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Welcome.new life town 2―Soul side―

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 第1章 

 そして、2023年8月11日。
 榊 朝斗(さかき・あさと)は自宅でイディアとの思い出を振り返っていた。机の上には、持って行く予定の様々なパーティーグッズ、真空パックされた食材などが並んでいる。
「イディアちゃんが生まれて、もう1年が経つのか」
 ファーシーと出会ったのは、大廃都でライナス捜索依頼が出た日だった。機晶姫が子供を授かる為の施術を行うと聞いて立会いに行き、施術者が行方不明と知って探しに行ったものだ。無事にライナスを救出し、子の着床は成功してその時にイディアの命は生まれた。
 この世界に産まれ落ちたのはその後――1年前の、今日。
「機晶姫が子供を生むという事を聞いて驚いたけど、いつの間にか皆の間で受け入れられてすっかり馴染んでいるというのも流石というかなんというか……」
 そう思う自分も、後の世代に向けて子を残す可能性がある機晶姫がいるという事実を受け入れてしまっている。
 それが、時の流れというものなのだろう。
 何はともあれ、今日のパーティーは楽しみだ。イディアにも暫く会っていないし――
(……何より、アイビスとちびあさが会いたがってるしね)
 買い物が終わったら一度戻ってくる予定になっているけど、一応、折を見てアイビス達に連絡してみよう。……それにしても。
(ルシェンはパーティーに間に合うかな……?)

 その頃、ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は職場にある時計を見上げて焦っていた。
(あ〜、どうして今日に限って休日出勤しないといけないの……? 早く仕事を切り上げないと……)
 彼女は、勉強を兼ねて海京でカウンセラーの仕事をしている。イディアの誕生日パーティーに行く為、この日は皆で休みを取っていたのだが――今となっては開始までに間に合うかも非常に怪しい。
 書類のチェック、薬品や器具の在庫管理と、やるべき仕事はまだまだ多く。
 もう一度時計を見上げ、長針が存外動いているのを見て、また慌てる。
「時間が過ぎていっちゃうなぁ……」
 今頃、榊 朝斗(さかき・あさと)は家で準備をしているだろうし、アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)は空京でプレゼントを選んでいるだろう。一緒に買い物に行きたかった――と思いつつ、ルシェンは手を動かした。

 ほぼ同時刻、また、ここでも――
「げふっ……はぁはぁはぁ」
 ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は異臭で充満する部屋から決死の思いで脱出した。
「辛かった……辛かったのである。まさか、こんなにも過酷なものであったとは我輩一生の不覚! 『こんなモノ』をお詫びの品にするとはルイはどんな恨みを!?」
 至極真面目な顔をしたルイ・フリード(るい・ふりーど)に言われて手造りりすることになった『お詫びの品』――安請け合いをして作成を始めたガジェットは、その『メイン』はもとより、『特典』の製作に四苦八苦してちょっとした地獄を味わうことになった。何とか『特典』も完成したし、これで女の子がいっぱいの(筈の)イディアの誕生日会に出発できるというものだ。
(はっ、窓を開けるのを忘れてきたのである……)
 再入室する際の重大事項を忘れてきた事に多少愕然ともしたものだが、とにかく辛い作業は終わったのだ。だが――
「まだ『メイン』の編集作業が残っていますよ?」
 監視をするかのように扉の前に居たシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が、何ともドSな表情で無情な通告をガジェットにする。
「部屋に戻ってください」
「……………………」
 セラはきっちりとマスクをしたその状態で目を細め、ガジェットを確かに威圧する。
「うっ、うっ、我輩はいつお誕生日会に行けるであるか……」
 泣く泣く部屋に戻る少女型機晶姫の後姿を見送って、セラはさて、と1人呟く。
「お詫びの品をしっかり渡して、ルイにはさっさと清算して貰わないと、ですね」
 悩んでる姿よりも、ルイは生き生きとした姿の方がいい。というか、生き生きとした姿の方がセラとしては害が無い。なので、彼女は『彼』の退院日を抜かりなく調べ、ルイに伝えた。ここまでの惨状となるのは彼女としても想定外だったが――
「まあ、今日はおめでたい日でもあるようですし……セラは関係無いので、お誕生日会を楽しませていただきましょう」
『彼』本人が居たら、誰が関係無いって? と詰め寄られそうな事をさらりと言い、楽しそうに“編集作業”の完了を待つのだった。
「ですが……このペースだと確かに遅刻してしまいそうですね」

              ◇◇◇◇◇◇

 ショッピングモールには、沢山の人達が買い物に訪れていた。夏休み中ということもあり、子供や学生の姿も多い。店頭に並ぶものも、ゲームや人形、プラモデルやなりきりセットなど普段よりも子供が欲しがるものが目立つ気もする。
「1歳か……子供用のプレゼントだと、こんなのが良いんじゃないかな?」
 その中で、玩具店を見回っていた隼人・レバレッジ(はやと・ればれっじ)は足を止めてルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)に声を掛ける。ルミーナは彼の示したお絵かきセットを見て、柔らかく微笑んだ。
「こういうのも良いですね。色の種類も多いですし、クレヨンだけでなく色鉛筆とかも入っていますし……イディアちゃんも気に入ると思いますよ」
「後は、絵本とかかなあ……。ルミーナさんは、どんなプレゼントが良いと思う?」
「そうですね、何か可愛らしいものとか……。ああ、お絵かきセットでもこういったのもあるんですね。3Dのカラーペンと型や塗り絵が入っていたり……。箱が女の子らしくて可愛らしいですね」
 私が子供だったら、わくわくすると思います――と、ルミーナは楽しそうに隼人に言った。子供だったら、とは言っても今でもわくわくするようで、瞳が若干輝いている。彼女は、ピンク色でデザインされた様々な体験セットの前に移動して、色々と眺め始めた。
「こうしてプレゼントを選んでいると、小さかった頃に戻ったみたいですね。わたくしもこういうもので遊んでみたかったですわ」
「ルミーナさんは、こういうおもちゃでは遊ばなかったのか?」
「わたくしが子供の頃は、まだ地球の文化が入ってきていなかったので……おもちゃとかは少なかったんです。隼人さんは、どうでしたか?」
「そうだな、俺は……」
 こんな会話や相談をしながら、イディアの誕生日プレゼントを決めようと2人は店を巡っていく。パーティー開始までにはまだ間がある。賑やかなショッピングモールで、隼人とルミーナはプレゼント選びという名のデートを穏やかな気分で楽しんだ。