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第29試合

 
 
『さあ、波乱の試合の後はどうなるのでしょうか。第29試合です。
 イーブンサイド、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)指令官の機動城塞オリュンポス・パレス
 対するオッドサイドはルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)パイロットと瀬乃 和深(せの・かずみ)サブパイロットのゼアシュラーゲンです。
 初の機動要塞の登場、これは期待しましょう』
 機動要塞オリュンポス・パレスは、岩塊の上に古城が乗っかっているという外観をしている。大口径のグラビティキャノンを主砲として持ち、要塞周辺には浮遊砲台を多数備え、攻守共に万全であった。
 対するゼアシュラーゲンはプラヴァー・ステルスをベースとしている。大幅な改修を加えられた機体は、直線的なデザインで、球面装甲を中心としたプラヴァーとはまったく違う物となっていた。武装も充実しており、大火力による遠距離射撃、または近接戦闘イコンとなっている。
「なんだ、あれは。イコンじゃないじゃないか……」
 アトラスの傷跡近くの地上基地から発進したゼアシュラーゲンの中で、機動城塞オリュンポス・パレスの全容をまのあたりにした瀬乃和深が唖然として言った。
「なんだか、周囲の砲台の上にピアノ線みたいなのが見えるんだけど……あれって特撮?」
 本来浮遊しないはずの物が浮遊しているのを見て、ルーシッド・オルフェールが首をかしげた。
「どんな相手でも全力だ! 飛ばしていくぜ!」
「うん。やっぱり、やるんなら優勝を目指すべきだよね。いっくよー!!」
 ルーシッド・オルフェールはステルスモードを発動させると、初っぱなからリミッターを解除して、フルスロットルのバーストダッシュで突っ込んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「ふははははははははは……」
「ちょっと待ってください。なんで、ハデス君がここにいるんですか」
 なぜか機動城塞オリュンポス・パレスの司令官席に座っているドクター・ハデス(どくたー・はです)を見つけて、天樹十六凪が呆れたように言った。
「なあに、俺はここにいて命令を下すだけだ。なんったって幹部で首領だからな。さあ、我がオリュンポスの参謀にして、オリュンポス・パレスのメインコンピューターでもある十六凪よ! この大会で優勝し、我らオリュンポスの力をみせつけてやるのだっ!
「まったく、もう……」
 困った人だと頭をかかえながら、天樹十六凪が、自らの本体であるノートパソコンに要塞コントロールのコマンドを入力していった。直結しているのはいいが、キーボードでは今ひとつコントロールしにくい。まあ、そのへんは、ドクター・ハデスが乗っているので、手伝ってもらえるだろう。
 とりあえずは索敵だと、天樹十六凪がレーダーに目を移したとき、浮遊砲台の一つが一瞬にして消滅した。直後に、ゼアシュラーゲンの姿が現れる。
「敵の奇襲です! レーザーマシンガンで迎撃してください!」
 回避運動を取りつつ、天樹十六凪が叫んだ。
「いや、それは無理だから。俺、操作できないし、ここで命令するだけ」
「ええっ!?」
 それはないだろうと天樹十六凪が叫んだが、すでに手遅れだった。
「必殺、破岩突!!」
 出力全開で、ゼアシュラーゲンが機動城塞オリュンポス・パレスのコントロールルームに突っ込んできた。
 凄まじい衝撃と共に、跡形もなくコントロールルームが吹き飛ぶ。
 消耗したエネルギーカートリッジを排出すると、コントロールルームを突き抜けたゼアシュラーゲンがゆっくりと振り返った。
 古城の部分から黒い煙をあげ、重低音を響かせて機動城塞オリュンポス・パレスが傾きながらアトラスの傷跡の火口にむかって墜落していく。
 その姿が山の中に呑み込まれた後、激しい噴火と共に機動城塞オリュンポス・パレスが最期を迎えた。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、ゼアシュラーゲンです!』