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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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1 カリペロニアからの旅立ち

 カリペロニアには既に続々と、人、物資、そしてイコンが集まっている。
 小島とはいえ充分な広さがあるはずだが、この集まり具合では少々手狭に感じるほどである。
 物資やロボットが行き交う様を、大総統の館の最上階『ダイソウトウの間』で、ダイソウ トウ(だいそう・とう)は感慨深げに眺める。
 ダークサイズは、あくまでパラミタ大陸征服を目指す『謎の闇の悪の秘密の結社』であるので、宇宙進出が征服活動にどのような貢献をするかは謎であるが、彼の気持ちは分からないでもない。

「ついに我々ダークサイズも、宇宙を舞台とする時が来たか……」
「よそ見しないで最後まで話を聞く!」
「……うむ」
「うむじゃなくて、はい!」
「……はい」

 ダイソウは正座をさせられ、茅野 菫(ちの・すみれ)がこんこんと説教するのを聞いている。

「……別に、ニルヴァーナに行くのを止める気はないのよ。それ自体はいいのよ」
「うむ、では問題ないな。私は準備があるので……」
「違うでしょ!」

 ダイソウが説教から逃げようとそそくさと立ち上がるのを、菫は一喝して止める。

「ったくもう。で? ニルヴァーナで何するつもりなの?」
「一応、ニルヴァーナ征服を目論むつもりだ」
「です!」
「です」
「……どうやって征服するの? プランは?」
「ニルヴァーナは未知の土地だ、です。行ってみなければ分からぬです」
「……ねえダイソウトウ。聞くのも野暮だって分かってるけど、あんた……今回も何も考えてないでしょ」

 菫はずばりと核心を突く。
 その言葉を受け、ダイソウは微動だにせず、目深にかぶった軍帽の下の瞳をキラリと光らせる。

「はい……!」
「はいじゃない!!」
「さっき、はいと答えろと言ったではないか」
「そういうことじゃないわよ!」

 ダイソウの揚げ足を取ったような返事に余計にいら立つ菫を、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)がなだめる。

「まあまあ。ソウトウの独断専行は今に始まったことでないですし」
「そこが問題なんじゃない。勝手に変なイベントは始めるわ、バイトで長期休暇取るわ、その度にあたしたちがめんどくさい目にあって。忘れたの? エリュシオンじゃ、この人逮捕されてたのよ? 今じゃ脱獄犯よ、この人」
「ふふ、そういえばそんなこともありましたね」
「いっつも傍にいるあんたがそんなことでどうするのよ……」

 菫の説教が翡翠にも及びそうになったのを見て、今度はクロス・クロノス(くろす・くろのす)が、

「でも、ダークサイズがここまで大きくなったのも、そのおかげですよね?」

 と、やんわり菫を諭す。
そこを突かれると菫も弱いようで、こほんと咳払い一つして気持ちを落ち着ける。

「まぁいいわ。始まってしまったものは仕方ないし。ただ、今までの二の舞を踏むのはゴメンなのよ。そこで……」

 菫は、名刺サイズのカードをダイソウに突きつける。
 そこには、『ダイソウトウ専属・内偵監査部』と書かれている。

「おはようからおやすみまで、ダイソウトウが余計なことして混乱を起こさないように監視する部隊を作るよ。ニルヴァーナに無事に着けるよう、ダイソウトウが何かしでかしそうになったら、全力で止めること。実力行使もやむなし。折檻OK」

 と言いながら、菫は用意したカードを翡翠やクロスに配り始める。

「菫さん、私たちもですか?」
「当然でしょ」

 菫は続いて山南 桂(やまなみ・けい)にもカードを強制的に渡す。

「俺もなんですか」
「ダイソウトウのお世話係は全員強制。あんたは……いいか」

 フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)は内偵監査部に入れてもらえないようで、

「あら、あたしは不適格だっていうの?」

 と、既にティーパーティを見越した超ミニ丈のメイド服で、少し不満げに言う。
 カードを配る様子を、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が羨ましそうにじっと見ている。

「……入りたいの?」

 菫の言葉に、エメリヤンは待っていたようにこくんこくんとうなずく。

「エメリヤン……ダイソウさんの監視なんてできるのー?」

 パートナーの高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が心配そうに彼を見上げるが、エメリヤンは受け取ったカードを見て、これでもかというほど目をきらきら輝かせている。
 その流れで、当然のように結和にもカードが渡され、

「ええー! 私もですかー? 私ダークサイズじゃないんですけどー……」

 と、カードを持てあましてきょろきょろする。
 エメリヤンに至っては、結和の肩を叩き、

「結和……見て見て」

 と、早速胸元にカードをつけて、また目がきらきらしている。

「内偵監査部か。秘密組織のようでかっこいいではないか」
「……あんた、絶対反省してないでしょ」

 余計なことを言ってまた菫から叱られつつも、そろそろ出発のために館の外へ出ようということになり、ダイソウは立ちあがってマントを翻す。
 ダイソウは久しぶりのエメリヤンに乗ろうと、彼に獣人化を促す。
 しゅたっと敬礼するエメリヤンを見ながら、結和は、

「ダイソウさん……エメリヤンは私のパートナーだってこと、覚えてますよね……?」

 と、遠慮がちにつぶやきながら、ダイソウに続いてエメリヤンに乗る。
 エメリヤンは背中のダイソウに首を向ける。

「大総統大総統。僕新しい技覚えたんだよ」
「ほう、ならばコクオウゴウ。早速見せてみるがよい」
「うん……!」

 エメリヤンは【ふわふわ気分】を駆使して、スキル名通りにふわりと身体を浮かせる。
 彼はまた目を輝かせて

「どお? どお?」

 と言いたげにダイソウを見る。

「おお、空飛ぶ山羊か……」

 ダイソウが驚くのを見て、エメリヤンも満足そうに前を向く。
 ダイソウは改めてエメリヤンに前進の指示を出す。

「よし、ゆけい! 飛天ペガサス!」
「あれー、名前変わってませんかー!? そもそもエメリヤン、山羊なんですけどー」

 結和の戸惑いをよそに、エメリヤンは扉に向かって前進する。
 のだが、屋外なら颯爽と飛び立つところを、室内では安全運航となり、これまたふわふわと雲が漂うようにゆるゆると進んでいく。

(外でやればいいのに……)

 その場の全員がそう思ったが、きりりと引き締まった表情のエメリヤンを思いやって、誰も口には出さなかった。


☆★☆★☆


「何、お前達は残るのか?」

 大総統の館の外へふわふわと降りてきたところで、ダイソウはジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)の提案に意外そうな顔をする。

「ちーと、今回はやりてえことがあってな」

 ジャジラッドは愛機バルバロイにもたれかかって、ダイソウを見下ろす。
 ダイソウは、てっきりジャジラッド達も来ると思っていたし、予想される鏖殺寺院の一派ブラッディ・ディバインとの戦闘において、彼の戦力に期待もしていた。
 ダイソウが留守番をして何をするのか、と問うと、サルガタナスがアピールする。

「カリペロニアに、巨大なアイスリンクを作ろうと思いますの」
「アイスリンク?」
「狙いは、冬季ろくりんピックの、カリペロニア誘致ですわ」
「ろくりんピックだと?」

 突然の提案にダイソウがオウム返しに終始していると、ジャジラッドが不敵な笑みを浮かべて人差し指を立てる。

「ダークサイズもいよいよ宇宙進出だろ? こいつはなかなかでけえ功績だぜ。俺達が此処まで来た以上、シャンバラ政府も俺達を無視できなくなるはずだ。これから先、知名度を加速度的に上げるにゃ、ろくりんぴっくの呼びこみが一番効果的だと考えてな」
「ふむ……お前が文化事業に食指が動くとは知らなんだ」

 ジャジラッドの口から『ろくりんピック』の言葉が出るのを、さらに意外そうにするダイソウ。
 ジャジラッドは続ける。

「リンク一つ作っときゃ、幅広い競技に対応できるしな。オレの目的は、誘致アンド、ダークサイズチームのろくりんピック出場だ。そこまでできりゃあ、俺達の名を轟かせるのに充分の効果があるはずだぜ? パラミタ大陸征服が、10歩も20歩も近付くって寸法だ」
「しかしジャジラッドよ。リンク設営の費用や人足はどうする? 我々ダークサイズはエリュシオンへの旅の借金を返し終わったばかりで、提供できる資金はない」
「何? ウソだろ」
空京放送局の株式も売却する予定はないしな……」
「ちっ……思ってたより手こずりそうだぜ。とりあえず西カナンの【DSペンギン】達を連れてきたぜ。あとはカリペロニアのペンギン達を使えば……」
「待てジャジラッド。戦闘員もオクタゴンで戦ってもらう。ペンギン部隊・パンダ部隊も連れていかねば。残せるのはお前が連れてきたペンギン達だけだ」
「おいおい、待てダイソウトウ。それじゃろくりんピック開催に間に合わねえぜ」
「お前が来れないならば、なおさら戦力を分けるわけにはいかぬ」

 めったに見られない、ダイソウの本気モードの論戦。
 ダイソウも鏖殺寺院に対してかなり警戒しているようで、ジャジラッドの抜けた後の戦力補充にはかなり気を使っている。
 ジャジラッドとダイソウの論議が、ケンカのような雰囲気になって来たのを見て、サルガタナスが、

「では、ネネのパパに協力をお願いできませんか? 彼ならばダークサイズへの協力は惜しまないのでは」
「ふむ。奴も気分屋だからな……だが連絡を取ってみよう。リンクを作るのは許可する。だがろくりんピック誘致については、あまり期待は持てぬな」
「ちっ、くっそ。ろくりんピックはダークサイズ向けだってのによ……しかたねえ。すぐには無理でも、この先の誘致を見越して、やるだけやってみるぜ」
「わたくしも、【宣伝広告】でカリペロニアの優位性を流布いたしますわ。いずれシャンバラがダークサイズに惹かれるであろうことは、目に見えておりますもの」

 ろくりんぴっくという大きなイベントに目をつけたが、すぐには結果を得られないところで若干のいらだちを隠せないジャジラッド。
 それを見てダイソウは言う。

「気を落とすでない。東京もオリンピック誘致に10年以上取り掛かって、未だ実現を見ておらぬ。政治とは難しいものだ」

 そもそも、蒼空の城ラピュマル計画の提案者であったジャジラッドとサルガタナス。
 その二人がラピュマルの本格的な初陣に留守番をするのは、ダイソウとしても少し寂しさを感じているようであった。