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海の都で逢いましょう

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海の都で逢いましょう
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●Crossroads(2)

 食べ歩きといった風情で、アホ毛ぴんぴん金元なななと、本日は丸坊主な小暮秀幸はなんとなく連れだって会場を闊歩していた。
「コンロによってバーベキューって味が違うよね。小暮君、その秘密について教えてよ!」
「あいかわらず無茶振りするなぁ……自分にもわからないよ」
「えー! とんちのパワー、いわば『頓智力(とんちぢから)』を集めるために頭を丸めたんじゃないの? 南無サンダー! とか言って」
「それはとんちの得意な小坊主さんの話だー! それから『南無三だー』だろ変な読み方するなよ……」
 怒る気にはならないが、手にしたパンフをなんとなくクシャクシャにしてしまう秀幸だった。なななといるとどうも調子が狂う。
「ななな少尉ちゃん」
 そのとき呼びかける声を聞き、
「はいな」
 呼ばれて飛び出てなんじゃらかんじゃらと意味不明なことを言いながら、なななは声の主を捜す。
「あー、ゼーさん♪」
 ほえほえと、お座敷犬が知り合いを見つけたときのような様子でなななはシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)に笑いかけた。
「よう、ななな、来てたんだな」
 かく言うシャウラ(ななな曰く『ゼーさん』)はビンテージもののジーンズをバックル大きめのベルトで締め、センスのいい黒Tシャツとドライビングシューズというアメカジスタイルでまとめている。ぱっと見普段着だが、見る人が見ればすごくお金のかかっている一式であると気づくだろう。相変わらず色男だ。
「ゼーさんこそ。ゼーさんと海京で逢うことになるとは思わなかったな」
「海の都で逢いましょう……か。なんだか運命的なものを感じたりしないか?」
「運命? わからないけど良質の電波はピリピリと感じてる!」
「電波……ね。うん、それは良かった。……ところで元気だったか?」
「なななはいつでも元気だよ。ゼーさんは?」
「……実は、さっきまでは元気じゃなかった」
「え、どうして?」
「可愛い女の子が近くにいなかったからな。だから、もう今は元気だ」
「なるほど、どっかっで可愛い女の子でも見たわけだね。ユーシスさんもお久しぶり。あ、ひょっとして『可愛い女の子』ってユーシスさんのこと?」
 電波全開娘は丸っきりシャウラの言葉の意味を理解せず、彼の連れユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)に話しかけていた。
「ご無沙汰しております、なななさん。ところであの……私は男ですが」
 漫画的表現を使うなら、きっといまユーシスの頭には汗のマークが描かれているだろう。なお、ラフなシャウラにいくらか合わせたのか、ユーシスも今日はシャツとズボン、薄手の茶色のベストというセミフォーマルな服装だった。
 ところでやはり、なななはどこかズレた解釈をしたらしい。
「ああそうだよね。それにユーシスさんなら、『可愛い』というより『綺麗』とか『美人』って言うべきだよね!」
 なぜか一人で納得した様子で、なななは彼らに背を向け、二人の前にあったバーベキューコンロをのぞき込んだ。
「わーい♪ 色々焼けてる〜。これより宇宙刑事金元ななな、コンロの捜索と証拠品(主に肉)の押収を行いマース♪」
 なんて言いながら彼女は箸を取る。
「おい、俺が『可愛い女の子を見て元気出た』って言ったのはだな……」
 間抜けなことをしているということは自覚しつつも、シャウラは自分の発言について解説せざるを得なかった。
「それは『なななが可愛い』って意味で……」
 背を向けているなななの肩に手をかけるが、
「はに?(なに?)」
 と、振り返った彼女の顔を見て彼は噴きだしてしまった。
 なななは手早く食べ物をたくさん頬張って、ほっぺをプクーと膨らませ満足そうな顔をしていたのである。
 こらえきれず笑いながらシャウラは言った。
「リスかハムスターみたいだな! 『げっ歯類宇宙刑事ななな』か」
「ふい(うい)」
 なななはその顔のままで敬礼した。
 まったく……と小動物を見る気分でシャウラは思うのである。膨れたらますます可愛いじゃないか。
 こうして四人は火を囲んでバーベキューを続けた。
 ……四人?
 シャウラとなななと、ユーシスと……?
「ところで、自分もいるって気づいてますか。エピゼシー殿?」
 小暮秀幸が、丸きり無視されている状況に思わず呟いたのだった。
「小暮? あ、わりぃ男は目に入ってなかっ……」
 しまった、とシャウラは思った。彼って上官じゃないか。やばいかも。
「失礼しましたっ!」
 一応敬礼しておくと、
「いえ、自分のほうが年下ですのでお構いなく」
 丁寧に秀幸は返答した。けれど、
「……お邪魔なら自分はどこかへ行きますが」
 目に入ってなかったと言われたのは少し傷ついているようである。だがそんな秀幸をユーシスがフォローする。
「……うちのシャウラが失礼しました。お詫びと言っては何ですが、焼くのは私が担当しますよ。コーラ飲みます?」
「いえお構いなく。それでは失礼」
 結局秀幸は立ち去ってしまった。
「あ、元・超魔王が行っちゃう。じゃあ……」
 と彼を追おうとするなななを見てシャウラは反射的に動いた。ここで引き留められるかどうかが腕の見せ所だ。
「待ってくれななな……実は相談したいことがあるんだ」
「どうしたの深刻そうな顔して」
「聞いてもらっていいか?」
「そりゃまあ、ゼーさんの頼みなら」
「恩に着るよ。実は俺……宇宙刑事になりたいんだ。弟子にしてくれ……いや、して下さい、ななな様」
「えーっ!?」
 ピカピカピカーっと効果音を付けたくなるくらいなななの目が輝いた。
「それは良い心がけだよ! 宇宙刑事になるにはね、まず銀河警察機構に登録して……あ、でもゼーさんって地球人だっけ? そう簡単に資格が入手できないかなぁ……」
「あ、いや」
 なななの食いつきの良さにちょっと戸惑いつつシャウラは言う。
「そこまで本格的でなくていいんだ。マジバナとして教導だし、ご町内の平和くらいは守りたいんだぜ」
 弟子入り云々は口から出任せだが、これは彼の本心である。あまり他人に言わないが、シャウラはボランティアながらヒラニプラ山岳地帯各村の巡回を未だに月に数回、欠かさず行っているのだ。
「なるほど。準警官くらいにならなれるかも?」
「その訓練の一環ってわけでもないが……お腹もくちくなったしサイクリングにでも行かないか? このあたり観光地だからだろうな、ビーチそばに貸し自転車屋があるのを見たんだ。一旦会場を抜けることになりそうだけど、まあこのあたりを回るだけだし」
「サイクリング? うーん、気持ちよさそうだけどどうしよう〜」
「それほど長くはかかりませんよ。潮風を受けながら走るのは気持ち良いと思います」
 ユーシスも口添えて、「じゃあそうしようかな?」という回答を彼女から引き出すことに成功した。
「途中で消えたら、空飛ぶ円盤にさらわれたとか思われちゃうかもしれないんで、ちょっと教導団の人に断りいれてくるね……」
 と、なななが一時的に席を外した隙に、シャウラはユーシスに向かって両手をパンと合わせた。
「すまん。小暮少尉のことといい、なななを説得してくれたことといい……今日は色々と助けてもらった」
「平気です。むしろシャウラを放っておくほうが気になりますので」
 ユーシスは笑った。ときとして軽薄な女好きと見られるシャウラだが、本当はこんな気遣いができるのだとユーシスは知っている。
「じゃあ行こー!」
 やがてなななが息弾ませて戻ってくる。
 シャウラは手を伸ばして彼女を迎えた。自転車を三台並べ海辺を走ろうじゃないか。
 ……あとは、「夏になったらマリンスポーツやろう」と彼女をデートに誘えるかどうかだ。