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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう) は、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)と竹林の散策路を歩いていた。
「ニルヴァーナも、かつての激戦や騒動が嘘みたいに平和に過ごせる場所が増えてきたな。まだ、手つかずのところはあるだろうけど、月を見上げる余裕くらいはありそうだ」
 牙竜の言葉を聞きながら、セイニィは黙って歩いている。その思い詰めたような表情の横顔を、牙竜は見つめた。
「なあ、セイニィ」
「……何よ」
「君のことだから今の恋愛関係に対して、もう決意はしたんだろう?」
 牙竜は、セイニィが恋愛に対して結論を出したのだろう、ということは感じ取っていた。
 だが、セイニィの中にはまだ迷いがある。
「想いを言葉にするのは大切なことだと思うし、俺達は『神様』じゃないから言葉にしなければ、理解し合えないこともある。……が、恐らく俺が伝えたい言葉は今のセイニィにとって非常に重いと思うな」
 牙竜は静かに、セイニィに声をかける。その言葉がセイニィの重荷になってしまわないように、だが、自分の思っていることをしっかりと伝えるように。
「ホント、難しいよな……『大切な誰かに想いを言葉にして伝える』単純で簡単なことなのにな……」
 月の優しい光が、セイニィと牙竜を見守るように照らしている。
「……月はいつもそこにある」
 牙竜はそう呟いて、空を見上げた。パラミタの人の忌み嫌う、月。けれど、今こうして牙竜たちの頭上から二人を照らす月は、仄かに温かい光を放っている。

「っ牙竜!」
 セイニィが、思い切ったように声を上げた。
「……もう、そうやって気を使ってくれなくていいわよ。きちんと、言葉にしていいなさいよね」
「えっ……?」
 思わず、牙竜はセイニィの言葉を聞き直す。
「その……あんたの気持ちを受け入れるって、言ってるのよ!」
 セイニィは顔をそらしながら、だが、はっきりとそう言い切った。
 牙竜は少しの間、呆然とセイニィの横顔を見つめる。
「セイニィ……!」
「これだけ悩ませたんだから……その分だけ、それ以上に、これからもずっと一緒にいなさいよね」
 セイニィが悩んだことは、十分に伝わってきた。否、今もまだ、自分の決断にどこか不安を隠し持っているのかもしれない。
 きっと、それは結論に対しての迷いではない。自分自身に対しての迷いだ。決断を出してしまったことに対する、不安だ。
 そのままセイニィは、口をつぐんだ。だが、その無言の中に、どれほど今まで悩んだのか、苦しんだのか、その全ての感情が混ざっているようでもあった。
「セイニィ……」
「な、何よ」
 牙竜は、その言葉を囁いた。セイニィの決意を知るまでは、伝えずにおこうと思っていた言葉。

 その言葉がもう、セイニィを縛ることがなくなるように。そんな想いを込めて、牙竜はセイニィに気持ちを伝えたのだった。