百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

リアクション公開中!

四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~ 四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~ 四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~ 四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

リアクション

「花火、よく見えますね〜」
「すごいですぅ。来て良かったですぅ〜」
 その頃、明日香はエリザベートと花火を見ていた。なるべく人の居ない場所、人が足を向けないような、祭の喧騒から離れたひっそりとした場所。
 芝生の上で並んで座る明日香は、焼きそばのパックを持っていた。
 パックは1つ。
 割り箸も1膳だけ。
 ここに来るまで、2人は屋台を回って色々なものを食べ歩いた。
 焼鳥やポップコーン、お団子、あんず飴や瓶ラムネ。
 1食でお腹一杯になりそうなものは1つ買って半分ずつに。種類が多いものはそれぞれで買って食べさせあう。
 だから、途中にあったかき氷はイチゴとメロンの2種類買って、2人で味を比べてみた。

「エリザベートちゃん、そっちはどんな味ですか〜」
「んん、明日香も食べますか〜? じゃあ、お口開けてください〜」
「おいしいですね〜。こっちはこんな味ですよ〜。エリザベートちゃん、はい、あーん」
「あ〜ん。……おいしいですぅ〜」

 という具合に。
 そして今も、花火を見ながら焼きそばを食べる。1つのパックを、ふたりで。
 同じ箸やスプーンでも問題ない。きっと。
 気にするから、恥ずかしいのだ。
 ――バカップルばんざい。
「あ、ほっぺたに青のりがついてますよ〜」
「そうですかぁ〜? 取ってくださ……あ」
「取れましたよ〜〜。エリザベートちゃん」
 指で上手に取ってなめてみる。これがアイスとかだったらもっとムード出たかもだけど。
 青海苔でもいいのだ。
 ――バカップル万歳。

「花火、きれいですねぇ〜」
「そうですね〜。……エリザベートちゃんも」
「……? 明日香?」
 ――見詰め合ってもいいのかな。まだちょっと早いかな。
 そう思うけれど、明日香の目は花火の方へは戻らない。
 雰囲気の変化を感じ取り、夜空を見ていたエリザベートがこちらを向く。どうしたのだろう、と一度瞬きして。
 それから、どういうことかわかったようだ。
「明日香……」
 向き合って、お互いの瞳を通じて気持ちを交し合って。
 彼女達の影が重なり合う。
「えへへ、キス、しちゃいました……」
 くちびるを離したら、エリザベートは照れたように真っ赤になっていて。
 可愛いな、と、明日香は思った。

 どうやって2人を見つけたのかエイムが戻ってきて、「ノルン様がいないですの」と報告してきたのはその後の話。
 慌てて携帯を出してみたら、そこでピノから電話が入って。
「ノルンちゃんを救護所に預けとくから迎えに来いっておにいちゃんが言ってたよ! 後は知らない、だって!」

              ◇◇◇◇◇◇

「……て、事だから」
「明日香さん達が来るまでよろしくお願いします」
 近くの救護所まで行ってバイト中のプリム・リリムに話をすると、ノルニルもプリムにぺこりと挨拶する。
「う、うん……わかった」
 全ての話を要約して迷子が誰かを把握して頷くプリムに、ファーシーが聞いてみる。
「今日はむきプリさんは来てないの?」
「バイトに来たのはオレだけだよ。今日のムッキーの予定は知らないけど、いつも通りにホレグスリでも作ってるんじゃないかな」
 海で学習したのか、「ムッキーはここの仕事、向いてないと思うし」とプリムは続けた。熱中症やら捻挫やらケガやらになった祭客も、むきプリ君を見たら救護所から回れ右をするだろう。或いは、女子なら襲われるだろう。
 ――確かに、むきプリ君には不向きな仕事かもしれない。

                  ⇔

 だが、むきプリ君はこの祭にやってきていた。秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)と2人で、賑わう人波に乗って歩く。闘神は浴衣を着ていて、むきプリ君はいつものイルミンスール制服姿だ。
(うおお! 浴衣美女! 浴衣美女!)
 道行く浴衣美女につい鼻の穴も膨らむが、膨らませるだけで特に何もしない。友人同士として祭を訪れた2人だが、彼等は告られた方告った方という間柄である。さすがに、自分に告った相手が隣にいる状態でナンパはしない。
 まあ、最近はナンパ自体自重しているのだが――
 多分、むきプリ君も空気が読めるようになったのだ。
 大人になったのだ。
「そういえばムッキーは今年で何歳なんでぃ?」
「む、歳か? 先日33になったぞ」
 ――とっくに大人であった。
 そんな会話をしている内に、2人は場所取りをしていた場所に着いた。闘神は絶景の穴場ポイントと言っていた。

 腰を落ち着けた2人を確認し、そっと後ろを歩いていたラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は踵を返す。道中は危険に巻き込まれないように見守っていたが、ここまで来れば大丈夫だろう。
「さて、邪魔者は退散だな。折角むきプリからホレグスリ貰ったんだし大学で成分を研究して、改良できるかのと別の用途で使用できねぇか試してみるかー」
 流石に、見られているのもあんまり気分の良いものでもないだろう。そう思って、ラルクは空京大学に戻ることにした。

「そういえば、バタバタしててムッキーの誕生日祝ってやれなかったな。ちょいと2ヶ月も経ってしまったが……受け取ってくれるか?」
 シートの上に座ると、闘神は持ってきた浴衣をむきプリ君に差し出した。本当は、今ここで着てほしかったが、そこまでは望まない。
「浴衣か。ああ、貰おう」
 プレゼントを受け取って、用意されていたビールや日本酒を飲みながら花火を見る。
「おおー絶景でぃ! 苦労して探した甲斐があったってぇもんだ!」
 花火が上がってその花を咲かす度に、闘神ははしゃいだ声を上げる。やっぱり祭は、大好きな人と一緒に行くのが一番だ。
 ムッキーと一緒に花火に来れてよかった。
「今日はまた一段と楽しそうだな。闘神」
「そりゃあ、我はムッキーを愛してるからな!」
「そ、そうか……」
 戸惑ったようなむきプリ君に、闘神はふと小さく笑った。
「ムッキー今日は誘いに乗ってくれてありがとうな。とても嬉しかったぜ」
「う、うむ……」
 ノーマルである自分が闘神を愛することが可能なのかどうか、考えさせてくれと言った。今日は友人として誘いを受けたし、筋肉仲間としては断る理由もない。
 困って酒を一気に飲むと、そんな彼を見て闘神は苦笑した。
「実はな……ムッキーが来てくれるか不安で仕方なかった。最初が最初だったしムッキーも我に苦手意識を持ってるのもわかってたしな。こんな気持ちは始めてだったんでぃ」
 それから、むきプリ君に少し近寄る。
「……!?」
「すまん、ムッキー……ちょいとよっかかっても平気か?」
「な、何だ酔ったのか……? い、いや……」
 むきプリ君は迷った末に、彼に言った。
「シートに横になれ。俺は立って花火を見る」
 それを受け入れたら、何となく、答えを出す前に流れていってしまう気がした。酒の入ったコップを持って立ち上がる。
「……すまねぇな。ちょいと今日は感傷的になっちまってるようでぃ」
 闘神は軽く目を閉じる。できれば手も繋ぎたいしキスもしたいし自主規制な事もしたいが、むきプリ君のトラウマを刺激するだろうし同意も必要だろう。
 そこは自制しつつ、闘神は花火を眺めた。