校長室
【2022クリスマス】聖なる時に
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第16章 互いのプレゼント 「メリークリスマス、翔くん!」 玄関のドアが開き、可愛い笑顔が目に飛び込んだ。 「理知……その格好」 辻永 翔(つじなが・しょう)は目のやり場に困ったかのように、視線を彷徨わせる。 「クリスマスだから、サンタさんだよ」 桐生 理知(きりゅう・りち)はミニスカートのサンタの格好をしていた。 「それちょっとヤバくないか。キツそうだし」 「ん? 一応サイズも合ってるし、きつくないよ? この格好で出かけるわけじゃないから、ヤバくないって。さすがにこの格好で学院に行ったら、怒られそうだけどね」 正確に言えば、胸以外のサイズは合っている。 胸だけはきつくて、ちょっと飛び出しそうなカンジになっていた。 「そっか」 「どうぞ〜」 苦笑する翔を、理知は部屋へと入れる。 ここは、寮の彼女の部屋だ。 特別な日なので、こっそり恋人の翔を招待したのだ。 「おっ、部屋の中もクリスマス一色だな」 大きなツリーに、沢山の飾り。 イルミネーションもかけられていて、賑やかに綺麗に飾り付けられていた。 「智緒にも手伝ってもらったんだよ。好きな方座ってね」 一緒の部屋で暮らしているパートナーの智緒は、今日は友達の部屋に泊まるそうだ。 「その前に。色々買って来たぞ」 翔がテーブルの上に、買ってきたチキンやサラダを広げる。 「ケーキと飲み物はあるって言ってたから買ってこなかったけど」 「あ、うん。炭酸のジュースと、オレンジジュース用意してあるよ」 「それじゃ、俺は炭酸の方で」 「私も同じのにするね」 言って、理知は冷蔵庫からクリスマス用の炭酸ジュースを取り出して、グラスに注ぐ。 そして、グラスと一緒に。トレーの上にケーキを載せる。 (お店のような形にならなかったな……) ケーキは、初めて作った手作りケーキだった。 落とさないように零さないように注意しながら、テーブルに運んで、ジュースをそれぞれの椅子の前に、ケーキを中央に置いて。 向かい合って、腰かける。 「手作りケーキか、美味そうだな」 「う、うん。フルーツケーキだよ」 緊張しながら返事をして、理知は丸いケーキを4つに切って、一切れずつ、翔と自分の皿に置いた。 (見かけはいまいちかもしれないけれど、味は確かなはず……) 「それじゃ、食べようか」 「ああ、メリークリスマス」 翔がグラスを手に言うと。 「メリークリスマス」 理知もグラスを手に取って、翔のグラスにカチンと重ねた。 「理知が作ったのか?」 翔はまず、ケーキにフォークをつけた。 「うん……。初挑戦」 「初めて? スポンジは市販?」 「ううん、スポンジも焼いたよ」 「おー、凄い。店のより美味い」 短い感想だが、感動したかのように翔は言い、理知はほっとして笑みを浮かべた。 「よかった〜。あと、クリスマスプレゼントが……あっ!」 ほっとしたのもつかの間。 ケーキ作りの練習と準備に集中していて、プレゼントの用意、すっかり忘れてしまっていた。 「プレゼント? ケーキだけで十分だけど。俺もパーティ用の料理と茶葉しか用意してないし」 言って、翔は可愛らしい袋を取り出して理知に渡した。 8種類のリーフティーが入ったセットだった。 「あ、ありがとうっ。食後に飲もうね」 大切に受け取った後、理知は何か贈れるものがないかと考えるけれど……。 プレゼントになりそうなものは、この部屋にはなかった。 「私からのプレゼントは、私の出来ることなら何でもするっていうのは、どうかな」 「出来ること?」 「うん、翔くんが喜んでくれるなら頑張るし……」 「んー、それなら、ジュースお代わり。ケーキもう1切れ食いたいから皿に乗せて」 翔は空になったグラスを理知に向け、空いた皿を指差す。 「世話してほしいってことかな? わかった」 理知はケーキを乗せてあげた後、キッチンでグラスにジュースを注ぎ、テーブルに戻ってくる。 (食べさせてあげるとかもした方がいいのかな? でも翔くんそういうのはあまり好きじゃないかも?) 考えながら歩いていた理知は、足下に落ちていた電飾のコードに気付かず。 「あっ!」 足をひっかけて、転びそうになる。 「っと」 翔が立ち上がり、グラスを掴んだ理知の手と、肩を掴んで支えた。 「ったく、危なっかしいな」 「えへへ……」 赤くなり、グラスを両手で包み込んだ理知の背に、翔は腕を回した。 「プレゼントは沢山もらったよ。ありがとう、理知」 彼女をそっと抱きしめて、背をぽんぽんと叩いた。 「うん、私も翔くんに沢山もらったよ、ありがとう」 微笑み合った後、また椅子に座って。 美味しいケーキを食べながら、2人きりで楽しい時間を過ごしていく。