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海の都で逢いましょう

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●Crossroads(3)

 その女性の歩みは、なんとなく人目を惹いた。
 華奢な体躯である。なで肩、腰回りも細くスレンダーという表現がぴったりだ。気恥ずかしそうに歩いているのは、彼女が黒いワンピースの水着ただ一枚とサンダルだけで来ていることにあるだろうか。肩紐も黒、やや開いたU字型に胸元がオープンになっているタイプであり、バストが描くなだらかな谷間が表に出ている。当然、抜けるように白い肌は肩も鎖骨も露出していた。
「少尉も、来てらしたんですか?」
 彼女――ユマ・ユウヅキ(ゆま・ゆうづき)は小暮秀幸を見つけ話しかけた。
「え? あ……はい」
 目のやりどころに困ったように秀幸は言う。
「上着……着なかったのですか?」
 やっとそれだけ言うと、今度はユマがはっと驚いたように答えた。
「水着がドレスコードと聞いていたのでこれだけかと……そういえば、皆さんはパーカーなどお召しですね?」
 彼女はしっかりしているようで案外、うっかりしているところもあるようだ。
「水着は推奨なだけで制服でもいいと聞きました。そのお姿だとユマさんは注目度が30%増しになるのでは……ないかと。着替えるかパーカーを借りられてはいかがです?」
 ごにょごにょと続けると、秀幸は足早に立ち去った。
 やや逡巡するも、ユマも更衣室に戻ろうとしたが、そこで柊 真司(ひいらぎ・しんじ)に声をかけられた。
「交流会に来ていると聞いてな……その……何だ……会いに来た」
 そこまで言って、バツが悪そうに真司は視線を落とした。
 ユマも無言で足元を見た。
 ややあって、改めて真司は口を開いた。
「この前は正直に答えてくれてありがとう。おかげで気持ちに整理が付いた」
 先日、彼がユマに告白したことを言っているのだ。そして彼女に、「今はまだ、誰かを好きになるのは難しい」と断られたことも。
 ここでようやく、彼はユマが水着だけでいることに気づいたらしい。紳士ゆえ決して彼女の体を眺めたりせず、事情を聞いた。
「そうか……なら、一時的にこれでも」
 真司は、自分が着ていたパーカーを脱いで手和達したのである。だがすぐに気づいて手を引っ込める。
「すまない。これは地肌が触れていた……やめておこう」
「いえ」
 構いません、とユマは微笑を浮かべた。
 真司にとっては、うっとりとするような微笑を。
「ありがとうございます」
 黒いパーカーにくるまり落ち着いたユマ、それに真司は、並んで波打ち際を歩いた。そうするのが自然に思えた。
「だが正直に言うとだ……俺はまだお前を諦めていない」
 潮騒を聞きながら彼は言った。自分の鼓動も聞こえているように思う。
「だからまずは友人としてお前がお前自身を好きになれるように手伝っていきたいと思っている。……たとえその結果、俺じゃない人間を好きになろうともだ」
 もちろん迷惑でなければ、だが、と言い添えることも忘れなかった。
 ユマの目は、天学生にも教導団にもあまり見られないすっと切れ長の一重瞼だ。けれどその双眸に冷たい印象はなく、むしろ、慈愛に満ちているようにンジは感じていた。けれどまだ、彼女の濡れたような目を直視する勇気はなかった。
「お願いします。少なくとも私は決して、あなたのことを嫌いになったわけではないのですから……ただ……ごめんなさい、うまく言えませんが、お気持ちは嬉しいです」
 私の友達でいてください、とユマは言った。
 静かな波音が心地良い。
 真司は波音とユマの言葉を共に聞き、一度目を閉じて、開いた。
「なら友人として、これからもよろしくだ。今来たところなんだろう?」
 ユマがうなずくのを見て続ける。
「バーベキューに加わりに行かないか? 海京は俺のホームグラウンドだ、ここから見える色々なものについて教えたいんだが……?」
「はい……喜んで!」
 菫の花が開いたように、ユマが笑った。