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逆襲のカノン

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逆襲のカノン

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第10章 グランツ教の影

「ここは……?」
 眩しい陽の光にまぶたを焼かれ、非不未予異無亡病近遠(ひふみよいむなや・このとお)はうっすらと目を開けた。
 そして、周囲の景色に驚き、身を起こすことになる。
 潜水艦パーンチラス号に乗り、海京アンダーグラウンドに収容され、悪夢のような闘いを経験した後、海の藻屑と消えた施設の中で、海水に飲み込まれたはずだった。
 だが。
 いまいるこの見慣れた景色は、海京の人工砂浜にほかならない。
 帰ってきたのだ。
 それも、死体ではなく、生きて。
 近遠は、夢をみているようだった。
 周囲をみまわすと、他の生徒たちが、みんないた。
 みんな、徐々に意識を回復しているようだ。
 カノンが、小鳥遊美羽(たかなし・みわ)と談笑していた。
 2人はまた、絆を深くしたようだ。
「でも、どうやって……?」
 近遠は、どうして助かったのか不思議だった。
 そのとき。
(海人じゃよ。あの男が、全員を地上にテレポートさせてくれたのじゃ。深海の中で、驚くほど力が強くなっていたからのう。たいしたものじゃ)
 【分御魂】天之御中主大神(わけみたま・あめのみなかのぬしのかみ)の声が、近遠の脳裏に響いた。
「あっ、そうなんですか。でも、みんな助かって、本当によかったです。カノンさんも」
 近遠は、心の底から安堵していた。
(うむ。カノンは見事に成長した。わしらは、そのことも非常に喜んでおる)
「わしら、って……?」
 ふと気になって、近遠は尋ねた。
 だが、答えは返ってこない。
 天上の存在?
 英霊たち?
 よくはわからないが、目にみえない多数の存在が、カノンと自分たちを見守っていてくれたのだと、近遠は悟った。
 そして。
 それらの存在に、いま、こうしてここに生かされていることに対して感謝したい。
 そんな気持ちに、近遠はなったのである。

「お、おわああああああ!! 助けてくれぇ!!!」
 どことも知れぬ南の島で、国頭武尊(くにがみ・たける)は悲鳴をあげていた。
 海人の導きを拒否した国頭は、海京には運んでもらえず、ただ海上にテレポートさせてもらったのだ。
 そのまま海流に流されて、この島にたどり着いたのである。
 すると、島の原住民たちが国頭を捕らえて、大きな杭にはりつけにしてしまったのだ。
「ど、どうなるんだオレは? だが、何があろうと絶対死なないぞ。パンツァーに助けてもらったこの生命、無駄にはしない!!」
 島民たちが火を起こして、その火を取り囲んで踊り始めるのをみながら、国頭は生還を誓ったのである。

 そして、生徒たちが無事生還してから、数日後の海京。
「わー、いい天気ですね。ずっと監禁されていたので、太陽の光を浴びていたいんですよね」
 カノンは、水着を着て、人工砂浜でうちはしゃいだ。
 やせこけた身体。
 白い肌には、あちこちに痣がみえる。
 砂浜をはしりまわっていると、脳裏に、いろんなメッセージが流れていった。
 海底での体験はカノンを鋭敏にしたが、それは、地上に戻ってからも続いているのだった。
 浮遊する、さまざまな存在たち。
 それらの存在と交流できるようになったカノンは、また、あらたな力を手にしたことになる。
 そんなカノンの姿を、男子生徒たちが、ドキドキしながら見守っていた。
「カノン。その首は……?」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、カノンに近寄って、首筋をのぞきこんで、いった。
 カノンの首には、はっきりと、首輪の跡が残っていた。
 その跡をみたとき、コハクは、なぜだか胸が高鳴るのを覚えた。
 えっ?
 どうしたんだ、僕は?
 コハクは、顔を真っ赤にした。
「はい? 何ですか?」
 カノンが、コハクをみて尋ねる。
「い、いや、何でもないんだ」
 コハクは、慌ててそう繕った。

「兄さん。どこに行ったんですかぁ?」
 高天原咲耶(たかまがはら・さくや)は、行方不明になったドクター・ハデス(どくたー・はです)の姿を探し求めて、海上の捜索を続けていた。
 ハデスもまた、海人の導きを拒否したようだった。
「きゃあっ」
 突如、大きなサメに船が襲われ、咲耶は悲鳴をあげた。
 漁師たちの協力で、辛うじてサメを仕留め、その身体を引き上げることができた。
 漁師たちが、サメのお腹を割いた。
 そして。
「に、兄さん!! こんなところに!!」
 サメのお腹から出てきたハデスの姿をみて、咲耶は胸が熱くなったとのことである。

「そういうわけで、こちらの行動を全て潜入任務として処理して頂けるなら、このデータをお渡しできるのですが」
 佐野和輝(さの・かずき)は、コリマ校長に提案した。
 天御柱学院の校長室である。
 佐野は、他の生徒にさきがけて報告を行っていた。
 自分が当初から海京アンダーグラウンドの研究者たちに協力していたこと。
 そのことは、他の生徒たちからの報告によって、露見する恐れがあった。
 それなら、先に手を打つまでだ。
 和輝の提案に、コリマ校長は最初、無言だった。
 静かに、和輝をみつめている。
 やがて。
「いいだろう。実験は許されるものではないが、データはデータだ。この矛盾に満ちた現実世界では、こうしたデータも何らかの価値を持つことは間違いない」
 こうして、校長は和輝の提案を受け入れた。
 和輝は一礼して、退室した。

「失礼しまーす。わー、校長先生」
 和輝に続いて、美羽が校長室に入ってきた。
「あの、報告ってたいしてないんですが、気になることがあったので」
 美羽は、キイ・チークの部屋の祭壇でみかけた、不思議な紋様のことをコリマに話した。
「うむ。そうか。私にもそれが何なのかはわからないが、興味深い情報だ。ありがとう」
 コリマは礼をいった。
「喜んでもらえたんですね。わー、嬉しいな」
 美羽は喜んで、退室していった。

 そして。
 美羽が出ていった後で、校長は、瞑想に入った。
 どうやら、調査の収穫はあったようだ。
 美羽がみたという紋様。
 これで、謎が解けた。
 コリマと対立することも恐れぬ、研究者たちの暴走。
 その裏にあったのは、信念というより、信仰であったのだ。
「しかし、グランツ教がここまで影響を持つようになったとはな。警戒を強める必要があるようだ」
 コリマは、幾千もの精霊と脳内で会話し、今後の対策を練っていく。
 グランツ教。
 その言葉を、コリマ校長が生徒たちの前で口にするのは、まだ、先のことである。
 

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 今回はサスペンスな内容でしたが、いかがでしたか?
 海底という舞台のかもしだす恐怖が、みなさんに少しでも伝われば幸いです。

 今回は、海人召還を希望した方が多かったです。
 全員の要望にこたえることはできませんでしたが、できる限り努力しました。
 海人の謎も少し明かすことができて、よかったと思います。

 次のシナリオは例によって未定ですが、今後もよろしくお願いします。
 みなさん、ありがとうございました。