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第8章 スリラー

「さあ、悪い人たち、その目をくわっと見開いてたっぷり鑑賞してね☆ 魔女っ娘変身、魔法少女ミラクル☆フィリー!!
 かけ声とともにくるくるっとまわってポーズを決め、ぴこぴことお尻を振るフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)
「う、うおおお、魅惑のケツだぜぇ!!」
 その色っぽい身体つきに、悪事し放題だった盗賊たちは、思わず手を止めて見入ってしまった。
 すると。
 しゅわあああああああ
 フィリーネの身体がまばゆい光に包まれ、ステッキを持った魔法少女に変身した!!
「あなたのお側に『ご当地系地域密着型魔法少女ミラクル☆フィリー』参上!! よろしくよろしくいいことしちゃうんだからぁ!!」
 両腕を空に向かって広げて叫ぶフィリーネ。
 何度も練習しただけあって、完璧な身のこなしであった。
「お、おおお、この露出の多さ!! 素晴らしい格好だぜぇ!!」
 盗賊たちは、フィリーネのそのまぶしいばかりに素肌をさらした姿にうっとりとした。
 フィリーネのその姿は、半袖に超ミニスカで、手足は露出していて、お腹もおヘソも丸見えになっていたのである。
 これが、興奮せずにいられるだろうか?
「コ、コスプレだ!! コスプレ、素晴らしいぜ!! こういう格好の女とエッチしたいぜぇ!!」
 股間をおさえてわめきだす盗賊たち。
 その目に、野獣の光が宿った。
「うおおおおお、そのヘソ、舐めさせろやぁ!!」
 くわっと歯を剥き出して、フィリーネに襲いかかる盗賊たち。
 その瞬間、フィリーネは箒にまたがって宙を飛び、攻撃をかわしながら魔法技を連発した。
「お触りはダメダメ!! お空にかわってお仕置きだよ☆」
 ひゅるるるるるるるる
 どこどこどこっ
 空の彼方かた落ちてきた星のようなものに頭を打たれて、盗賊たちは次々に倒れ伏していく。
「あ、あが、おげ、うが」
 倒れた状態で、女の肌を求めてさまよう舌を突き出したまま悶絶する盗賊たち。
「さあ、もう大丈夫だよ☆」
 地上に降りたフィリーネは、ものかげに隠れて避難していた住民たちに優しく声をかけた。
「あ、ありがとうございます!!」
 住民たちは、口々に礼をいいながらフィリーネの側にやってきた。
 ステラレの街。
 滅亡に瀕したその街に、光の女神のごとく降臨したのがフィリーネであった。
 そして。
 パチパチパチ
「おお、順調やな。この調子でいけば、俺がこの街を解放して永遠ともいえるHIKIKOMORIに入れる日も近いというものや」
 フィリーネの活躍を脇でみていた上條優夏(かみじょう・ゆうか)は、上機嫌に拍手をしていった。
「優夏、やる気を出してくれたんだね。もー何も怖くない!!」
 優夏の姿を目にしたフィリーネは、心底からの笑顔を浮かべて、駆け寄っていた。
「まあ、この街を解放することにはやる気満々や。何しろ、大活躍した勇者はそのまま史実に現れず人知れずひきこもるというからなぁ。それで、『この街を解放してその後身を隠せ』という天啓もあったのや。これはもう、やるしかないやろ」
 優夏の言葉に、ニコニコしながらうんうんとうなずくフィリーネ。
 実をいうと、その天啓というのは、優夏の寝起き前にフィリーネが枕元で囁いただけのものであったのだが。
「それで、盗賊どもの様子をみとったら、どうやら、こんなバカな連中にもボスがいて、いろいろ仕切っとるようやな。そのボスこそ、この街を破滅に追いやった元凶や。成敗せな」
 優夏の言葉を聞いていた住民たちは、一様に顔を曇らせた。
「どうしたの? あたしが元気をあげるから、みんなで闘おうよ」
 フィリーネは、住民たちにいった。
 いいながら、ステッキを振って華麗な踊りを踊ってみせるフィリーネ。
 まさに、民衆を勝利に導く女神であった。
「無理だよ。ボスを倒すなんて」
「この街にいるのは、盗賊だけじゃない。かりに解放できても、異常気象のせいで、この街に未来はない。俺たちは、滅びゆく運命なんだ」
 口々にため息をつきながら、コメントする住民たち。
 その全身には、盗賊や魔物に痛めつけられてできた無数の傷跡があり、包帯や眼帯をしていたり、杖を突いて足を引きずっている者もいた。
 住民たちは、とても、自ら立ち上がって闘えるような心境にはなれなかった。
「死亡フラグみたいなセリフはやめい!! 俺みたいなHIKIKOMORIでもペガサスに乗れるんや。奇跡は起こすもんやで!!」
 優夏は力強い口調で説得するが、住民たちの心には響かない。
「俺がHIKIKOMORIやから頼りないと思ったんか? いっとくけどな、HIKIKOMORIがひ弱と思ったらおー間違いや! ネトゲするときの寝落ち防止に、スタミナドリンク飲んだり部屋で筋トレしたりして眠気防いどるから、無駄に体力あるしな!!」
 優夏はなおも、住民たちの心に響かなさそうな言葉を続けた。
「優夏、がんばって。いま、輝いてるから!!」
 フィリーネは、優夏をみつめて、どこまでも支える覚悟であった。
 そのとき。

「みんな、聞いて。そして、この、赤旗をみて!!」
 藤林エリス(ふじばやし・えりす)が、住民たちに呼びかけた。
 セクシーな真紅のミニスカレオタード風魔法少女姿でいるエリスは、フィリーネと同様に注目を集めるものだった。
 エリスが持つレッドフラッグロッドには、血のように真っ赤に塗られた旗が、風に吹かれて堂々とはためいている。
「その赤旗は、ま、まさか!!」
 住民たちは、エリスの旗を指して、口々にわめいた。
「そう。人民解放戦線よ!! そして、この旗を持つあたしは、戦線の最前線に立っているわ!! 弱肉強食、力が全てと横暴の限りを尽くす醜悪なる新自由主義者どもから、いまこそ人民を解放するときよ!! 抑圧されし労働者階級よ、今こそ奮起せよ!
 赤旗のはためくロッドを高く掲げて、エリスは言い放った。
「わー!! ばんざーい!!」
 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は、熱烈なる拍手を同志に送った。
「えっ、私? 私は、846プロの戦うアイドル、魔女っ子あすにゃんだよ☆」
 視線を感じたアスカはくるりと振り返ってポーズを決め、お尻を振ってみせた。
 アスカもまた、セクシーでかわいいアイドル姿なのであった。
「ばんざーい!! ばんざーい!! 革命ばんざーい!!」
 マルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)もまた、同志への拍手と賞賛を惜しまなかった。
 そして。
 共産党宣言は、エリスの側に進み出て、自らもまた呼びかけた。
「ステラレの街の同志諸兄!! 赤き革命の旗の下に団結して、この革命的闘争に勝利を!! パラミタ共産主義学生同盟万歳!!」
 共産党宣言の呼びかけは最高潮に達したが、住民たちはみな、優夏のとき以上にしらけた表情だった。
 そのとき。
「おーおー、さっきから聞いてりゃいい気になりやがって!! 何が革命だ? 何が闘争だ? 力のない奴がいくらほざいたって無駄なんだよ!! てめぇらなんぞに俺たちをやれるわけがねーだろが!! 笑わせんじゃねぇよタコォ!!
 また盗賊たちの集団がやってきて、エリスたちに詰め寄ってきたのである。
「うわー! 逃げろー!!」
 住民たちは、真っ青になって逃げ惑い始めた。
「団結せよ、団結せよ! あーもー、いいところなのに!! 私も変身しますよ!! とおっ」
 闘争相手の登場に興奮した共産党宣言は、ぱちっとウインクをしてみせてから、宙に飛びあがって、くるくるっと身体を回転させた。
 ぴかあああああ
 共産党宣言の身体が光に包まれ、かわいらしい魔法少女に変身した!!
「禁断の赤き魔導書!! ミラクル☆きょーちゃん!! 万国の労働者団結せよ!!」
 着地して、やはりお尻を振ってポーズを決める共産党宣言。
「う、うおお、なんていうか、おめーら、ムカつくけど、それ以上によお、いい女どもなんだよなあ!!」
「ハアハア、たまらないぜ!! 女が3人ってことは、乳の数を数えたら6つか!! 6つの乳が揺れてたんじゃ、襲うしかないよなあ!!
 盗賊たちは、3人の魔法少女姿に野獣的興奮を覚えて、よだれを垂らしながら吶喊してきた。
「さあ、闘争開始だよ!! あっ、あたしの紹介、まだだったかな? あたしは! 愛と正義の名のもとに!! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!! 人民の敵は粛清よ!!」
 レッドフラッグロッドを振りまわしながら、エリスは、盗賊たちに向かっていった。
 アスカと共産党宣言も、エリスとともに闘いを始めた。

「さあ、偉大なる革命の始まりだよ!! 闘士のみなさんを歌って踊って慰める、元気な魔女っ子はあすにゃんだよ!! ズンタタ、ズンタタ、お魚くわえてー」
 アスカはお尻を打ち振りながら巧みに踊り始めた。
 ときに谷間を揺らして、セクシーさをアピールする。
「おいおい、姉ちゃん!! なーに、エッチな踊りしてんだよ!! ああ!!」
 盗賊たちは、そんなアスカにニヤニヤ笑いながら近づくと、そのお尻を掌で叩こうとした。
 すると。
 すざざっ
 アスカはすかさず、身を翻した。
「アイドルにはお触り厳禁だよ!! どうしてもっていう人は、斬音剣で斬り刻んじゃうんだから!! はああ、うっふん!!」
 すぱっ
 アスカの剣が、盗賊の額を断ち切った。
「う、うみゃ!!」
 盗賊の顔の右半分がずり落ちた。
 ぶしゅうううう
 鮮血が吹き上がる。
「ちっ、女どもが!! 舐めやがってー!!」
 盗賊たちは、血相を変えてアスカにつかみかかった。
 そこに。
「愚か者ども! 抑圧されし人民の怒り、革命の業火に焼かれよ!!」
 エリスの魔法が炸裂した。
 しゅるるるるるる、どこっ、どこっ
 ぼおおおおおおお
 空から星のようなものが落ちてきて盗賊たちを圧倒したかと思うと、次には灼熱の業火が吹きあがって焼き尽くす。
「あ、あぎゃああああああ、許してえええええ」
 盗賊たちは、涙を流して逃げ惑った。
「きょーちゃんもいきますよ!!」
 共産党宣言もまた、シューティングスターの術を発動して、エリスとともに敵を追い詰めていく。
「お、おわああああああ、6つの乳を前にして!! そのどの乳首にも、触れることさえできんのかー!!」
 絶叫して、盗賊たちは息絶えていった。
 だが。
 エリスたちが倒しても倒しても、盗賊たちは後からわいてくるのである。
 まさに、ステラレの街の無数の盗賊が巣食っていたのだ。
 エリスのいう「革命」は、そう簡単になしとげられるものではないようだ。

「す、すげえ」
「俺たちには、とても無理だ」
 魔法少女たちの活躍を再びものかげから目にすることになった住民たちは、感嘆の叫びとともに、自分たちの力への絶望を感じざるをえなかった。
 無理なのだ。
 傷つき病に苦しむ自分たちが、街を復興するなどとは。
 そのとき。
「みなさん、この道の奥へ避難しましょう。ケガをした方は、私が治療します」
 山葉加夜(やまは・かや)が、住民たちを誘導し、また、癒してまわった。
「ありがとう。でも、俺たちはもうダメだ。この街はもうオシマイなんだ」
 住民たちは、加夜に感謝したが、その表情は暗いままだった。
「みなさん。心もだいぶ傷ついているようですね。大丈夫でしょうか? 私でよければ、お話も聞きますし、できる限り痛手を癒せるよう、もとの元気なみなさんになれるよう、応援してあげたく思います」
 加夜は、そういってまわったが、住民たちの意気消沈ぶりは、想像を絶していた。
 無理もない。
 ステラレの街は、あまりにも見捨てられてきたのだ。
 その街で、無力感を味わわずにいられる方がおかしいのだ。
(この街の人々は、あまりにも無惨です。どうすれば、本当に元気を与えられるのでしょう? 海人さん、こんな私に、道を示して欲しいんです)
 いつしか、加夜は、深層意識において、天御柱学院の強化人間海人(きょうかにんげん・かいと)に呼びかけ始めていた。
 この精神感応は、届くだろうか?
 通常ならキャッチできないはずだが、海人は違うはずだと、加夜は信じていた。
 だが、海人からの応答は、なかなかこなかった。
「そうだ、紅月さんにここで歌を歌って頂きましょう。あの方の歌なら、その場を慰めることができるでしょう」
 ふと思いついて、加夜は、城紅月(じょう・こうげつ)の姿を探し求めた。
 あの、歌による癒しの王子は、大きな力を持つと感じたがゆえに。

「う、うわあああああああ!!」
 ステラレの街の救援を要請し、いままた街に戻っていた少年もまた、盗賊たちの襲来に恐怖した。
 過去に襲われたときの記憶が、よみがえってきた。
 ただ怯えて暮らすだけの、どうしようもなく無力だった自分。
 そのときに盗賊たちに襲われた恐怖が、よみがえってきたのだ。
「た、助けて!!」
 少年は、両手を大空にあげて悲鳴をあげながら、街の外へと逃げていってしまった。
「はあはあ。ここまでくれば大丈夫、かな?」
 自分自身に情けなさを感じながらも、少年は、追っ手がこないことを確認した。
 そのとき。

「おい、見損なったぞ。何をやっているんだ?」
 声とともに、巨大な影が、少年の前に現れた。
 アダマンティスに乗った、グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)が呼びかけているのだった。
「グ、グンツさん! すみません。僕は、怖くなって、それで……」
 少年は、弱い自分をみられたため、グンツに顔向けすることができなった。
「いっただろう。強くなれば、もう二度と蹂躙されることはないと。せっかく騎士団に勧誘したのに、そんな姿をみせられては興ざめだな。まあいい、おまえは見込みがないわけじゃない。根性を叩き直してやろう!!」
 そういうと、グンツは、アダマンティスで少年に襲いかかった。
「わ、わあ!!」
「逃げるな!! 逃げない根性を養ってもらうぜ」
 グンツは、悲鳴をあげる少年にいった。
「は、はい!!」
 うなずいた少年は、逃げずに、アダマンティスの攻撃を受けた。
 ぐしゃ
 少年は、イコンに踏みつぶされてしまった。
「オラ、立てよ!!」
 グンツは、イコンを操縦して、倒れた少年を引き立たせた。
「ぐっ、ごふっ」
 唇から血を垂らし、よろめきながらも、少年は再び立った。
「オラ!! 歯を食いしばれ!!」
 アダマンティスの足が、少年の頬を打った。
 手加減しているのだろうが、イコンでの攻撃は生身にはきつすぎた。
「あああああ!!」
 少年は悲鳴をあげ、数メートル吹っ飛ばされた。
「体罰じゃないぞ。暴行だからな」
 グンツは、その後も、イコンで少年を徹底的に痛めつけた。
 それこそ、死亡寸前の状態にまで追い込んでいった。
 そして。
 少年はついに、倒れた。
 そのまま、動かなくなったかのように思えた。
 だが。
「どうだ? 逃げずに耐えて、根性は鍛えられたか?」
 グンツの問いに、
「はい。ありがとうございます!」
 確かな返事をして、少年は、起き上がっていた。
 身体はボロボロなようだったが、それでも、まっすぐ顔をあげて、グンツをみすえた。
 その瞳に、それまではなかった光を、グンツはみた。
「おお。いいじゃないか。それでこそ、恐竜騎士団にふさわしい男だ。勧誘の件、考え直さないか?」
 グンツは、驚きと賞賛の入り混じった声をあげ、少年に再度尋ねた。
「いえ。僕は、街を復興させたいんです。騎士団ではなく、街の住人として、地道にやっていきます」
 少年は、そういって、傷ついた足を引きずりながら、街へと歩いていった。
「待て。どこへ行く?」
「街へ。奴らと、闘います」
 その答えに、グンツはニヤッと笑った。
「別に、騎士団には入らなくてもいいか。面白い。俺も一緒に闘おう」
 グンツは、イコンを降りて、少年とともに歩み出した。
 内心では、将来有望なワルに育つ可能性大だと、少年に期待しながら。

「大変だ!! 盗賊たちがまた暴れだしたぞ!! 女の子たちを避難させるんだ!!」
 ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は緊迫した表情で呼びかけた。
 ユーリの呼びかけにより、娘たちは必死で逃げ出した。
 盗賊たちにつかまったら、操を奪われてしまう。
 まさに生命駆けの逃走だった。
「僕は盗賊たちと闘って時間稼ぎをする!! だから早く!!」
 ユーリが、戦闘態勢に入ったとき。
「大丈夫だよ! ほら、石にしちゃえば襲われないから!!」
 フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)は、逃げる娘たちを次々にペトリファイで石化させてみせて、ニッコリとした。
「あっ、何をやってるんだ。石にしたら、助けたことにならないだろ。うわ、やめろって、何だ、えっ、まさか」
 ユーリは、フユがニヤニヤ笑いながらこちらに近づいてきたことに、警戒心を抱いた。
「ち、違うだろ。僕は大丈夫だから!! やめろって!! わー!!」
「ふっふっふ。犯されないために!! ユーリちゃんも、やられるかもしれないしね!! 助けなきゃ!! そう、人助けだよ!!」
 笑いながら、フユは、ユーリを石化させた。
「あ、あがが……ん」
 絶叫をあげようとした表情のまま、ユーリは石になってしまった。
「うーん、スコリアさんの意見も一理あるかもしれませんね」
 バンシー・トゥールハンマー(ばんしー・とぅーるはんまー)は、石化したユーリを興味深げにみつめて、いった。
「よし、ユーリさんが石化から元に戻るまで、私が見守っていましょう!!」
 バンシーは、ユーリの硬くなった身体を撫でまわしながら、いった。
「へっへっへ、姉ちゃん、こっちへ来なぁ!! あれ? 石になってるぞ?」
 やってきた盗賊たちは、期待していた若い娘たちがみな石になっていることに驚いた。
 とりあえず、石になっている彼女たちの胸を揉んだりお尻を触ったりしてセクハラ行為をしてみたが、まったく反応がないし、やってる方も冷たい感触しかないので、つまらない。
「なんだよ、もー!!」
 盗賊たちは、怒って、娘たちの石化した身体を殴りつけたり、蹴飛ばしたりした。
「くっそー、もう我慢できねえ!!」
 中には、石化した身体を押し倒してその上にまたがる者までいた。
 無理やり、欲望を解消させようというのだが、なぜそこまでするのかは不明である。
「あっはっは、哀れな人たちだね」
 フユは、笑った。
「おっ、これは、娘……なのか?」
 盗賊たちは、石化したユーリに気づいて、その身体をしげしげと眺めた。
「あっ、ユーリちゃんに触らないで下さいね」
 バンシーがいうのを、盗賊たちは無視した。
「へっ、つまらねえ。川に落としてやる!!」
 バンシーが止めるのも聞かず、盗賊たちは、石化したユーリを担ぎあげると、街の中を流れる川に投げこんでしまった。
 どぼーん
 派手な水しぶきがあがる。
「あっはっは!! とりあえず、貞操は守られたね!! でも、石化がとけたら大変かも? がんばってね」
 フユは、橋の上から川面を見下ろして、笑っていた。
「ユーリちゃん。ここから見守ってるよ」
 バンシーも、フユと一緒に、橋の上から見下ろして、そういった。
 石化したユーリは、川の奥深くに沈んでしまったのか、濁った水面からは、その姿を確認することもできなかったという。

「さあ、死体たちよ、いまこそ暴れ出せ!! 復讐の機会を与えてやるぜぇ!!」
 ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は、再び暴れだした盗賊たちをみて、いまこそ最大の癒しを行うべきときだと考えた。
 収集しておいた多数の死体にフールパペットを使用し、自分の思うどおりに動かし始めるゲドー。
 死体たちは、よみがえってゾンビになったかのように、手足をぎこちなく動かしながら、盗賊たちに向かっていった。
「うん? 何だ? うわー!!」
 死体が襲ってくるのをみて、盗賊たちは悲鳴をあげた。
 自分たちがいままで殺してきた街の住人たちが、恨みを晴らそうとよみがえってきたのだと思った。
「うがあああああ」
 ゲドーに操られる死体たちは、うなり声をあげ、歯をむき出して、盗賊たちに噛みついてきた。
 肉を噛みちぎって、血をすする死体たち。
 盗賊たちの激痛と恐怖は、最高潮に達した。
「た、助けてくれえ!! ひえー」
 襲撃を免れた盗賊たちは、涙を流して逃走した。
 しばらくの間は街の人を襲えなくなるのではないか、と思えるほどの狼狽ぶりだった。
「おお、癒しだぜ。死者の無念を、死者自身に晴らさせる。これこそ、最大の癒しってもんだぜ!!」
 死体たちの活躍をみて、ゲドーは、悦に入った。
 そのとき。

「お願いします。紅月さん。歌って下さい!! この人たちは、きっと、あなたの歌を聞けば元気になれます!!」
 加夜が、紅月を連れてきたところだった。
 すっかり意気消沈している住人たちをみて、紅月は、自分の歌が必要であると悟ったようだ。
「いいだろう。元気を出してもらおう」
 そういって、紅月は、癒しの歌を歌い始めた。
「る、ら、ら、らー」
 すると。
 驚くべき変化が起きた。
 住人たちではない。
 ゲドーに操られていた、死体たちである。
 びよーん、びよーん
 何と、紅月の歌に合わせて、死体たちが腕を振りまわし、身体をねじり、異様な踊りを踊り始めたのである。
「うん?」
 紅月は、死体たちの様子に驚きながらも、歌い続ける。
「おお、これは!! 死体が歌に反応するとは!! 俺様のフールパペットと組み合わさってしまったということか? なかなか興味深いぜ!! 俺様の癒しは上限知らずだぁ!!」
 ゲドーも、眼前の様子に驚いたが、とりあえず見守ることにした。
 死体たちのその踊りは、地球でかつて流行った、『スリラー』という曲に合わせて死体たちが踊る、あのミュージックビデオの映像によく似ていた。
「う、うわああ、何じゃ、ありゃあ!! 気持ち悪ぃ!! 悪魔の踊りだぁ!!」
 盗賊たちは、その死体たちの踊りにも驚いて、ほうほうのていで逃げていった。
「おお、これはすごい。死体たちが、団結している!! これこそ、革命だ!! 抑圧されし死体たちの反逆!! 万国の死体たちよ、よみがえるのだ!! 解放戦線を結成しよう!! 生者も死者も平等であるべきだ!!」
 エリスもまた、死体たちの踊りに興奮して、ともに踊り始めるのだった。