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【2021クリスマス】大切な時間を

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【2021クリスマス】大切な時間を
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リアクション

「メリークリスマスなのネ!」
 飾り付けが終わった頃。
 つぎはぎの冬の衣装の上にサンタ服を纏ったゆる族が現れる。……キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)だ。パートナーで百合園生の茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)は勿論一緒に来ていない。
「メリークリスマスーーー! もう女の子は諦めたぜ、今日は大食い大会だー!」
「よろしくネー! ミーも、美味しい物をいっぱい食べて、冬季ろくりんピックにも備えるワ」
 百合園では門前払いのキャンディスだが、パラ実生には問題なく溶け込める。
「てめぇ、サンタだろ? 良い子の俺達にプレゼントは?」
「プレゼント? そういうのは主催者が用意してるんじゃ?」
 キャンディスは主催者の竜司の方を見る。
「オレからの差し入れは、この『肉』だが、全員分は、用意してねェなー。適当に街中にパーティやるからなんか持ち寄れってビラ貼り付けたんで、何人来るかもわかんねェしな」
 竜司がそう答える。彼が用意した肉は大荒野で狩って、丸焼きにして持ってきた『七面鳥に似た鳥』の肉だ。
 既に、分校生が狙いをつけている。
「私はプレゼント、持ってきています。が、やっぱり全員分はないです」
 ロザリンドは鞄の中から袋に入った何かを取り出す。
「それじゃ、プレゼントは皆で出し合うのがいいネ。ミーが集めるヨー。アレナさんも一緒にドウ?」
 キャンディスは空の白い袋を持って、皆を回りプレゼントやプレゼントになりそうなものを集めて回ることにした。
「あの、こんにちは。……優子さん、まだですね」
 そっと、後ろからアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が顔を出す。
「うおっ!? アレナちゃん来てくれたんだっ。俺らのテーブルに決定だな!」
 ブラヌと友人達が近づいて、キャンディスからアレナを奪って連れ去っていく。
「……どうやら、いらしたようですよ」
 直後。新たな来客に気付いたのは、ホストを務めている志位 大地(しい・だいち)だ。
「げへへ、耳がいいじゃねェか」
「お褒めに預かり光栄です」
 セネシャルの大地は竜司に『オレの優子を楽しませる役』に任命されいた。
 大地は雇い主の竜司に礼をすると、来客を出迎える為に玄関へと向かう。
 小型飛空艇が何台か到着したようだ。

「……志位大地か。久しぶりだな」
 車庫に小型飛空艇を入れて、こちらへ向かってきたのは、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)
 そして、その後ろには、偶然一緒に到着をした武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の姿があった。
「『晩餐の準備』は整っております」
 大地が礼をすると、優子は微笑みを浮かべて。
「楽しませてもらうよ」
 そう言うと、ホールへ入っていく。
「パラ実生主催っていうから、どんなほったて小屋かと思ったら……結構まともじゃない?」
 セイニィはそんな感想を漏らす。
「元々、タシガンの貴族が借り上げた場所らしいからな」
 牙竜は説明しながら、セイニィをエスコートしてホールへと入った。
「神楽崎優子様は、奥のお席へ。武神牙竜様と、セイニィ・アルギエバ様は武神様のご要望により、ステージの傍の席をご用意しております」
 大地は牙竜とセイニィに席の場所を教えた後。優子を、奥の席――竜司達、優子と親しい者達が集まるテーブルへと案内をした。
「ありがとう」
 優子が礼を言い、大地がひいた椅子に腰かけた後。
「それじゃ、始めようぜ!」
 ブラヌがグラスを持って立ち上がる。
 ちなみに、彼のグラスに入っているのは葡萄炭酸ジュースだ。
 優子や竜司、ロザリンドののグラスには、大地の手により高級なシャンパンが注がれる。
「ヒャッハー! 始めるぜェ!」
 竜司はグラスを手に立ち上がる。
「オレの優子と、部下達の生還と、クリスマスの祝いだ。食って騒いで遊んで楽しむぜェ! 乾杯!」
「かんぱーい!」
「乾杯っ!」
 若葉分校生達がグラスをカツンカツン、零れるほど合わせていく。
 優子とロザリンドはそんな彼らを微笑まし気に眺めながら、グラスを少し上げて乾杯をして、色と香りを楽しんだ後、シャンパンを一口、飲んだ。
「まずはケーキだな! 沢山あるし!」
 ケーキはロザリンドが持ってきた物や、豪華なクリスマスケーキも置かれている。
「ふっふーん。アンタ達も甘い物好きなのね。食べて食べて」
 明子が切り分けて、分校生達に配ろうとする。
「え!? これむり子が持ってきたのかよ?」
「まあね、一人だとこういうお洒落なケーキには手が出にくいけど、こういう集まりだと堂々と買えるから良いわよね♪」
「いやいや、こういうのはアレナちゃんとかの分野だろ? お前はジャングルで巨獣とかな」
「荒野で恐竜とか」
「トワイライトベルトで希少なモンスターを狩ってきて、提供すべきだろ!」
 もぐもぐケーキを食べながら、分校生達はそんなことを言う。
「アンタらー! だから私を何だと思ってんの!?」
「女の皮を被った猛獣」
「じゃじゃ馬の皮を被った暴れ馬」
「荒野に咲く一輪の剣山」
「うううう、それじゃ、暴れ馬に相応しく食べさせてもらうわっ!」
 明子は竜司が用意した七面鳥?をがしっと掴むと、凄い勢いで食べ始める。
「まへまへ、俺も食ふー!」
「俺のぶんもー!」
 ケーキを頬張りながら、分校生達が奪いに来て。
 軽い乱闘……というより、じゃれ合いが始まる。
「お止めるするのは無粋ですね」
 そこにささささっと、大地とアマゾネス達の使用人が現れ。
 飛び散った飲食物が床に落ちるより早く処理していく。

「優子さん……!」
 その間に、アレナは分校生達の席から、優子達がいる席へと移ってきた。
「ん、お疲れ様アレナ。今日は楽しもうな」
「はいっ」
 アレナは優子の隣に入れてもらって、にこにこ微笑み、皆を見回して頭を下げた。
「お疲れ様でした。アルカンシェルでは、本当にありがとうございました」
 ぺこりぺこりと、竜司、ロザリンド。別のテーブルにいる明子、牙竜にも頭を下げる。
 セイニィにも戸惑いつつも、笑みを向けるが、ぷいっとセイニィは顔を背けてしまう。が、すぐに視線を戻し、セイニィもアレナと優子に小さく会釈を返してきた。
「食って食って体力つけろよォ。2人とも、体調はどうだァ? 問題とかは起きてねェか?」
 竜司が肉を優子とアレナの皿に乗せながら、2人を気遣った。
「今は大丈夫だ。アレナは?」
「私は、感じるほどの影響はありません、でした」
 優子はアレナの言葉に頷いた後、竜司に目を向ける。
「問題は……色々あるが、私が対処できることではないからな。もうすぐ、旅立つことにはなるだろうが」
「そうか、また困ったことがあったら、分校に頼れよ」
 竜司は顔からは想像できない、優しい声で優子とアレナに話す。
「何かあったらこのイケメンがすぐに駆けつけてやるからよォ」
「ありがとう」
「はい、ありがとうございます」
「……ところで吉永」
 優子はアレナと共に、微笑んで礼を言った後。
 ちょっと言いにくそうに続ける。
「前から思っていたんだが、おまえ『イケメン』という単語をどう解釈してる?」
「イケメンとは、オレのような美形でカッコイイ男のことだ。優子は、そんなことも知らないのか。俗語も勉強した方がいいぞォ。ぐへへへへ」
「……そうか。パラ実生の美観や価値観も学ばねばな……」
 優子はちょっと複雑そうな顔だった。

「先ほど届いたマホロバ産のお酒です。まずはセイニィさんにと思いまして」
 ロザリンドが会場に届いたばかりの酒を持ってセイニィ達のテーブルへと近づいた。
「マホロバさん……」
 セイニィが牙竜に目を向ける。
「どうぞ。あとこちらも」
 ロザリンドは酒をグラスに注いだ後、大皿に乗せてきたケーキをセイニィと牙竜に、一切れずつ、渡した。
「本当は市販のと自作の2種類持ってきたのですが、自作の方は分校生の皆さんがお持ち帰って食べたいとおっしゃられていまして。お配りできるのはこちらだけになってしまいました」
「他にも沢山食べるものあるから、十分よ。ま、ケーキは別腹だけどね」
 言って、セイニィはケーキを一口食べて満足げな笑みを浮かべる。
 ロザリンドが持ってきた市販のケーキはとても美味しくて好評だった。
 ……自作のケーキは。分校生が喜んで1口食べた後、持ち帰りを決意するような味だった。
「お酒も美味しいわよ。誰からの差し入れかしらね」
「誰だろうな」
 お互いに分かっていながら、セイニィと牙竜はそんなことを言い軽く笑い合う。
 そしてお酒とケーキ、料理の味を堪能していく。

「神楽崎さん、これマホロバで結構有名なお酒らしいわよ」
 続いて、明子が優子のグラスにマホロバの酒を注いで、隣に腰かけた。
 アレナはお湯を取りに給湯室に行っており、席を外していた。
「パラ実生の美観や価値観の勉強もいいけど……その前にやらなきゃいけないことが山積みね。とゆーか、神楽崎さん、あの事件の後、今日までアレナさんに会ってなかったって本当?」
「互いに予定が入っててな……けど、毎日のように連絡をとりあってたし、今日会えたから問題はない」
 優子の答に明子は「まったく……」と言葉を漏らす。
 そして、お湯を各テーブルに配って回るアレナに、ちょっと目を向けた後、話し出す。
「結果的にだけど、最初に接敵したのが私で良かったわ。喋らせれば喋らせるほど厄介なタイプだったわね。黙って殴るで正解だった」
「確かに結果的には間違っていない。間違っていないが、正しいとは言えないだろ」
 明子の言葉に優子は苦笑する。
「……いやあ……その……あの状況はスピード第一で付き合ってる暇が……」
「うん、解ってるけど、立場的に自重しろと言わざるを得ないな」
「ハイ、御免なさい。自重しマス」
 明子はそう答えるが、優子の目を見れば彼女の本当の気持ちは理解できる。
 自分の行動を認めてくれていることが。
「ケーキ、召し上がります? 既にお腹いっぱいなら、持ち帰ってください」
 大地がケーキと淹れたての紅茶をトレーに乗せて現れる。
「ありがとう。……ところで何でキミは完全に接客側に回ってるんだ。……少し話さないか? 会議の話も聞きたいし」
「俺は要塞の話が聞きたいですよ」
 大地は優子にケーキを出しながら、小声で言う。
「本当は俺もあなたと共に要塞に突入したかった」
「……その気持ちだけでも嬉しい」
 大地は頷いて。
 優子を見詰めながら、
「またあなたが困ったときには手伝わせてほしい」
 そう、真剣な目で言った。
「ありがとう、嬉しい」
 素直に、そう答えた後。
「そうだ」
 優子は持ってきていた紙袋の中から、小さな袋を取り出して大地に渡す。
「大したものではないが、仲間達へのクリスマスプレゼントだ」
「ありがとうございます」
 中を開けてみて、大地はなんだか納得する。
 入っていたのはスポーツタオルだ。
「このケーキ、食べるの勿体ないな」
 優子は大地が出してくれたケーキを、どこから食べようか迷っている。
 それは手作りのブッシュノエルだ。
「優子さんはお菓子等作られます? 今回は記事も作りましたが、これは市販の材料を使えば、簡単に作れるんですよ」
「菓子はめったに作らないな。簡単に出来るのなら何かの時に今度挑戦してみるよ」
「はい。必要でしたら作り方、教えます。代わりにというわけではありませんが」
「今度、機会があったら……手合わせ、お願いできますか?」
 大地はそう微笑んだ。
「機会があったら、喜んで」
 優子は頷いて、大地に微笑んだ。
「てめぇ……!」
 優子と親しげに会話をする大地に、竜司が突如近づく。
「オレの優子に差し入れとは」
 言って、大地の背をバシンと叩いた。
「気が利くじゃねェか! これからも頼むぜェ」
 竜司は、だばだばと大地のグラスにジュースを注ぐ。
「……は、はい」
 大地はちょっと疑問げな声をあげる。
 オレの優子とはどういう意味だろう、と。