えたから。
「でも、カルテちゃんもカルテちゃんで相当の……」
「ママ! これはどう?」
アゾートがそう言いかけた時、試着室のカーテンが開く。
切札が目をやると、アゾートが選んだ紫色のドレスを着たカルテが現れる。
「うんうん! 可愛い可愛い!! やっぱりカルテちゃんは何を着ても似合います!」
「さっきから、そればかりですね……」
サクラが喜ぶ切札を見て小さく呟く。
「ワタシ、この服好き! これなら、ママとお揃いだもん! ……あ!」
カルテが口元を押さえる。
「お揃い?」
切札が首を傾げると、アゾートが「はい!」とカルテに袋を渡す。
「えーっとね……ワタシ、実はママにプレゼントがあるの」
「え!? 私に?」
驚く切札に、サクラが笑う。
「そうですよ。切札さん。私とアゾートさん、先程カルテさんに付き添って少し居なくなったでしょう?」
スペイン広場で観光していた切札達は、ふと居なくなったカルテを探して慌てた事があった。
アゾートとサクラと手分けして探し、結局カルテは無事に見つかったのだが、その間生きた心地がしなかった記憶が切札の脳裏に蘇る。
「ええ……あの時は、本当に……」
「ごめんなさい! ママ! ワタシ、ずっとママに似合うお洋服を探してて、偶然通った店先で見つけて、それで……」
「カルテちゃん。私のために……」
薄っすらと目に涙が浮かぶも、切札は渡された袋を見て、
「ここで開けても?」
「うん!」
「では……」
切札が袋から取り出したのは、ゴージャスな紫色のドレスであった。
「…………」
笑顔のまま硬直する切札。
「ね? 綺麗でしょ? ママにピッタリだと思うの!」
「あ……ありがとう!」
ひしっと切札がカルテを抱きしめる。
「本当にありがとう……大切にします」
「じゃあ、ママ? 着替えてみて!」
「……わかりました」
微笑む切札の顔に少しだけ戸惑いを見たサクラ。
「一人では着替える事が大変でしょう? 背中のホックもありますし、私も手伝いましょう」
と、試着室に向かう。
「い、いえ! だ、大丈夫です!!」
「遠慮しないで下さい」
「遠慮じゃなくて……」
二人のやりとりを見ていたアゾートが声をかける。
「じゃあ、ボクも手伝おうかな」
「あ、アゾートちゃん。私、一人で着替えられますから!!」
と、その時。
「あー、アゾートちゃん! こんなとこにいたーー!!」
「え?」
アゾートが振り向くと、白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)が店に入ってきてアゾートに抱きつく。
「一人で心細かったよぉーー!!」
「歩夢? どうして?」
「どうしてじゃないよ! アゾートちゃん、二人でローマでジェラート食べようよって約束してたじゃない!」
「……ゴメン。完全に忘れてた……じゃ、そういう事で」
アゾートは歩夢と手をつないで外へと出ていく。
その間に、切札はサクラに引きづられるように試着室へと入っていった。
カルテが試着室のカーテンが開くのを今か今かと笑って待っている中……。
「……!? き、切札さん?」
「はい……」
試着室の中では、切札の上着を脱がしたサクラが驚愕の表情を見せる。
「貴方……おと……こ?」
切札が指を口に当て、サクラに「静かに!」と注意した後、小声で話始める。
「はい。カルテちゃんにはママと呼ばれていますが、実際は男なのです」
「……オカマさん?」
「いいえ、オカマというわけではなく父親であり、母親であろうと思っています。だからカルテの呼び方にも自然に応えいます」
「事実をカルテさんに打ち明けないのですか?」
「……時が来れば、必ず話します。でも、今は、あの子のママでありたいんです。折角、私にプレゼントを買ってくれたんですし」
サクラが切札とドレスを見比べ、肩をすくめる。
「わかりました……カルテさんには黙っています」
「ありがとうございます」
やがて試着室のカーテンが開き、
「わぁ!! ママ、綺麗!!」
ドレスを着た切札がカルテの前に現れる。
「似合いますか?」
「うん! だってワタシのママだもん! ワタシも大きくなったらママみたいに綺麗になれるかなぁ」
「ええ! カルテちゃんは私よりもずっと、ずーっと綺麗になりますよ!」
「(切札さんのような、目に見える優しさというのもいいですね。……聡さん)」
笑顔で話す切札とカルテを複雑そうな顔で見つめるサクラはそう思うのであった。
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