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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 夢を追いかけて ■
 
 
 
「もういい! 邪魔したな!」
 壊れるほどの勢いで実家のドアを閉めると、結城 奈津(ゆうき・なつ)は外へと飛び出した。
 奈津の家は由緒ある魔法使いの家柄で、家族はEMUに所属する魔法使いだ。
 家柄を重んじる父と、優しいが気の弱い所のある母、そして一人娘の奈津の3人家族。
 そんな家側に生まれた奈津は、立派な魔法使いになるようにと父から英才教育を施された。けれど奈津がなりたかったのはプロレスラー。
 自分の夢の為、奈津は父に反発し、半ば家出のような形で蒼空学園に入学したのだった。
 パラミタに渡ってから時間も経ち、父も少しは話を聞く気になってくれたかと期待して実家に帰ってみたものの……結局口論になってしまい、再び奈津は家を出てしまったのだった。
 けれど家を出て数歩もいかないうちに、奈津はイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)とばったりと出くわした。
(しまった……!)
 そういえば新年に家に遊びに来ないかとイングリットを誘っていたのだった。
 思い出したけれど、もう実家には戻れない。
「あら、新年明けましておめでとう御座います」
 物凄い剣幕で家を出てきた奈津を見て不思議そうになったイングリットだけれど、すぐに気を取り直して新年の挨拶をする。とんでもない所を見られてしまったと、奈津はあわあわと慌て。
「えっと、イングリット……そ、そうだ! あんた好みのいいトコあるんだ。一緒に行って汗を流そうぜっ」
「はい? それはどういう……」
 事情が分からないままのイングリットを引っ張るようにして、奈津は昔親に内緒で通った小さなレスリングジムに連れて行った。
 
「久しぶり。悪いけど、ちょっと使わせてもらえるか?」
 新年の挨拶もそこそこに奈津かそう頼むと、オーナー兼トレーナーの気さくなおじいちゃんは、もちろん構わないよと着替えまで出してきてくれた。
 このジムは奈津が病弱だった頃、療養から帰るたび覗きに来ていた場所だ。オーナーも10人ほどの練習生も皆、目をきらきらさせてプロレスに見入る奈津を可愛がってくれたものだ。
「新年早々、スパーリングをすることになるとは思いませんでしたわ」
 そう言いつつも、奈津に何かの事情があると察したのだろう。イングリットは深くは聞かず、相手をしてくれた。
 軽く汗を流すと、奈津の気分も幾分すっきりしてきた。やはり自分は身体を動かすことが好きなんだと実感する。
「……ありがとう。身体動かしたら少し落ち着いたよ」
 奈津が言うと、イングリットも汗を拭きながら笑う。
「それなら新年早々、汗をかいた甲斐もあると言うものですわ」
 その笑顔に励まされるように、奈津は実はと切り出した。
「あたし家出娘でさ。本当は、パラミタで友だちも出来たし、あっちで上手くやってるってことをパパ……じゃなくて親父に見せたら、少しは納得してくれると思ったんだ。それでイングリットに遊びに来てもらうことにしたんだけど……なんか見苦しいところ見せちまったな」
 照れたように頭を掻いて、奈津は続けた。
「パートナーは量でお留守番だ。だってバイト代だけじゃあたし1人分の旅費しか稼げなかったしさー。あーもー、上手く行かないよな。夢追いかけるのも大変だぜ。なぁ、イングリットのとこの両親はどうなんだ?」
「どうと言いますと?」
「古武術とかに夢中なのは容認してるのか? イヤじゃなかったら聞かせてくれよ!」
「両親との関係は良好ですわよ」
 でなければ百合園女学院に通い続けるのは難しいとイングリットは答えた。
「もともとうちは海軍の将校を輩出してきました家系ですから、わたくしも幼少の頃から文武両道に習い事をしてきましたの。ですからバリツを習いたいと言った時も両親は反対することはありませんでしたし、逆に古流武道の根底にある礼儀作法を学べることを喜んでくれましたわ」
「羨ましいな……」
 自分の父親もそうやって理解を示してくれれば、ここまで衝突することもないだろうにと奈津は思う。
「あなたのところは、どうして反対されているんですの?」
 反対に聞いてくるイングリットに、奈津はこれまでの経緯や自分の持つ夢について話した。
 
 汗臭いジムは年頃の少女に似合いの場所ではないけれど、そうして熱く夢を語るには実に似合いの場所なのだった――。