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第3章 いきなりマジギレの死闘

「ぎゃはははははは!! よーし、街に突入できたぜぇっ!!」
 猫井又吉(ねこい・またきち)は、無事街に突入できたという喜びで、顎が外れそうなほどの笑いを浮かべてみせた。
 すると。
 ガクン
 門扉を突き破ってから間もなく、トラックはブルブルと震えたかと思うと、急停止した。
「うん? 故障か。仕方ない。ここからは、俺自身が!!」
 又吉は、アイアンハンターをトラックの荷台から降ろした。
 アイアンハンターの両手をマシンガンに変形させ、盗賊の襲来に備えさせる。
「お前らは、ここで寝ていろ。すぐに片づけて戻ってくるぜ」
 又吉は、荷台に横たわっている十文字宵一(じゅうもんじ・よいいち)たちに向かってそういうと、自らも銃や刀を構えて、走りだした。
「オラァ!! 聞け、この街のクズども!! 大荒野は俺と武尊の縄張りだぁっっ!! 調子こいた真似してっと、ぶっ殺すぞコラァ!!」
 絶叫しながら、銃を乱射する又吉。
 ダダダダダダダ
 ダダダダダダダ
 アイアンハンターも、マシンガンを連射しながら前進する。
 すると。
「何だてめぇはぁ!! 一人でこの街に入ってくるとはいい度胸だ!! 身ぐるみ剥いでバラバラにしてやっぞクソがぁ!!」
 又吉と同レベルの怒鳴り声がしたかと思うと、街の奥から血相を変えた盗賊たちが走り出てきた。
 それぞれが、武装している。
 盗賊たちは、何も考えずに突っ込んできた。
 ダダダダダダダ
 ダダダダダダダ
「ぎゃああああああああ」
 アイアンハンターのマシンガンの放つ弾幕に突っ込んだ盗賊たちが、次々に悲鳴をあげて倒れていく。
「はっ!! 死にたくなかったらそこをどけ!!」
 又吉は、高らかに笑いながらいった。
 弾幕をかいくぐって突っ込んできた盗賊たちを、刀で斬る又吉。
 ぶしゅううう
 斬られた盗賊の肩から血がしぶき、又吉のネコ耳を赤く濡らした。
「ははははははは!! ちょろい連中だぜぇ!!!」
 又吉は、勝利の美酒に酔いしれた。
 そのとき。
 ガクン
 ふいに、アイアンハンターがマシンガンの連射をやめたかと思うと、両腕を降ろした。
「うん? 弾切れか」
 又吉は、自分の銃も弾丸が尽きてきたことに気づいた。
「えーと、ああ、まだ、敵は山ほどいるが」
 倒れても倒れても次々に押し寄せてくる盗賊たちを前に、又吉は首を傾げた。
「考えても仕方ない!! 死ねやあ!!」
 又吉は、刀を構えて、突進した。
 そして。
 どごぉん!!!
 盗賊たちの拳に思いきり鼻を打たれた又吉は、盛大に鼻血をしぶかせながら宙を舞い、倒れ伏した。
「あ、あがぁ」
 手足をばたつかせて悶絶する又吉。
「何だぁ? もうオシマイかぁ? オラァ!!!」
 盗賊たちは、又吉の身体をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「この街を俺たちから取り戻すなんざ、無理もいいところなんだよ!! いままでやってきたチンケな英雄気取りの連中は残らず惨殺してやってたぞコラァ!! まあ、姉ちゃんの戦士なんかは生け捕りにして、いろいろ楽しませてもらってるけどなぁ!!!」
 盗賊たちは、抵抗する気力をなくした又吉を引き起こすと、何度も、何度も、拳を振るった。
「ぐ、ぐぎいい。て、てめえら、地獄に、堕ちやが、れ……」
 又吉は、拳の雨をくらい、血まみれになりながら、精一杯の悪態を突いたが、その声も次第にか細くなっていく。
 このままでは、又吉は死んでしまう!!
 そのとき。

「や、やめて!! ネコをいじめないでぇ!!!」
 物陰から様子をみていた街の本来の住民たちの中から、一人の娘が走り出てきて、ボロボロの又吉をかばうように、盗賊たちの前に姿をさらした。
 非常にネコが好きな娘であるらしく、又吉のいたましい姿をみていられなくなったようだ。
「ああ? おっ、いい玉じゃねえか」
 盗賊たちは、ムッとしながらも、娘の全身にいやらしい視線を向けて、舌舐めずりした。
「くっ!! もう、やめて下さい。死んでしまいます」
 娘は、露骨な視線を受けて、吐き気がするほどの嫌悪感を覚えながら、倒れている又吉の身体を引きずっていこうとした。
「待てよ。おい」
 盗賊たちは、娘を取り囲むと、その華奢な肩を毛むくじゃらの手でつかんだ。
「やめて!!」
 その手を払おうとした娘の手を、別の盗賊ががっしりとつかむ。
「へへへ」
 盗賊たちは、下卑た笑い声をあげた。
「きゃあ」
 娘は、悲鳴をあげた。
 盗賊たちが、自分の身体をがっしりとおさえこんで、あちこちに手を這わせようとしていた。
「面倒くせぇ。ここで楽しませてもらうぜ」
 文字通りのケダモノと化した盗賊たちが、娘の衣に手をかけ、ビリビリに引き裂いていく。
「い、いやぁ!! 助けて!!」
 露になった胸を隠そうとする娘の手が、情け容赦なくとらえられ、動きを封じられる。
「大好きなネコを殺されたくないなら、代わりにやりたい放題やらせてもらうぜ!!」
 引き倒された娘の上に、盗賊たちがまたがった。
 そのとき。

「それじゃ、私もやりたい放題やらせてもらうわ。このクズ!!」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)の瞬速の拳が、娘の身体にしゃぶりつこうとした盗賊の頭部を思いきりうちすえていた。
 ボゴォッ!!
「あ、あがすてぃあのは!?」
 意味不明の呻き声を発しながら、盗賊は失神した。
「何だ、てめぇは!? ネコの仲間か?」
 盗賊たちは、クコを取り囲んでいった。
「仲間ではないけど、お前たちを許すわけにはいかないな」
 赤嶺霜月(あかみね・そうげつ)が、クコの脇に立っていった。
「ああ? かっこつけてんじゃねぇよ。何人きたって同じなんだよ、タコが!!」
 霜月の背後に現れた盗賊が、巨大な棍棒を振り降ろそうとした。
 そのとき。
「ガウゥ!!(本当にクズどもだな!! 呆れる程の!!)」
 獣の唸り声とともに、四つ足のレーヴェ・シュヴェーアト(れーう゛ぇ・しゅう゛ぇーあと)がその盗賊に飛びかかって、その肩に鋭い牙をめり込ませていた。
「ぎゃ、ぎゃああああ!!」
 盗賊は叫んで、棍棒を取り落とす。
「レーヴェ、殺さないで」
 霜月がいった。
「ガウ、ガウ!!(こころがけはするが、甘すぎるぞ)」
 レーヴェは、首を打ち振って唸った。
「ああ? 用心棒で獅子を連れてきたってか。だから何だってんだよ!! どんな野郎どもがきたって、この街は俺たちのもんなんだよ!!! 誰にも、解放なんかできねえんだよ!! 無理なんだよ!!」
「上等だわ。私たちを倒せるものなら、倒してみせてよ!!」
 叫びながら襲いかかってくる盗賊たちを、クコの拳が次々に打ちすえていく。
 盗賊たちの拳をときどきはくらうことがあっても、彼女は全く動じない。
 彼女は、本気で怒っていたのだ。
 ステラレの街の、この現状に。
 その元凶である、この盗賊たちに。
 娘をみると欲望を満たすことしか考えない、ケダモノ同然の男たちに。
 ぷっと唾を吐いて、なおもクコの拳が風を切る。
 ふいに、その身体に、一人の盗賊がしがみつき、顔を胸にこすりつけてきた。
「おお、しがみついてみれば柔らかいぜ!! へっ、殺す代わりに汚してやらあ!!」
 その盗賊は、下卑た笑いを浮かべながら、クコの身体をなおも侵略しようとした。
「く、くうううう!! 離れてよ!!」
 思わず身をこわばらせながら、嫌悪感で、クコは息が詰まりそうだった。
 そのとき。
「やれやれ。この街にはゴミが多いな!!」
 アイアン・ナイフィード(あいあん・ないふぃーど)が、無造作に剣を振り降ろして、クコの身体にしがみついていたその盗賊の背中を、パックリと切り裂いていた。
「お、おげあ」
 盗賊は、血を吐きながら、倒れた。
「アイアン、殺したのか」
 霜月が、 アイアンを睨んだ。
「殺した? 違う違う。ゴミを処分しただけだ。聞こえなかったのか? このゴミはクコを汚すといったんだぜ。なぜ目くじらをたてるんだ? ほら、もっと処分して下さいって、大量にゴミがやってきてるぜ。掃除しなきゃいけないよな!!!」
 いいながら、アイアンは、剣を振りまわして、襲いくる盗賊たちの息の根を次々に止めていった。
「あ、あぎゃ!!」
「べ、べぼわ!!」
 たちまちのうちに、屍の山が築かれた。
「ガウ、ガウ!!」
 レーヴェも、唸り声をあげながら、盗賊たちに飛びかかっていく。

「ああ、もう始まってるみたいだね。それじゃ、僕も参加しようか」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は、早くも修羅場と化した街の入り口近くへと、颯爽と歩み入った。
「何だ、てめぇは? また殺されてぇ奴が増えたかぁ?」
 盗賊たちは、早速リアトリスにつかみかかっていく。
 悪魔のようなその襲来をたくみにかわすと、リアトリスは、華麗なフラメンコを踊り始めた。
「ダンスだと? ワリャ、ナメとんのか!!」
 ドスを構えて突進した盗賊に足をかけて、リアトリスは転ばせた。
「うごっ」
 ひっくり返った盗賊の顔面に、すさまじい蹴りが炸裂する。
「ご、ごああっっ」
 悶絶する盗賊。
「みえないのかな、この犬耳が?」
 リアトリスは、自らの大きな犬耳を指していった。
「逝けやあ!!!」
 その背後から、刀を構えた盗賊が斬りかかってくる。
 ずばあっ
 リアトリスは、振り返りざま、その盗賊にすさまじい斬撃を繰り出し、吹っ飛ばしてしまう。
「この角は、鬼神の力のしるしだよ」
 額の角を指していうリアトリス。
「な、何だこいつら!? いままでここにやってきた、ヤワな英雄気取りとはひと味違うようだぜぇ!!」
 盗賊たちは、リアトリスの猛攻を前に、目を丸くしていた。
 霜月たちといい、いままで彼らが相手にしてきた連中とは、格が違った。
「僕たちは、本気なんだよ!! わかったらこの街から出ていくんだ!!」
 リアトリスは、フラメンコを披露しながら、優雅に舞い、蜂のように刺す攻撃を続けていく。
 そして。
「オォーン」
 どこかから、狼の吠え声があがった。
「うん? お、おわぁ、ニホンオオカミだぁ!!」
 盗賊たちは、悲鳴をあげた。
「そう、狼だな。それも、特大の!!」
 半獣化したスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)は、駆けてきて、噛みついた。
「あ、あぎゃあああああああ!!」
 肩の肉をむしりとられた盗賊が悲鳴をあげる。
「く! 身体がしびれて動けねぇ!!」
 他の盗賊たちは、スプリングロンドを襲いたくても、思うようにいかない。
「ああ? しびれるだろ?」
 スプリングロンドは、笑った。
 動きながらしびれ粉を撒いていた彼だった。
「ひ、卑怯だぜ!!」
「どっちが? オレは、狼だ!! 獰猛なんだよ!!」
 吠えて、スプリングロッドは跳躍した。
 がぶっ、がぶっ
 どごっ、ぼごっ
 あるいは噛み切られ、あるいは殴られ蹴飛ばされて、盗賊たちは次々に倒れていく。
「獣は、生きるために他を殺す。だが、楽しみのために殺しをやるお前らは許せないんだよ!!」
 スプリングロッドの死の咆哮を前に、盗賊たちは恐怖を味わった。
「スプリングロンド。今日は、僕の舞いも冴えてるよ」
 リアトリスは、フラメンコを踊りながら、スプリングロンドの周囲をまわってみせた。
「リアトリス。相変わらず、芸があるな」
 スプリングロンドは、目を細めていった。
「周りが芸のない連中ばかりだから、なおさらひきたつのかな」
 そういうリアトリスの心臓めがけて、盗賊がボウガンの矢を放った。
 しゅっ
「クソがぁ!! 射抜かれて死ねやあ!!」
 吠える盗賊は、矢が、リアトリスの生命を奪うのを確信した。
 その瞬間。
 リアトリスの身体が、いくつもの残像を残しながら、しなやかに移りゆくように、その盗賊の目には映った。
 放たれた矢は、リアトリスの無数の残像の中に吸い込まれて、消えていった。
 どごおっ
 次の瞬間、リアトリスの拳が、盗賊のボウガンを砕き、盗賊自身の身体も空の彼方に吹き飛ばしていた。
「あああああああああああああああああ」
「わからないのかな? 踊っている間、僕はいつもより集中してるんだよ」
 リアトリスは、なおも踊りながら、他の盗賊に迫っていく。
「その動き。オレがしびれるな」
 スピリングロンドは、舌なめずりしていった。

「オラァ!! 妹渡せよ!!」
 激闘の現場から少し離れた路地裏では、数人の盗賊が一人の少年と少女を取り囲んで、恫喝を行っていた。
 少女は少年の妹であるらしく、少年の背後に隠れて、小さくなっている。
「だ、誰がお前らみたいなクズに!!」
 少年がムキになって怒るのを、盗賊たちは嘲笑った。
「いくらあがいても無駄だぜ! 俺たちが、お前の妹をよく教育してやるよ。さあ、来い」
 盗賊たちは、ちぢこまっている少女の手をつかんだ。
「や、やだあ!!」
 少女は悲鳴をあげて、あとじさる。
「やめろ!!」
 叫ぶ少年の頬が、張り飛ばされた。
「アホが。お前に、何ができるっていうんだよ!! さあ、お前の妹は、今日から俺たちのメイドだ!! 安心しろ。たっぷり可愛がってやるぜ!! さあ、まずは向こうでいい服に着替えさせてやろう。へへへ」
 もがく少年を何度も殴りつけて黙らせると、盗賊たちは少女の手を引いて、どこかへ連れていこうとした。
「いや。助けて!! お兄ちゃん!!」
 少女は、泣いて兄に助けを求めた。
「う、うわあ!! 妹を返せ!!」
 少年は、血まみれの顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。
「うっせえな。殺してやろうか?」
 盗賊たちが、少年に向かって刀を振りあげた、そのとき。
「待てよ」
 突風が横から吹いた。かに思えた。
 ぼごおっ
 すさまじい音がしたかと思うと、次の瞬間、少年を殺そうとした盗賊は倒れていた。
「な、何だてめえは!!」
 盗賊たちは、突然現れたその男を目にして、血相を変えた。
 どごっ、ぼごっ
 アンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)は、先ほど盗賊を殴り飛ばした拳をさらにうならせて、向かってくる2、3人の盗賊をぶっ飛ばした。
「く、くう、てめえも、街に乱入してきた連中の仲間かよ!!」
 ぶっ飛ばされた盗賊たちは、唇から垂れる血を拭いながら、アンタルを睨みつけた。
「ある意味、そうかもしれないな。俺も、おまえたちのようなダニをみてると、粛正したくてしょうがなくなるからな」
 アンタルは、茫然としている少年の頭を優しく撫でながら、盗賊たちを睨んでいった。
「あ、あなたは!?」
「すぐ終わらせる。みていろよ」
 少年の問いに、アンタルはニヤッと笑っていった。
「怖がらないで。アンタルは、強面だけど、いい人なんだから」
 いつの間にか、少年の側に芦原郁乃(あはら・いくの)が寄り添って、その手を優しく握りしめていた。
「アンタル。それが、あの人の名前?」
 少年の言葉に、郁乃はうなずいた。
「そう、お兄ちゃんは、素敵な人なんです!!」
 郁乃に続いて現れた荀灌(じゅん・かん)もまた、少年にいって聞かせるような口調でいった。
「う、うわああああ!!」
「あ、あがああああ!!」
 少年と郁乃たちがやりとりしている間にも、アンタルは盗賊たちを次々に殴り飛ばし、ついにほとんどを気絶させ、残りの盗賊たちを恐れさせ、追い払うことに成功した。
「すぐに逃げた方がいい。奴ら、もっと多くの仲間を連れてくるかもしれない」
 アンタルは、解放した少女を少年のところまで連れてきて、いった。
「お、お兄ちゃん!! わー」
 少女は、少年の胸に顔をうずめて泣いた。
「よ、よかった!! ありがとうございます」
 少年は、何度も礼をいった。
「いいさ。とにかく、すぐに行こう。じゃあな」
 アンタルは、言葉少なにそういうと、郁乃たちを促し、自分が先になって離れていこうとした。
「アンタルの方がみた目が悪くて、盗賊とどっちが悪い奴かわからなかったよ」
 郁乃が、冷やかすような口調でいった。
「お姉ちゃん、何をいってるんですか!! お兄ちゃんは心優しい人なんです!! あんな人たちとは比べものになりません!!」
 荀灌が、ムキになっていった。
「おう。そういってくれるなんて、ありがとな。さあ、他にも困っている人がいるはずだ。助けにいこう」
 アンタルは、荀灌の頭を撫でてそういうと、足を踏み出した。
 さらなる修羅場を求めて……。