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【2021クリスマス】大切な時間を

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【2021クリスマス】大切な時間を
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リアクション

「手伝うヨ」
 お茶を淹れて回ろうとするアレナに、キャンディスが近づいた。
「最近、ほったらかし気味でゴメンネ〜。忙しいのは言い訳にならないノハ、わかってるノヨ」
 キャンディスにとって、アレナは百合園で数少ない自分のことを気にかけてくれる娘だ。
 それに甘えていてはいけない、自分からも親睦を深めないと。
 そんな思いから、彼女に招待状を出してこのパーティに招待をしたのだ。
「そんなことないですよ! 今日、誘ってもらえて……とっても嬉しいですし」
 久しぶりに、キャンディスと会えたこと。
 そして、アレナはこうして皆に茶を注いで回ったり、優子の隣で皆の話を聞いて過ごすことが、とても嬉しいようだった。
「……アレナさん、暫く見ない間に、ちょっとは自分に自信を持てるようになったのカシラ?」
「え?」
 キャンディスの小声の問いかけに、アレナは不思議そうな顔をする。
「それとも、誰かのために自信を持ちたいと決意したのカナ?」
「私、何か変わりましたか?」
「自主性が以前より出てきた気がするノヨ」
 キャンディスの言葉に、アレナは少し考えた後、こう答えていく。
「どんなふうに、生きるのかちょっとだけ見えてきた気がして。こう生きれたらいいなと思える人がいて……。私も、優子さんと生きている間、皆と一緒に歩みたい、ですから」
「アレナさんは、パートナーに依存してるノネ。剣の花嫁だけド、強化人間みたいなところがあるネ」
「……」
「優しいだけではなく、誰かのために難しい決断を選択する……まあ、難しい話は今度にスル?」
 キャンディスの言葉に、アレナは良く分からないというように、ちょっと首を傾げた。
「そうそうアレナさん、冬季ろくりんピックのチケット、売ってミナイ?」
 話を変え、キャンディスは白い袋の中からチケットを30枚取り出して、アレナに持たせる。
「アレナさんの手で売ってみてネ。バイト代として、3枚タダであげるワヨ」
 優子でなくアレナと一緒にろくりんピックを見に行きたいという人を、自分で声をかけて見つられれば何か変わるのでは――とキャンディスは考えた。
「はい。売ってみます……今日じゃなくてもいいですよね?」
「そうネ。ゆっくりでいいノヨ」
 こくりとアレナは頷いた。
「アレナちゃん、こっちこっち! 飲み物と君を所望する!」
 若葉分校生達がグラスを手にアレナを呼ぶ。
「それじゃ、全部売れたら連絡しますね」
 アレナは淡い笑みをキャンディスに見せて、分校生達のテーブルへ向かって行った。
「そういえば……彼女はアレナさんのかつての仲間なのヨネ」
 アレナを見送った後。キャンディスは白い袋を持って、近くのテーブルで談笑をしているセイニィに近づく。
 白い袋の中には、皆からプレゼント用にと預かった品々が入っている。
「メリークリスマスなのヨ! お嬢さんへのプレゼントはこれネ」
 キャンディスがセイニィに差し出したのは、ふわふわの猫のマスコットがついた、キーホルダーだった。アレナが先ほどまで使用していたものだ。
「こんなの、あたしに似合うわけが……でも仕方ないわね。貰ってあげてもいいわ」
 セイニィはしぶしぶというようにキーホルダーを受け取り、代わりに髪を結んでいたシュシュを一つとって、キャンディスに渡す。
「これをくれた子にあげるわ」
「預かっておくネ〜。ミー達にはこれネ」
 シュシュを大事に袋の中に入れた後、キャンディスは分校生達からはぎ取っ……いや、預かったプレゼントの、ビンズやチェーン等を、牙竜や若葉分校と縁のない者達に配る。
「あとは……」
 ロザリンドからは、手編みのマフラーを受け取っていた。
 これは振られたばかりだというブラヌにプレゼントすることにした。
「俺からのプレゼントは皆に」
 牙竜は手を拭くと、アコースティックギターを持ち上げた。
「セイニィ、頼みがあるんだが……この歌、歌ってくれないか? せっかくのクリスマスパーティーだし、クリスマスソングの一つを頼むよ」
 牙竜は歌詞カードをセイニィに渡し、メロディーを静かに奏でていく。
「なんであたしが……自分で歌えばいいじゃない」
「セイニィの綺麗な歌声に合う歌なんだ。大丈夫……紅白歌合戦の時と違って静かな曲だし、歌詞も短いから暗記しやすいしフォローはするから、頼むぜ」
「急に言われてもね……」
 メロディを聞き、歌詞カードを確認して。
 セイニィはマイクを手に取った。
「ったく、仕方ないわね。歌ってあげる。べ、別にアンタのために歌うんじゃないんだからね!」
「わかってるって」
 牙竜は軽く笑みを浮かべた後。
 アコースティックギターの音を上げる。
 自然と、皆の視線が牙竜とセイニィに集まっていく。

「想いを伝える魔法の言葉……歌わせてもらうわよ」

 セイニィは息を吸い込んで、半眼を閉じて歌い始める――。

 ベルの音が響き 空を見上げる 

 今日だけは、素直な気持ちを伝えたいと

 夜空に舞う雪が素直にしてくれる


 普段の彼女とは違う、美しさを感じさせる歌だった。
 牙竜は幸せの歌をメロディーに乗せて、音を奏でる。

 遠く離れていても、目を閉じれば思い出す大切な貴方へ

 全ての想いを込めて、伝えたい…

 Merr Xmas for you


 歌が終わった後も。
 しばらく会場は静かだった。
「…………………!」
 耐えられなくなって、セイニィが徐々に赤くなっていく。
 パチパチ……
 と、最初に拍手を始めたのは、ロザリンドだった。
「とても素敵な歌でした。大切な人に……伝えたいですね」
 素直な気持ちを。
 歌の最中、ロザリンドも、ここにはいない恋人を、親友達を、仲間を想い、皆が幸せであることを願った。
「綺麗な歌、ありがとうございます」
 アレナはセイニィからのプレゼントのシュシュを手に頭を下げた。
「セイニィ、協力ありがとな」
 歌い終えて、隣に座ったセイニィに笑みを浮かべて牙竜は礼を言う。
「別にアンタの為に歌ったんじゃないってば」
 赤らんだ顔を何時ものようにセイニィは背ける。
「これは俺からのセイニィへのクリスマスプレゼント」
 そんな彼女の手に、牙竜は小さな箱を握らせる。
 中には、桜をあしらったかんざしが入っていた。
「すごい……これどういう時に、使えばいいのかしら。花見の時とか、合いそう。服も迷うわね……」
 と言いながら、セイニィは牙竜を見て。
「あっ、服、ねだってるわけじゃないからね。自分で考えるから平気よ。……ありがと」
 最後の一言は、ちょっと恥ずかしげに目を逸らして言った。
「セイニィ、Merr Xmas for you」
 牙竜の歌のような囁きに、セイニィはこくりと首を縦に振った。

「グヘヘヘ、なかなかイイ歌だったな。よし、次はオレがその歌を――」
「いや、番長、すっごく残念だけどそろそろお開きの時間だぜ」
「セイニィちゃんの歌の余韻に浸っていたいんだ、勘弁」
 竜司の手から、分校生達がマイクを奪っていく。
 そんな彼らの様子に笑い顔が広がり。
「楽しい時間をありがとう」
 優子が主催者の竜司にクリスマスプレゼントを――カラオケマイク(音程補正装置付き)を渡した。

 メリークリスマス!
 楽しい時間を過ごした友たちは、恋人や家族の元に帰っていく。
 続くクリスマスの時間も、笑顔で過ごせますように。