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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~
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第1章 喫茶店、午前中

 大荒野に存在する若葉分校と、種もみ学院から、花火や空砲が放たれている。
 今日はパラ実のこの2つの分校の学園祭なのだ。
 大荒野は勿論、パラミタの各地や、地球にも、あらゆる方法で開催を知らせてあったため、両校の校舎には入りきれないほどの客が訪れていた。
 しかしそれは問題ない。
 元々両校とも、立派な校舎やグランドのある学校ではない。
 そう、メインは野外なのだ! 両校の生徒が縄張りにしている場所、全てなのだ。

 サルヴィン川近くにある、喫茶店。
 若葉分校生が拠点としているこの場所には、朝から沢山の若者が集まっていた。
 この喫茶店は、サルヴィン川流域で農家を営んでいる一家が経営している。
 その農家の四女であるシアルは、若葉分校の生徒会長だ。
 名ばかりの生徒会長な彼女だが、今回は分校生の1人として、喫茶店の出し物を行うことにした。そのまんまだが。
 沸かした湯の中に抵当に肉類と野菜をぶっこんで鍋にする……くらいしか料理について知らない彼女なので、食べ物方面はほとんど他人任せだった。
「鈴子様、シアルさん、お手伝いをお一人、連れてきましたわ!
 今日一日、よろしくお願いします!」
 爽やかな笑顔と共に訪れたのは、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)だった。浮かない表情のシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)を連れている。
「いらっしゃい、リーブラさん。シリウスさんも宜しくお願いしますね」
 厨房から顔を出したのは、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)だ。
 鈴子は分校生ではないが、学園祭開催の知らせを友人のリーア・エルレン(りーあ・えるれん)から聞き、手伝いに訪れていた。
「鈴子さーん! 言われた通り油に火を点けたら、火事になりそうなんだけどッ!」
「えっ!? シアルさん、油に直接火をつけたんですかッ!?」
 大きな声が上がり、鈴子は慌てて厨房へと戻っていった。
「……大変そうですね。忙しそうですねー」
 リーブラが意味ありげな目で、シリウスを見る。
「ああ、まー、そうだよな。なんだか放っておけないカンジがするぜ!」
 鈴子を追うように、シリウスは厨房に向かっていった。
「うおっ、何やってんだシアル。壁が焦げてるじゃねぇか」
 油を入れて火をつけてと鈴子に指示されたシアルは、どばどば入れた油に火をつけたらしい。
「いいのよ、全部ブラヌのせいにするから」
 シアルは当然とした表情で、しれっと言った。
「料理は基礎を習ってからということで、今日はドリンクの担当をお願いしますわ」
 苦笑しながら鈴子が言い、油を敷き直す。
「ふふ……わたくしも手伝いますわ。何から取り掛かりますか、相棒?」
 リーブラが微笑んでシリウスに尋ねる。
「ん、考えてみる」
 シリウスはリーブラにそう言った後、シアルに近づいた。
「とりあえず、材料見せてくれないか! オレもなんかレシピ出してみるぜ」
 彼女の代わりに、シリウスは料理を作ろうと思った。
「野菜と果物なら沢山あるわよ。あと卵や牛乳、乳製品とかも」
 シアルは野菜の入った木箱や、戸棚の中を開けて、シリウスに材料と調味料を見せる。
「なるほど。ならクルスキとかいいかな?」
 シリウスの言葉に、シアルは怪訝そうな顔をする。
「オレの祖国……えーとニョッキみたいな野菜と果物の蒸し団子だ」
「団子、団子ならいいんじゃない? 味付けはどんなの? 甘いの? それともしょっぱいの?」
「どっちも対応可能だ。今回は果物使うし、甘い方でいくか! じゃがいもに片栗粉、チーズを混ぜて生地を作って、果実を包んで蒸すんだ」
 シリウスはさっそく準備を始める。
「相棒、まずはじゃがいもの皮むきからだ」
「了解、相棒」
 活き活きとじゃがいもを取り出すシリウスを、リーブラは穏やかな目で見る。
 そして共に、料理を始めたのだった。

「シアルさん、シアルさん、ちょっとちょっと!」
 厨房でうろうろしていたシアルを、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が呼んだ。
 百合園の学園祭とは違い、開放的に遊べるのだろうと訪れたリナリエッタだけれど、刺激的な出会いを求めて顔を出した先に――鈴子がいたのだ。
 鈴子の前であんなことやこんなことは出来ないので、どーしよーかなーと思っていたとこっろだった。
「シアルさんの願い、聞いたわよお」
 リナリエッタはじろじろとシアルを見る。
 この出し物『喫茶店』の代表であるシアルの願いは、『パラ実生以外の素敵な恋人がほしい』だそうだ。
「そろそろ私も年頃だし、親がうるさいのよ」
 シアルはバナナが入った箱を持ってきて、皮をむいてミキサーに入れていく。
「ふむ。ジュースは作れるのねえ」
 リナリエッタもシアルを手伝って、一緒に果物100%のジュースを作っていく。
「親が決めた相手とか、その辺の男とか、パラ実生とかはやなのよ。ほら、ここでネット出来るようになったでしょ? 私もアイドルとかに興味出てきてー」
 最近、シアルは地球のアイドルグループに夢中なようだった。
「なるほどね、でもね、失礼だけれど、貴方、化粧品はどこのを使っはてる? 美容院は毎月行ってる? お洋服毎シーズン買ってる?」
 リナリエッタの立て続けの質問に、シアルはムッとした表情になる。
「……私、自分で稼いでないから、そういうの買えない」
「それはごめんなさい。家の手伝いだけじゃなく、外でももう十分バイトできる年齢よね? いい人が欲しければ、自分も磨かないといけないってことよ」
「そっちだって学生のくせに。家が金持ちだからっていい気になってんじゃないよ!」
「おー、パラ実生らしくなってきたわね」
 ちょっと驚きながら、リナリエッタはウィンクする。
「そうそうだから、折角の機会だし私もここで働かせてもらってもいいかしら?」
「構わないわよ。働かせてあげる代わり、使ってる化粧品置いてってもらうけど!」
「あらあら、たかられてるのかしら私。でもいいわー、メイクも教えてあげる」
 リナリエッタはシアルにそう約束すると、エプロンを借りて給仕を担当することにした。

「メニューが増えたのね!」
 朝から給仕として働いていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、メニューにシリウスが作っているクルスキと、シアルが作っている果実100%ジュースを書き加えていく。
「特に、ドリンクのメニューが豊富ですね〜。ワンちゃんネコちゃんも飲めるのかな♪」
 ……この喫茶店には何故か、動物が多い。
 ポスターにも動物の写真が乗っていたことから、詩穂はここが動物カフェだと思いこみ、何の疑問も抱かずに、精力的に働いていた。
「こんにちは。あ、ホントに動物がいっぱい。可愛い……!」
 喫茶店に、詩穂が誘った先輩達が入ってきた。
「客の数より多いじゃないか。ははは」
「あれ? さっきまではお客さんの数の方が多かったのに、いつの間にかネコちゃんが多くなってる〜」
 詩穂は少し不思議に思いながら、客として訪れたテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)と、皇 彼方(はなぶさ・かなた)を席へと案内する。
「メニューはこちらです。何にしましょうか?」
 窓際の席に座った2人に、詩穂はメニューを差し出した。
「ええっと、新鮮な野菜が食べられるみたいだから、サラダがいいかな?」
「それじゃ、私はフレッシュサラダで」
「俺は、彩り野菜のホットなサラダっていうので」
「はい、畏まりました! 少々お待ちください」
 詩穂はぺこっと頭を下げると、いそいそと厨房へと戻っていく。
 2人を誘ったのは、一緒に学園祭を回りたいと思ったからではなくて……。
 少し、2人の仲が気になったのだ。
 お互い、想い合っているようなのに、進展がないように見えて。
 こうして一緒に誰かに誘われたなどという理由がないと、デートもしてないんじゃないかなと思えたのだ。
「さて、ドリンク何にしようかなー」
 詩穂はメニューの中から、2人に差入れするドリンクを何にしようか迷う。
 真っ先に目についたのは『素直な気持ちになるアイスコーヒー』だけれど、すぐに首を左右に振る。
「こういうのに頼ったらダメだよね」
 そして、詩穂は冷たい飲み物ではなく、サラダに合いそうなスープを選んで、出来上がったサラダと一緒に、2人に持っていくことにした。

「お待たせしました、スープは奢りですっ☆」
 数分後、詩穂は出来上がったサラダと、スープをテティスと彼方に届ける。
 詩穂が選んだのは、コーンスープと、春雨のスープのはずだった。
 でも黄色くもないし、春雨も入ってない気がしたけれど、パラ実の喫茶店なのでということで、細かい事は気にせず、詩穂は2人のテーブルに出して。
「ごゆっっっっっくりどうぞ〜♪」 
 笑顔を残して、去っていく。
「あれ? コーンスープと、春雨スープ、ここに残ってるけど?」
 カウンターではリナリエッタが首をかしげていた。
「あ、それあたしの♪」
 にこにこ近づいてきたリーア・エルレン(りーあ・えるれん)がささっとトレーに乗せると、客席へと持っていった。
 そして、可愛い猫と犬に飲ませて、戯れていた……。

「お待たせー!」
 持ち帰りの注文も多く、シリウスも会計を手伝っていた。
「団子って聞いて頼んでみたんだけど、これなんで出来てるんだ?」
 会計で、渡された商品――シリウスが作った『クルスキ』を見て、モヒカン少年達が訝しげに言う。
「中はじゃがいもと片栗粉にチーズ。外は林檎を使ってる。
 こっちもお勧めだぜ? どうだ」
 串に刺したチーズのグリルを少年達に見せる。
「コイツにベリージャムをつけて、食うんだ」
「ふーん、じゃそれも」
「まいどあり!」
 シリウスは商品を渡して、代金を受け取り、少年達を見送る。
「んー……」
 彼らが食べながら歩く姿を見て、シリウスは懐かしさを覚える。
「あれオレの国で、縁日の屋台の定番でさ。ええっと、日本でいう……リンゴ飴みたいな?」
「ええ」
 シリウスと共に、微笑みながらリーブラも彼らを見ていた。
 少年達は楽しげに会話をし、食べながら歩いていく。
「……さて、調理に戻るか!」
「はい」
 彼らの姿が見えなくなってから厨房に戻っていき、その途中で。
「ありがとうな、リーブラ」
 シリウスは少し恥ずかしげに、リーブラに礼を言った。
「連れてきた理由、分かった気がするよ」
 リーブラは何も言わずに微笑んでいる。
「心配かけてわりぃ……おかげで、もう大丈夫だぜ」
 そうシリウスが言うと、リーブラは彼女の背を優しくぽん、と叩いた。
「そろそろお昼ですから、忙しくなりますよ。覚悟はいいですか、相棒」
「ああ、任せておけ!」
 シリウスは腕まくりをして、再び調理に勤しんでいく。

「まさかリナさんが、若葉分校生の学園祭を手伝いに来てくださるとは思ってもみませんでしたわ。でもなんですか、その格好」
「ほほほほ……。鈴子さんが来ると知っていたら……いえ、鈴子さんが参加されると噂でききましたのでえ、手伝いに来たんですよお。ほら、パラ実の方が喜ぶ格好で。決して、他に意味はございませんわあ」
 リナリエッタはイケメン達と楽しく遊ぶことを目的に訪れていたので、今日はセクシーな格好だった。セクシーメイドとして働いておりパラ実男子に大人気☆だったが、鈴子はリナリエッタの格好を好ましく思っていないようだった。
「鈴子さんもしかして、私が表に出るの嫌ですかあ? それなら、厨房手伝っちゃいましょうか」
 内心、鈴子に料理を習いたいとも思っているリナリエッタは、良い機会だと考えそう尋ねた。
「即戦力以外はいりませんわ。ま、給仕としては即戦力なのでしょうから、リナさんは給仕向きなのでしょうね……」
 ふうとため息をついて、鈴子は手際よく野菜を炒めていく。
「そうですかあ、それじゃ接客に戻りますね。でも鈴子さん、ちゃんと時々休憩とってくださいね。ここにお茶、置いていきますねー!」
 と、リナリエッタはアイスティーを置いて、接客に戻っていった。
 ちなみにこのアイスティー、リーア作の『刺激的なアイスティー(微量の興奮剤入り)』である。
「詩穂もちょっと休憩。……んーと、味見しておこうかな」
 リナリエッタと代わり、忙しくなる前にと詩穂も少し休憩をとることにした。
 鈴子が作った野菜スープを戴こうとした詩穂だけれど……隅に置いてあった木の実が入ったスープを間違って入れてしまう。
「うん、ちょっと変わった味だけれど、美味しい♪」

 それから――。
 喫茶店の中には、動物たちが更に増えていた。
「パレード用の洋服用意してあるの♪ 可愛い可愛い仔猫ちゃん、子犬ちゃん、一緒に行きまそうね〜。うふふふふ」
 リーアに縋り付いている猫や犬の姿が多かった。
 厨房では。
「シリウスさん、そちらが終わったら、こちらとこちらとこちらをお願いします」
 まだ調理中のシリウスに、鈴子は焼きそばとサラダとケーキの材料を渡していく。
「リナさん、お客様と長々と立ち話をしない! ここはそういうお店ではありません! 素敵な方でも、一般の方でも分け隔てない普通の接客をしてください。シアルさんにも変なこと教えたら駄目ですよッ」
 注文をとって戻ってきたリナリエッタを、片手でフライパンの上の卵をひっくり返し、もう片手でボウルの卵を混ぜながら、鈴子は言う。
「シアルさん、皮の剥き方が雑すぎます。機械で剥いた方が100倍ましですわ!」
 そうして、鈴子は普段の2倍のスピードで仕事をこなし、きびきびと皆に厳しく指示を出していった。
 ……学園祭終了後にはどっと疲れが出て、リナリエッタに背負われるようにして、帰っていったとか。