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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 
 第10章

「お祭りって楽しいから、夏の暑さも忘れられるよね!」
 お祭りで、屋台で、花火大会。ここまで揃えば、日本人としては参加しないわけにはいかないと、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)要・ハーヴェンス(かなめ・はーう゛ぇんす)を誘って魂祭を訪れていた。
 花火がよく見える公園の高台で、2人並んで空を見上げた。周囲には、多くの見物客の姿も見える。
 秋日子と要はまだ、友達以上恋人未満の関係だ。2人っきりになれる場所があればいいなと思ったが、そういう場所はよくわからない。
 どこかにはあるのかもしれないけれど。
「人が多くても、それはそれで花火大会らしくていいよね。でも、要はここでOKだった?」
 ただ、要が人混みの中で落ち着けるのか、それが少し気になった。要と楽しく過ごせたらいいな〜、と思ったから、秋日子は祭に来たのだし。
「ええ。人の多いところは少し苦手なのですが、秋日子くんがいるので苦にはなりませんね」
「そう? 良かった」
 安心して、秋日子はまた花火を見上げた。夜空に打ち上がる花火は色鮮やかで、とてもきれいだ。だが、すぐ隣には要がいる。ふと我に返って一度それを意識すると、何だか急に緊張してきた。
(ど、どうしよう、こうやって間近で要の横顔見てると、やっぱりカッコイイなー、なんて……)
 秋日子が居るから苦にはならない。先程は普通に流してしまったが、彼の口から自然と漏れたその言葉は、実はすごいことなのではないだろうか。信頼出来るパートナー、という意味なのはわかっているけど。それでも。
「花火は本当に綺麗ですね。最初にこれを考えた人はすごいと思います。秋日子くんもそう思いませんか?」
 一方、隣の要はしみじみとそう言い、花火から秋日子に目を移した。その瞳が、きょとん、と瞬く。
「……あれ? なんだか固まってないですか? ……大丈夫ですか秋日子くん!?」
 夜空を見上げたままカチコチになっている秋日子に、要は慌てて声を掛ける。何度か名前を呼んでみると、彼女ははっと気付いたように彼を見た。
「……あ、う、うん! 大丈夫だよ!」
「……?」
 不思議に思いつつ、要は再び花火を見上げる。
「お祭りというのは、楽しいものですね。出店をまわるのも楽しかったです」
「だよね! 射的やったり綿菓子食べたり、射的やったりかき氷食べたり、射的やったり射的……」
「射的ばっかりでしたよね……」
 要も秋日子も、射的の景品をたくさん手に持っていた。でも、それも彼女らしくていいな、と要は思った。

              ◇◇◇◇◇◇

 射的の前で、皆が明るい声を上げている
「そうだ、射的をしませんか」
 途中で屋台を見つけた大地の言葉がきっかけだった。誘いをかけたのだからお代は俺が持ちますよ、と提案したがそれはまあ却下され、それぞれに遊べる範囲で楽しんでいる。大地は主にアドバイスにまわっていて、今のところ自分で射的銃は持っていない。
「食うか?」
 アクアは、わいわいと盛り上がる彼女達を後ろから眺めていた。すると、七枷 陣(ななかせ・じん)が隣に立ち、アクアにたこ焼きのパックを差し出してきた。先程まで桃色桜柄の浴衣姿のリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)と、紺色に紫陽花柄の浴衣を着ていた小尾田 真奈(おびた・まな)と射的に興じていたはずだが、いつの間にか離脱して買い物をしていたらしい。
「…………」
 たこ焼きを前に、アクアは一度瞬きした。陣は彼女に対し、共に祭りを周る1人として目を逸らすつもりはないようだった。簡素な態度であり、殊更に事立てる気もないようだ。
 ――ふと、花見の時の事を思い出す。あの時も、食べ物を介して彼と話をした気がする。
 こうして、人との関係というのは少しずつ変わっていくのだろうか。
 彼女はそこに、ささやかな時の流れを感じた。
「……ありがとうございます」
 礼を言って受け取る。2人で並んでたこ焼きを食べる。特に会話も無く黙々としたものではあったが、そこから逃げたいとは思わなかった。
 道行く人々が彼女達の前を、背後を通り過ぎていく。その流れの中で、1人立ち止まる気配を感じてアクアは振り返る。視線の先には――
 驚いた表情で彼女達を見詰める、チェリー・メーヴィス(ちぇりー・めーう゛ぃす)の姿があった。

 ――チェリーは1人、魂祭を訪れていた。如月 正悟(きさらぎ・しょうご)に、夏祭りの夜に灯篭流しが行われると聞いたからだ。何を思い、彼がその話をしたのかは分からない。
 だけど……
 話を聞いた時に、行ってみようと思った。ほぼ、即決だったと思う。
 灯篭流しについてはただ、死者に対して生者が行う、という漠然とした事しか知らなかった。だが多分、それだけで充分だった。
 意味を理解したのは、後日、習わしについて調べた時。
(夏祭りか。実際に来るのは初めてだな……)
 そして、この時のチェリーは川沿いの受付場所へ向かう途中だった。といっても、開始時間にはまだ間がある。その時間埋めも兼ねて、彼女は祭会場を巡っていたのだ。
 ――祭というのは、歩いているだけで気分が高揚してくる不思議なものだった。空に上がる花火の音、感嘆の声、沢山の人、気風の良い店員の掛け声。
「……ん……?」
 賑やかな屋台通りの中、一際明るい空気を放っている店があった。楽しそうな声につられてそちらに目を遣り、足を止めたのはその時だった。
「…………」
 冷静に考えれば、全くおかしい事ではない。アクアがどこに住んでいるのか、現在何をしているのかは知らなかったがここはツァンダの公園であり、ファーシー達は蒼空学園に所属しているのだ。
 だが、出遭ってしまった驚きが勝り、そういった事には思い至らない。
 ただ、彼女は立ち止まり、アクアを見詰めていた。

「チェリー……」
 たこ焼きのパックを持って、アクアは目を見開いていた。硬直したかのように動かない2人の間で、陣が口を開く。
「来てたんやな。祭、どうや? 何か食ったか?」
「いや……」
「これ、どうですか?」
 アクアが一歩歩み寄り、パックを差し出す。残り半分程になったたこ焼きとアクアを順に見て、驚き覚めやらぬままにチェリーは頷いた。つまようじを使って、たこ焼きを口に運ぶ。半ば自動的な行動だったが、それはまだ温かく、美味しかった。
 もくもくと、1個1個順番に食べていく。
 常に人が動く中で、そこだけ時間が止まったようで。けれど、確かに“何か”を交し合っていて。
 パックが空になった頃に、陣が射的の屋台を指し示す。
「2人でやってみたらどうや? ほれ、あんなふうに」
『…………』
 彼女達は顔を見合わせ、アクアが「やりますか?」と訊いてくる。
「やっても、いいけど……」
 棚に並び、また撃ち落とされていく景品を見ながら、チェリーは答える。否応なく高まる気持ちを、彼女は抑えられそうになかった。

(ほー……)
 正に、昔取った杵柄というやつだった。狙った景品を、チェリーはほぼ確実に落としていく。それに比べて、アクアはあまり上手とはいえなかった。十人並というところか。
「あー、楽しかった!」
「……ピノちゃんピノちゃん」
 ピノが店から離れて通りに出てくる。陣が手招きすると、彼女は「?」と素直に近付いてきた。撃った数に比べ、抱えた景品の数は少ない。
「なに? 陣さん」
「前、リーズにタックル教わっとったやろ。あれな……」
 桜の下、この公園で、ピノは過保護なラスに思いっきり頭突きをしていた。それはリーズのアドバイスが元になっていたのだが、もう一回りアップグレードしたものを入れ知恵しよう、と陣はピノを呼び寄せたのだ。勿論、ラスには秘密で。
「あの時の頭突きは筋が良かった。でももう一歩やった。で、ココに気合を入れてな……」
 自分の頭頂部を指差しつつ、こっそりと新技を伝授する。こうなったらもういっそ――
「これで、エ●モンド●田然としたスーパーピノちゃんの完成や!」
「おい、お前今なんつった……?」
 ごにょごにょ話を終えて陣が満足していると、いつの間に接近していたのかラスが至近距離から声を掛けてきた。何か、コワい。
「ピノをあんな相撲取りと一緒にするなよ。まず顔にペイントもしてねーし腹も出てねーしお笑い要素も……」
「いや、見た目の話やなくてやな……?」
「にははっ、ラスくんは相変わらず過保護だねー」
 その彼等を、リーズは楽しそうに見物して。真奈もまた、一歩下がった位置で見守っていた。
 こういった騒ぎもまた、お祭りの醍醐味なのだから。

「志位さんは遊ばないの?」
「そうだよー! 見てるだけじゃおもしろくないにゃー」
 ケイラと真菜華のそんな声が聞こえてきたのは、その時だった。真菜華の付けている可愛い系のアクセサリーが増えている。彼女の射的の腕は中々のもので、既に、一通り欲しいものをゲットしていた。
「そうですね、先程から玄人よろしく助言ばかりしていますが……実際の実力はどうでしょうか。是非、見てみたいですね」
 2人に続けてスヴェンも言い、困ったように笑う大地は、「では……」と、その笑顔のままにラスの方を向いた。
「ラスさん、俺と勝負してみませんか?」
「勝負?」
「ええ。といっても、勝負するだけでは面白くないので何か賭けましょうか。俺が負けたら、1つ何でも言うことを聞きます。ラスさんが負けたら……例えば、アクアさんと手を繋いで歩く、とか」
「「はあ?」」
 ラスとアクアの声がハモる。こうなれば、アクアも口を出さないわけにはいかない。
「突然何を言ってるんですか。私は絶対にそんな事しませんよ。第一、この男が勝てるわけないでしょう」
「何だと? ……やってみなきゃ分かんねーだろーが」
 こめかみをぴくっと引きつらせてラスは射的銃を手に取った。結果は――
「……だから言ったんです! 私は関係ありませんからね。手など繋ぎませんからね!」
「詐欺だ……詐欺だろこれ……」
 得意なんてものではなかった。大地は当たり前のように、一度で3つ位景品を落とす。弾の跳ね方まで計算された、余裕のある完璧なプレイだった。
「まあまあ。……はい、どうぞ。景品は差し上げますよ」
 獲得した景品を、アクアとラスにそれぞれ渡す。気のせいではなく、とてもイイ笑顔をしている。そして彼は、一番可愛らしい景品だけ残してティエリーティアに渡した。
「ティエルさん、俺からのプレゼントです」
「わぁー! ありがとうございますー!」
「……何というか……大変だな……」
 チェリーが、2人に気遣わしげに声を掛ける。混じっているのには気付いていたが、と、ラスは顔を上げた彼女に言った。
「まさか、お前に同情される日が来るとはな……」
 その理由が射的の罰ゲームだというのが、また悲しい。
「誰かと来たのではないのですか? 先程は1人のようでしたが……」
「……灯篭流しに来たんだ」
 アクアに問われ、チェリーは景品を持つ手に力を込めた。
『…………』
 誰の為の灯篭流しなのか。それは明確過ぎる程に明確な、聞くまでもない答えを持っていて。何となく、3人の間に沈黙が落ちる。
「一緒に来るか?」
「……え?」
「開始までまだ時間あんだろ。1人の方が気楽ってんなら、勧めねーけどな」
 チェリーはびっくりしたように目を見開いた。暫くして、こくんと頷く。
「ふたりが、いいって言うなら……」
「……私は構いませんよ」
 アクアは言った。当時から、彼女に対しては『山田のパートナー』という以上の嫌悪感は持っていなかった。“彼”が居なくなった以上――特に拒む理由は無いのだ。
 チェリーを加え、一行は射的の店を離れる。もう景品が無い、と店主が嘆いているのは聞かなかった事にした。まあ、景品を取り捲ったのは彼女達だけではない筈だ……多分。

                  ⇔

「浴衣の帯が緩んじゃったよー、ケイラちゃん直してぇ!」
 真菜華がケイラの腕を引っ張って耳元でそう言い始めたのは、ファーシー達がヨーヨー釣りをしている時だった。他の皆も、近場の店を覗いたりと散っている。
 ひそひそ話をするポーズを取ってはいたが、しっかりと丸聞こえである。
「ああ、はしゃぎすぎちゃったんだね……。影で直すから」
 背後にシートを張ったタイプの屋台を丁度良く見つけ、ケイラは彼女をこっちこっちと手招きする。見事なまでに平然としていた。
「少しは躊躇えよ、お前は……」
 呆れ半分、羨望半分のラスの声を聞き、ケイラは「え?」と振り返った。何を言われたのか分からなかったらしく数秒を要してから苦笑する。
「着付けたのも自分だからね。特に恥ずかしいとかはないかな」
 そして、裏へと消えていく。「ピノちゃん、行こー!」と、当然のようにピノまで連れて真菜華が続いた。
「らっすんはそこで待っててねっ!」
「……誰が行くか」
 何の牽制だ、と、内心の呟きと同時に声に出す。
「………………………………………………」
 だが、待てど暮らせど戻ってこない。そのうち、ファーシーがヨーヨーを持って立ち上がり、皆も集まってくる。帯を直す程度、そう時間も掛からないと思うが――
 少し、心配になってきた。彼女達は、まだあの屋台の影に居るのだろうか。
(……しょーがねーなー……)
 乱暴に頭を掻いて、言い訳めいた言葉を連ねながら裏へ回る。
「いつまで掛かってんだ? 戻って来ない方が悪いんだから、見られても文句言うな……」
 よ、という最後の一音が何処かに消えた。真菜華の胸に、ケイラが遠慮なく手を入れて衿の上下を調節している。まだ途中で、緩んだ衿元からその中が見えていた。結構大胆にはだけていて、あと少しで下着が見えそうである。角度が変わるとまずいラインだ。
 にしても――何故、まだこの段階なのか。口を動かし手を動かしていなかったのか。
「…………」
「あ、ラスさんも来たんだ」
 ――何だか、ものすごく来てはならない場所に足を踏み込んだような気がした。
 だが、きょんっ、と、曲がりなりにも驚きを現したのはピノだけで。真菜華は彼を見ると、強気の猫みたいな表情で振り返った。
「あ、やっぱりのぞきに来たーーーー!」
「! 前隠せ! 前!!」
「前?」
 何のことかと言うように、真菜華は浴衣の衿元を持って胸元を確認する。押さえるどころか、無言のまま衿をぴらっと捲ってラスが絶句したところでにかっと笑った。
「残念でしたー! 水着だから見えてもいいんだよーだ」
「水着だ……?」
 改めて直視してみると、限りなく白に近い薄桃色のそれはビキニにも見える。しかしビキニな以上、この暗い中でどちらかを把握するのは難しいだろう。
「はい、おわりー。らっすんは表で待っててね! ほらほらほら!」
 胸元は閉じ、ラスは屋台の裏から押し出された。
 そして、どーん……と、花火……ではなく、エイムが彼にぶつかってきたのは、通りに戻った直後のことだった。

「なっ……!」
 好奇心と祭を前に、エイムが些細な事を気にするわけがない。走り回っていればぶつかるのが道理であり、これまでぶつからなかったのが奇跡だろう。
 エイムの両手は、出店の食べ物で塞がっていた。受身を取りようもなく、倒れるしか術のない彼女はそのまま前のめりに倒れてくる。激しく動いていたのだろう、乱れた襟元から柔らかそうな胸と谷間が見えた。色々な意味で、混乱する。
「……! ちょ、待っ……!」
 何をする間もなく、人の重みをその身に感じた。突然の事に思考が追いつかなかったのは一瞬のことで、すぐに幾つかの未来図が頭を過ぎる。押し戻してたたらを踏んで逆に転ぶ図とか、あるいは他の祭客を巻き込む図とか、一緒になって転んで自分が頭をぶつける図とか。
 いずれにせよ碌な結果にはならなさそうで。
 ……否、何にしろ対処する時間など無かったのか。時の流れを遅く感じていたのはただの錯覚。エイムの勢いは思いのほか強く、重力に抗える余地など既に全く無かったのだ。
 気がつくと、彼女の頭を抱えてラスは仰向けに倒れていた。
「痛って……」
 結局、頭をぶつけた。その瞬間に閉じていた目を開けてエイムを見下ろす。束の間の空白の後、途切れたような気がした周囲の音が戻ってくる。
 感じるのは掌から伝わる彼女の温度と、汗の匂い。手を離すと、そのままの体勢で見上げ、エイムは言った。
「びっくりしたですの」
「それはこっちの台詞だ」
 肩を掴んで押す形で起き上がらせる。先程見た通りにエイムの浴衣は緩み乱れていて、視線を感じたのか、彼女は胸元に目を落とした。乱れたら、直さなければいけない。
「…………直してほしいですの」
「は?」
「直してほしいですの」
 エイムは片手に綿菓子、片手にフランクフルトを持っていた。土埃1つ、小石1つつけずに死守したらしい。特に困った顔はしていないが、困っているのか。
「……食いもんなら持っててやるから自分で直せ」
「両手が塞がっていて直せないですの」
「……今の聞いてたか? 大体、なんで下に何も着てないんだよ……」
「浴衣の下には下着をつけないって、本に書いてあったですの」
「……いや、それ明らかに嘘だろ……」
 もしくは、邪道か。ティーン向けの雑誌にある『彼氏を誘惑するテクニック!』とかの特集記事でも読んだのかもしれない。……いや、自分は誘惑されないが。そんな雑誌も読んだことはないが。
「そういえば、今月号のun‐unにそんな記事が載ってたね! 失くしちゃったんだけど……」
 確かに読んだよ、とピノが言った。雑誌を捨てるのが遅かったか。
 それはともかくとして、エイムは食べ物を持ったまま動こうとしない。仕方なく、ラスは彼女の胸元に手を伸ばした。最初から断る権利など無かったらしい。
「……絶っっっ対に動くなよ」
 細心の注意を払ったつもりが膨らみが指に触れる。途端、何か、複数の視線を感じた。サルカモ2匹とシーラが、カメラを真っ直ぐに向けてきている。
「……………………何をやってんだお前らは」
「セクハラだーーーーーっ!」
 戻ってきた真菜華がマナカ☆アタックしたのはその直後で、中途半端に座っていただけにそれは足技としてヒットした。彼女の衿元がまた、少し緩んだ気がする。

 ――結論から言うと、サルカモ達は捕獲出来なかった。アルカディアでもボコボコにされていた彼等は、そう強くはない。だが、セラがさりげなくサルカモ達の前に立って近づけないのだ。守る動機は本人のみぞ知る、だが。折角の映像がもったいない、というのが8割を占めているような表情だった。
 そしてシーラの方は、いつも通りにデジカメを取り上げられていた。
「ああ、いけませんわいけませんわ〜」
 純粋にデジカメを取り返す為、彼女は奮闘している。同姓同士の画像を狙っていた彼女としては、お祭りの1ハプニングを撮った、という感覚であった。それでも、データを消されるのは本意ではない。
「だからそれはこっちの台詞だって……て、あんまり纏わりつくな!?」
 シーラも、バストは中々のものだ。今日は浴衣だが、浴衣なだけに帯の上に胸が乗っかって普段より目立つ。
 流石に下着はつけているようだが――
「おにいちゃん!」
 下着の有無を確認したのが仇となったか、正面からピノの頭突きでぶっとばされた。シーラにはぶつからない、上手い角度だ。ピノの頭が一瞬光ったのは気のせいだと思いたい。それとも光術でも使ったか。
「!!!!!!」
 目が飛び出るほどの素晴らしい威力だった。
「今度シーラさんにセクハラしたらエロ本捨てるからね!!」
「…………」
 ちょっと見ただけで捨てられたのではたまったものではない。いや、捨てられる前に見られた時点でたまったものではない。自分の事は棚に上げて、そんな事を思う。
「良い頭突きだ、GJです! ピノちゃん、世界を狙えるで……」
「七枷……またお前か……」
 陣はピノに、感動すら称えた表情で惜しみない賞賛を送っていた。その彼に、ラスはダウンしたままうらめしげな視線を送る。先程の歌舞伎張り相撲レスラー話の謎は解けた。
「ナンノコトカナー」
 わかりやすく目を逸らす陣は、まこと楽しそうであった。そして、全てが終わった後――
「ご主人様……少々やりすぎではありませんか?」
 小首を傾げて、真奈が陣を窘めた。

「あれ? あそこにいるの、ノルンちゃんじゃない?」
 そこで、ファーシーが人混みの中のノルニルを見つけた。
「……みなさん……」
 うるうるとした目をした彼女は皆を見てほっとしたような顔になる。だが、寝そべっている風なラスには突っ込み――否、純粋な疑問として質問せずにはいられなかったらしい。
「こんな通りの真ん中で、何やってるんですか?」
「ほっとけ。……ちょうど良かった。エイムを回収して……」
「エイムちゃんならいないよ!」
「は?」と、ピノの声を聞いて起き上がる。つい先程まで一緒に居た筈なのだが、確かに、エイムの姿は何処にもない。
「あいつ、どこ行ったんだ……?」