百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション公開中!

一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション



【雪の中で】

「あーあ、逃げられちった。色々聞きたいことあったのにさー」
「もー、縁ってば。壮太さんも相手さんも困るでしょ、あんな絡み方されたら」
 しぶしぶ帰ってきた縁を、佐々良 皐月(ささら・さつき)がたしなめるようにして出迎える。
「だって面白そうだったから」
「もし縁が同じ事をされたら、どう思う?」
 言われて、縁は想像する。相手次第な所もあるかもしれないが、まあ、嬉しいとかはないだろう。
「はいはい、分かりましたー。今度からは気をつけますー」
「はいは一回、ですっ」
「……はい」
「よろしい♪」
 にっこり、と微笑む皐月を見て、縁は息を吐く。ここで変に食い下がれば後で面倒なことになる気がしたので、大人しく引き下がることにした。
「さーて、こっちはこっちでプレゼントのラッピングを済ませちゃいましょうかねー。いやー、皮の縫い物はちょっとつらかったや」
「あれ? 縁、いつの間に作っていたの?」
 飴色の皮で出来た猫のシルエットのキーホルダーを覗き込むようにしながら、皐月が縁に尋ねる。ずっと縁を見ていたわけではないが、これだけの品を作るだけの時間が果たしてあっただろうか、と考えていた。
「年下な恋人さんも気がつけばまあ成人なわけだし、ちょっとおしゃれなものでも贈ろうと頑張ったさー」
「そうだったんだ。ふふ、素敵ですねっ。綺麗にラッピングしてあげてくださいね」
「はいよ。……この紙にこのリボンをかけて、はい完成」
 キーホルダーを透明な袋に入れ、モスグリーンの包装紙で包み、金色のリボンを掛けて仕上げる。皐月は舞う雪をイメージして、結晶模様の紙を使ったりリボンに癖をつけたりして、ふわっ、とした雰囲気を演出していた。
「……せじまんラッピングして、紡界くんちの玄関先にでも放置すればいいかなぁ」
「それ……された方はすっごい困りますよね?」
「いや、面白そうだな、って」
「もう……」
 まだ弄りを諦めていない様子の縁に、皐月は呆れたように息を吐くのであった。


*...***...*


 工房を出て、街までの道を歩く。隣にいる紺侍は、明らかにほっとした様子だ。手を伸ばし、紺侍の手に指を絡めてみる。冷たかった。この冷たさは、寒さのせいだけではない気がする。紺侍を見ると、紺侍も壮太を見た。苦笑するように、笑う。そんな風に笑ってほしくなかったので、思い切り手を握った。
「いたたたた」
「なあ」
「えー?」
「年末空いてる?」
「それなりに」
「大晦日泊まりいっていい?」
「もちろん」
「あと初詣行こう」
「オレ甘酒飲みたい」
「オレも」
 おみくじ引こう、とか、絵馬書く? と、ごく普通のことを話すと紺侍は普通に笑った。しばらく他愛のないことを話して、歩く。
 街が見えてきたあたりで、聞いてみようかと思った。
「なあ」
「はい?」
「おにーちゃんとなんかあった?」
 紺侍の表情が一瞬強張ったのを、壮太は見逃さなかった。紺侍は先ほどアレクに笑ったように、ハハ、と乾いた笑いでそっぽを見た。隠す気もない誤魔化しに、壮太は短く息を吐く。
 紺侍とアレクの間に何かあったのは明白だ。だが何があったのかまではわからない。単に、合わない奴、という可能性がないことはないが、この対応を見るにそうではないのだろう。
 もしかすると原因は自分にあるのではないか、と壮太は思う。だから、言えないでいるのではないか。そんな気がする。
 困った顔をして壮太を見る紺侍に、「言えねえなら言えねえでいいよ」と返す。投げやりな口調ではなく、いつもの軽口を叩くような口調で。やはり紺侍はほっとしたような顔をした。
「けど、言ってくれたらオレが嬉しい」
 少し、真面目な調子で言ってみる。紺侍が立ち止まった。壮太も足を止める。真っ直ぐに見る。見返す。沈黙。
 風が吹き、枝葉の揺れる音に混じって紺侍は言った。
「壮太さん、結婚についてどう思います?」
「……は?」
 予想もしていなかった答えに、壮太は思わず素っ頓狂な声を上げた。紺侍は斜め上の方を向いて、頭を掻く。
「今のなし」
「なしじゃねえよ。何」
 問うと、紺侍は「んー」だとか「えっと」だとか「あー」だとか、意味を成さない言葉を発して間を取った。急かさずに待つと、宙に向けていた視線を壮太に戻し、言う。
「もうちょっときちんと考えてから言葉にします」
 疑問だけが残る返答だったが、隠されてしまうよりは良かった。壮太は、ん、と頷いて、いつの間にか離れてしまっていた手を繋ぎ直して、歩く。
「甘いものでも買って戻るか」
「クロエさんがお菓子作ってっから、飲み物とかのがいいかも」
「オレ、大瓶のジュース三本持ってったけど」
「結構あっさりなくなりますよ」
「マジで? まああって困るもんでもねえし、買ってくか」
「らじゃっす。甘いのは、今度で」
「おう。今度な」
 最初と同じように他愛もない会話をし、店へと向かった。