校長室
【2022クリスマス】聖なる時に
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第20章 これまでも、これからも 去年は街まで行ってデートをしたけれど、今年は2きりで静かな場所で過ごしたい。 レイカ・スオウ(れいか・すおう)は、そんな思いから、恋人のカガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)にザンスカールの森を散歩しようと提案をした。 「静かだね。聞こえるのは軽やかな鳥の歌声と、自然の音だけ」 レイカが暮らしているイルミンスールの寮からさほど離れていない場所だったけれど、人の姿は無く声も聞こえない。 「森で2人きり、か……」 静かな場所は好きだし、悪くはない。 乗り気だったカガミだが、2人で静かな森を歩いているとクリスマスの魔力に囚われそうになる。 間違いを犯さぬよう、自制しながらカガミはレイカの肩に腕を回して引き寄せた。 ドキッとレイカの心臓が跳ねた。 レイカは思わず俯いてしまう。 身を寄せ合って、2人はゆっくり森の中を歩いていく。 「……私は、今とても幸せ」 レイカはカガミの服をぎゅっと掴んだ。 「信頼できる友達とパートナーが出来て、色々な場所を知って、そして何より……大好きな人と、カガミと一緒にいられる」 顔を上げれば、間近に彼の顔がある。 自分のことを見てくれている彼の顔が。 「でも……怖い。こうしている間にも、カガミの体を病魔が蝕んでる。それを治せず、見殺しにしてしまったらと考えると……やっぱり、怖いよ」 声が震えてしまう。 大切な人を失ってしまうかもしれない、恐怖に。 「――だから、力が欲しかった。そんなあなたに守られるだけの存在にならないような、強い力が」 レイカは右腕をゆっくり上げる。 手の平に視線を落として、指を動かしながら見つめる。 「その結果、私の身体も少しずつ壊れ始めてる……この右腕が動かなくなるのも、そう遠くないのかもしれない」 腕を下ろして、レイカは再び顔を上げてカガミの顔を見た。 彼はレイカを見つめ続けてくれていた。 彼の金色の瞳の中に、今自分はいる――。 「……あなたの声で、聞かせて欲しいの。こんな……自分の身を省みることすらできない、私を」 とぎれとぎれに、ゆっくりとレイカはカガミに話していく。 「抱いた想いに押しつぶされそうになるくらい、弱い私を。ツギハギの人形のような、こんな私を……」 目を細めて、レイカはカガミに問いかける。 「好きでいてくれますか?」 カガミは、レイカの肩に回していた手を、彼女の頭に移した。 彼の手の温かさが、レイカに流れてくる。 「レイカ、オレはお前を好きになって、後悔したことは一度もない。これまでも、これからも」 頭から頬に、カガミの手は落ちていった。 「お前は壊れてなんかいない。触れれば、熱を感じる。今、こうしてここに在る」 「カガミ……」 「そして、レイカを残して死ぬつもりはない」 カガミははっきりと言い切った。 「胸を張って言える」 レイカを更に引き寄せて、彼女の唇に自分の唇を重ねた。 「……レイカ、お前を愛してる」 幸せ。 今が、本当に幸せで。 レイカの目から涙が流れ落ちる。 彼が自分を好きでいてくれている。 これからも、互いを愛する気持ちだけは、変わらない。 彼の言葉で、それを知る事が出来て。 「カガミ、大好き……」 レイカがカガミに抱き着き。 「不安にさせてすまない。オレはここにいる」 誰もいない静かな森。イルミンスールの森の大木の下で。 カガミは優しく、愛しげにレイカを抱きしめた。
▼担当マスター
川岸満里亜
▼マスターコメント
メリークリスマス! クリスマスシナリオへのご参加ありがとうございました。 思い出に残る時間を、大切な人と過ごすことが出来ましたでしょうか。 今回はボイスシナリオともリンクしておりますので、そちらの方も併せてお楽しみいただけましたら幸いです。 貴重なアクション欄を割いての私信等、ありがとうございます。 1つ1つにお返事を書くことが出来ず申し訳ありません。大切に読ませていただいております。