リアクション
●間奏曲
翌日、ユマ・ユウヅキは早い時間に目覚めた。
暗いうちに出かけて、ある山中に入る。
一時間ほど歩いたところで、ぽっかりと開けた場所に出た。
そこにはひとすじの滝があった。彼女はためらわず服を脱ぐと、白い肌をしばし滝に打たせた。
家に戻ると念入りに化粧をする。
普段、薄化粧しかしないユマにしては珍しいことだ。
白粥だけの食事を取って、彼女は電話の受話器を取り上げた。
そして震える指で、ある番号をダイヤルしたのである。
「……私です。ユマです。ご無沙汰しております。どうしてもお伝えしたいことがありまして……お会いできませんか……」
玄関を出たユマは、そこに藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)の姿を認めた。
「大丈夫。鳳明は来ないよ。僕は、以前の問いをもう一度投げかけに来ただけ」
滅多に口をきかず筆談やテレパシーを使う彼が、今日はしっかりと声を出していた。
「……答えは……出た? ユマは……今の自分に、何を求める……?」
「笑わないで下さいね」
微笑して、ユマは答えた。
「私は、幸せになりたいのです。あの人と」
「……ありがとう」
こくりと天樹は頷いた。いい答だね、そう言っているような表情だった。
「それと、これは鳳明からの伝言」
紙を一枚、彼はユマに手渡して立ち去った。
そこには、こう書かれていた。
『ユマさんなら大丈夫!
でも迷ったり緊張しちゃったら、深呼吸して目を閉じてみて。
自分の心の声を聞いてみて』
「はい」
ユマは深呼吸して目を閉じたのち、その紙を折りたたんで懐に入れた。
お守りがわりにしよう。
「私はおかげで、自分の声を聞けるようになりました」