百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

地球に帰らせていただきますっ! ~4~

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ! ~4~

リアクション

 
 
 
 ■ 家族で温泉旅行 ■
 
 
 
 真田 幸村(さなだ・ゆきむら)の兄に会う為に、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)真田 大助(さなだ・たいすけ)を連れて長野上田へと赴いた。
 どんな人なのかと興味を持って訪ねた真田 信之は、容姿は幸村に似ていたが性格はずっと朗らかなようで、気さくに迎えてくれた。
「やあ、久しぶりだね信繁……あ、今は幸村だったっけ?」
「お久しぶりです兄上」
 幸村は丁重に信之に挨拶した。
 氷藍のほうは堂々と夫婦の名乗りを上げる。
「俺は柳玄氷藍。オマエの弟の夫だぞ!」
 女性である氷藍が夫と名乗るのだからきっと驚くだろうと思っていたのに、信之はへえと軽く受けた。
「夫さん……ということは、幸村が嫁なんだね。とにかくよろしく」
「ああそうだ。んで、こいつが大助。幸村の子だから言ってみればお前の甥っ子になるのかな。色々あってこんな成長しちまってるが、去年の8月に生まれたんだ」
 氷藍に紹介され、
「この人が父上の兄君……」
 大助はごくりとつばを呑み込むと、勢いよく頭を下げた。
「初めまして、僕は大助と申しますっ。地球に来るのは初めてなので、伯父さんに色々と教えて貰いたいです!」
「よろしく。へえ、幸村の子なのか。礼儀正しいね」
 信之は目を細めて大助を見る。
「いやあ、良い夫さんと息子さんを持って、幸村は幸せだねぇ」
「兄上……本当にそれで良いのですか……?」
 まあこれでこそ兄なのだろうと、幸村は飄々としている信之の笑顔を眺めた。
 
 
 今はかつての居城跡の警備員をしているという信之と合流すると、4人はそのまま温泉へと向かった。ここで家族まったりと休暇を楽しもうというのだ。
 温泉地に向かう道すがら、氷藍は信之に幸村の昔の話を聞かせてくれと頼んだ。自分と出会う前の幸村がどうだったのか、実に興味がある。
「そうだねぇ……弟はすごく甘えん坊でねぇ、ちっちゃい頃は1人で厠にも行けなかったんだよ♪」
「ほほう、幸村にそんな子供時代が……」
 信之が話してくれることに氷藍はそうなのかと熱心に耳を傾ける。
「兄上、何を氷藍殿に吹き込んでいらっしゃるのです!?」
 嘘八百を吹きこまないで下さいと幸村は抗議したが、氷藍はそれを照れだと受け取り、信之の話を信じてしまっているようだ。
 温泉に到着してからも話は弾み続け、氷藍と信之はすっかり意気投合してしまった。大助も信之に懐いている為に、すっかり4人家族の旅行らしくなっている。
 せっかく温泉に来たのだからと、幸村、大助、信之は連れだって男湯へと向かった。この温泉の名物は雪景色を堪能できる露天風呂だ。
 風情ある雪景色を楽しみつつ湯に漬かっていると……。
「お、良い景色だな」
 男湯なのにもかかわらず、氷藍が入ってきた。
「ど、どうして……」
 驚く大助に気にするなと笑うと、氷藍は幸村に確認する。
「この宿、ちゃんと貸し切りになっているんだろうな?」
「それは勿論。といっても男湯に入ってくるとは……」
「タオルを巻いているから問題無いだろう」
 他に滞在客もいないしと、氷藍はそのまま堂々と男湯に居座り、惚気話をしたり親馬鹿ぶりを披露したり。つい力を入れて話しすぎて、幸村に小突かれても凹まず家族の話を楽しく語るのだった。
 
 
 温泉であたたまったあとは、皆で土産物屋を覗いて回った。
 氷藍は浴衣姿に髪を1つに結わえ、いかにも年頃の娘らしい恰好をしながらも、両手に団子を持って練り歩く。仲間の分の土産にと、あれこれと菓子類を買いあさった。
 大助は真剣な表情で土産物を選んでいる。
「あ……このストラップ可愛いなぁ」
 小さな鈴がついた動物のストラップを大助はパラミタの友だちの為に選んだ。
「あとは……この梟の絵が付いた栞、うん……これにしよう!」
 和紙のちぎり絵でカラフルな梟が描かれた栞を大切そうに手に取ると、それも購入する。
「あの子、気に入ってくれるかな……?」
 そんな姿に微笑を誘われながらも、氷藍はたくましく土産物を値切る。
 それぞれに買い物を愉しんでいる様子の氷藍と大助を横目に、幸村と信之は何を買うともなくゆるゆると歩いた。
「幸村が幸せにやってるようでよかったよ」
「はい、今は有意義な生活を送っております。あの時……志を抱かぬままに力をふるっていた時とは違う。まるでかつての戦乱の昔のような……それでいて穏やかな日を。俺は失いたくない、今度こそ。それだけは伝えておきたかったのです」
 もう己を粗末には扱わない。
 そう誓う幸村の言葉を、信之は嬉しく受け止めた。
「私もお前達の幸せを願うよ。微力ながら全身全霊でね」
 英霊としての新たな生。どうか幸せであるようにと。