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自然公園に行きませんか?

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自然公園に行きませんか?
自然公園に行きませんか? 自然公園に行きませんか?

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16


 明日は休日。予定はない。
 とならば、まだ未クリアのゲームをひたすら進めよう。そう決めた瀬乃 和深(せの・かずみ)は、前日から徹夜でゲームをしていた。鳥が鳴く頃に眠くなり、気付いた時には眠っていたらしい。そんな折だった。
 バンッ、と大きな音を立てて自室のドアが開いた。その音で和深は目を覚ます。
 次いで、
「和深さん!」
「和深!」
 上守 流(かみもり・ながれ)セドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)が押しかけてきた。
「えっ、え、何? 何」
「公園へ!」
「出かけるぞ!!」
 寝ぼけ眼のまま現状を把握できずうろたえる和深に、流とセドナはお構いなしといった様子で用件を告げた。
「いや……俺、眠いし。寝るから。あとちょっとでラスボスだしさぁ」
 渋ると、セドナが動いた。さっ、とゲームを取り上げる。
「おいっ?」
「遊んでくれなきゃ返さんぞ」
「なんだよそれ……」
「まあまあ。サービスだと思って付き合ってくださいませんか?」
「休日のお父さんみたいな気分だ」
 まだまだ全然寝不足で、瞼も頭も重いけど。
「仕方ない、行きますか」
 立ち上がって、そう言った。


 しかし出かけたはいいものの、朝日が辛い。
 加えて、やはり頭が働かない。
「……飲み物……」
 が、ほしいと全て言う前に、流とセドナが競い合うようにして走り出した。目指すは自販機か。なんだかよくわからないけれど元気なことだ。苦笑じみた笑みがこぼれる。
 和深は近くにあったベンチに腰を下ろした。
 飲み物を飲めば、少しは頭がすっきりするだろう。
 そうしたら、気の利いた会話の一つや二つ、できるかも。
 先ほど流が『サービス』と言っていたけれど。
 ――たまには、なぁ。……ま、いっか。
 なんて考えながら、朝日を避けるように目を閉じたら。
 あれよあれよと睡魔にさらわれてしまった。


 和深のために、流とセドナはジュースを買ってきた。
 しかし、買って戻ってきた頃、和深は眠っていた。
「無防備な寝顔ですこと」
 苦笑いするように、流。
 すっと和深の隣に腰を下ろし、和深の頭を方にもたれかからせた。
 それからちらりとセドナを見、ふふんと笑う。
 どうです? 背の低い彼方には出来ない真似でしょ。
「……!」
 流の笑みが持つ意味に気付いたセドナが、むっと唇を引き結んだ。
 憮然とした顔でベンチに近寄り、
「なっ……!?」
 和深の膝の上に座った。さすがの流も驚く。
 お前にはこんな甘えた真似はできまい。
 という意味を込め、自慢するように流を見る。
「う、うーん」
 少女二人に挟まれた和深が、呻き声を上げた。流とセドナは顔を見合わせ、一時休戦を視線で伝え合う。


 陽気な日の公園の片隅で。
 二人の少女が一人の男に寄り添い微笑む。
 楽しそうに、幸せそうに。
 ただ、男は暖かな日に二人の少女にくっつかれていたため、暑苦しく寝苦しそうな表情だった。


*...***...*


 空京の自然公園には初めて来る。
「気持ちのいいところですね」
 というのが、レイカ・スオウ(れいか・すおう)の素直な感想だ。
 都市部にあるとは思えない、緑の多さ。必然生まれる澄んだ空気。胸いっぱいに吸い込むと、気分がリフレッシュされるよう。
 レイカの隣には、カガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)が並んで歩いている。二人きりでの散歩。もう幾度もこうしてデートしているのに、未だに気恥ずかしく、どきどきする。
「具合、悪いのか?」
 不意に、問われた。「ふぇ?」と間の抜けた声を発してしまい、慌てて口元を押さえる。
「顔が赤い。体調が悪いなら帰って休んでも――」
「あ、えっと……それは、あの。……大丈夫です。ちょっと、暑いだけです」
 気にかけてくれたのは嬉しかったけれど、てんで見当外れだ。
 ――誰のせいで、こんなに。
 胸が高鳴り、呼吸も上手くできない有様になっていると?
 ――隣にあなたがいるせいですよ。まったく。
 当然、言うことはできないので黙って歩いた。「そうか」とだけカガミは言って、変わらず隣を歩いてくれる。
 ――それにしても。
「昼間からこういった場所でデ、……デートするなんて、ちょっぴり新鮮です、ね」
「ああ。そうだな」
「せっかくだったので、久しぶりにヴァイオリンを持ってきてみました」
 ほら、とヴァイオリンケースを見せる。カガミは驚いたようだった。僅かに目が見開かれたから。
 何か? と視線で問うたが、気付いてもらえなかったのか。
「いいな、ヴァイオリン」
 会話を繋げられた。少しだけ、引っかかる。けれど、そのまま話の流れに乗ることにした。
「でしょう。これだけは、好きですから」
 あの家にいた頃は。
 一通り出来るようになっておけと、好きでもないのに様々な楽器を習わせられた。
 ピアノ。フルート。ハープ。他にもたくさん、思い出しきれないほど。
 そんな中でも、ヴァイオリンだけは特別で。
 これだけは、最初からずっと好きで。
 演奏することが、心から楽しくて。
「その気持ちは、今も変わっていません」
 芝桜の咲き誇る広場でヴァイオリンを弾く。
 これもまた新鮮なことで、気分が弾んだ。
 ――それに、今回はカガミもいます。
 そのことが、一番心を躍らせている。
 ――……私、もしかしたら心のどこかで、一番好きな人の前で演奏するのを夢見ていたのかも……。
 好きな人のために、自分に出来る精一杯をする。
 戦うことばかりじゃなくて。
 演奏で癒すことだって、『精一杯』だ。
 ――カガミは、喜んでくれるかな……?
 どきどきが、今にでも緊張に変わりそうだ。指先が冷たい。緊張してミスをしないか心配だ。
 それに聴衆はカガミだけではない。この広場には、家族連れやカップル等、それなりに人がいて、それぞれの時間を過ごしている。演奏を始めたら注目されるのは明らかだった。
 ――なおさら失敗はできませんね。
 楽しい時間に、素敵な演奏を添えて、思い出を綺麗にするお手伝いができたら。
 ――素敵、かも。
 そう考えたら、緊張は少し和らいだ。けれど、適度に張り詰めている。丁度良い。気負いもなかった。調弦が終わり、弓を持つ右手を動かす。
 暖かい陽気に相応しい、ゆったりとした曲が奏でられた。綺麗に音が伸びている。気持ちいい。
 ――右手。よかった、ちゃんと動いてる。
 手の感覚は、変わらず鈍い。だけど、弓は持てている。動かすこともできている。音を外すこともない。大丈夫。大丈夫。
 一曲弾き終わると、拍手が起きた。演奏に集中していて気付かなかったけれど、弾いているうちに人が集まっていたらしい。一礼し、適当なベンチに腰を下ろした。
「ど、……どうでしたか?」
 自然と隣にいてくれるカガミに問いかける。彼の感想だけが気になっていた。
「良かった。すごく」
「ほ……本当……?」
「嘘を言う必要なんてないだろ。また、聴かせてくれ」
「し、仕方ないですね。そう言うなら、またいつか弾いてあげます」
「ああ。楽しみにしている」
 『楽しみに』。
 ――嬉しい。
 喜んでもらえた。次を楽しみにしてもらえた。それが、単純に、純粋に、嬉しい。
 ――そうだ。『次』があるんだから。
 レイカは拳を握り締める。
 ――右手を、壊すわけにはいかない……。
 自分を、省みることができるだろうか。
 わからない。
 だって、これしかないから。
 ――……本当に?
 考えても、すぐに答えは出そうになかった。