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そんな、一日。

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そんな、一日。

リアクション



22


 不満を抱いてもあまり表に出さないタイプの人間が、爆発して怒って不満を言い出したということは、つまり本人の中ではもうとっくに結論が出ているということだ。
 ああ、これはもう駄目だな、と。
 皆川 陽(みなかわ・よう)も、その例に漏れなかった。
 駄目だな。我慢できないな。我慢できないならサヨナラしかないかな。


 テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は言う。
 主君を守る騎士であるということが自分であるということで、それを認めて欲しいと。
 聞き飽きるほど繰り返された話には、相槌も嫌味も出てこない。心の奥にモヤモヤが湧き上がるだけ。
 どうして、繰り返し繰り返し熱弁するのだろう。もうこっちは結論が出ているのに。そのことに納得しないであーだこーだと。
「だから――」
 右から左へ流れていくテディの言葉に、はっと気付く。
 ああ、彼は、自分の生きてきた環境というか――その中で培った『あるべき自分』の理想像はこうだって、言っているんだ。
 なんだ、当然じゃないか。嘲るような笑みが浮かぶ。どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。
 日本生まれの日本育ち、典型的日本人でフツー庶民。
 そんな陽への『こうであれ』という周囲の欲求、また自分の『あるべき自分』の理想像が何かというと、『自立したひとりの男としての生活』なわけで。
 イメージとしては、大人として仕事して働いて、奥さんがいて、子供はふたりいて。
 そういう自分の『ふつう』から、テディの要求はかけ離れている。
 ねえ、僕の望みのどこに、『守られる』ことがあるの?
 こんなにも噛み合っていないのに、どうして気付かないの? わからないの?
 僕の理想は、間違っても、男とくっついて守られる身でいることじゃあないの。
 テディの理想に陽が応えられないように、陽の理想にテディは応えられない。だって彼は奥さんにはなれないし、子供も産まないし、陽に守られたりなんかしないから。
 全然合わない理想と理想。ぶつかるばかり、反発ばかり。
 ならさようならしかないでしょう?
 自分の理想を言い立てるだけなら、その理想像に合う相手を探すべきなの。
「わかった?」


 わかった? なんて言われて首を縦に振れるなら、今頃こうしてはいないだろう。
 自分の在りようを認めて欲しくて、自分の好きな人に受け入れて欲しくて、決闘までされて拒否されても諦められなくて、何度だって話し合おうとしたのは。
「好きなんだ」
 他の誰でもなく、陽が。
「陽じゃなきゃ、駄目だ」
「……馬鹿馬鹿しい」
 搾り出すような声に返された言葉は吐き捨てるような冷たいもので。
「顔がキレイで背が高くて強くて、いくらでも女を選べる男の癖に」
「だから」
「さっさとヨソに行けよ腹立たしい」
「聞いてよ、僕は」
「聞かなくてもわかってるよ何度聞かせるんだよ!」
「……」
「――イライラする」
 言い負けるわ、弁明の余地はないわ。
 はっきりきっぱり拒絶され、背まで向けられて今にも立ち去っていきそうなのに。
(へんなの)
 こういう激しいところを見せるのは、自分にだけだと考えると嬉しいだなんて。
「好きなだけじゃあ、人の心は満たされねぇんだよ」
 何気に言われた好きという言葉に泣きそうにもなるし。
 諦めねえぞ。
 呟きは声にならなかったけれど、伝わっている気がした。