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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【薇仕掛けの贈り物】


 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)はすぐ、無理をする。恐らくは、自分でも気付かぬうちに。
 そんな彼女に何かしてあげられることはないだろうか。考えた末、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)は手作りのプレゼントを贈ることにした。
 手作りと言っても色々ある。何を贈れば、朱里は喜んでくれるだろうか。
 いや、喜ぶだけじゃない。
 彼女の心を癒してくれるもの。
 ふたりの想いを伝えるもの。
 いつまでも大切にしてくれるもの。
 すべて兼ね揃えたものは――。


 最近、休みになるとアインはヴァイシャリーへと出掛けていった。どうやら人形工房に通い詰めているらしい。
 時期が時期、場所が場所なだけに、何をしているのかは大体想像がつく。きっと、プレゼントを作っているのだろう。
 大丈夫かな、と朱里は思う。
 ただでさえ毎日忙しいのに、休みには遠出をして、恐らくは慣れないであろう行為に根を詰める。真面目すぎる彼のことだ、無理をしていないかどうか不安になる。
 けれども声はかけられなかった。だって、アインはプレゼントについてクリスマス当日まで秘密にしようとしてくれている。なのにどうして知った顔をして言えるのだろう。
 だから朱里は、お茶やお菓子の差し入れと称してたまに様子を窺いに行った。そして、クロエと話すことを口実に少しの間見守り、一足先に帰る。
 そうしているうちにクリスマスは近付き、ついに、当日を迎えた。
「朱里」
 アインの声に振り返ると、彼は綺麗にラッピングされた箱を持って立っていた。これを作っていたのだと、一目見てわかる。
 朱里がアインを見ると、アインは一拍置いてからすまない、と謝った。
「君には心配をかけたね」
「……わかってた?」
「ああ。あれだけ頻繁に来ていたらわかるよ。お互いに、していることはバレバレだったんだ」
「なんだか、おかしいの」
「そうだね」
 アインが苦笑するように笑う。
「本末転倒だな」
「そうなの?」
「君が無理しないかと心配していたはずなのに、却って心配をかけてしまったから。どうにも僕は不器用らしい。
 ……こんな僕だけど、どうかこのプレゼントを受け取ってくれないだろうか」
「もちろん」
 手向けられた箱を、そっと受け取った。
「……開けていい?」
「どうぞ」
 ソファに並んで座り、朱里は巻かれたリボンを解く。何が出てくるのだろう、とどきどきした。
 中に入っていたのは、陶器人形のオルゴールだった。ゼンマイ仕掛けで、回すと人形が動き出し音を奏でるというものだ。
「わあ……」
 思わず感嘆の声が漏れる。それほどに素敵で、想いが伝わってきたからだ。
 朱里は知っている。リンスの指導の下、何度も失敗していたことを。それでも頑張っていたことを。できあがっても、こだわって作り直していたことも。人形からは、それがよくわかる。
 滑らかな白い頬。幸せそうに微笑む表情。身に纏った衣装のフリル。皺。艶。細かいところにも気を配られた人形は、ゼンマイを回すとまるでワルツを踊るようにくるくると回った。
 目を閉じて、耳を澄ます。オルゴールの繊細なメロディーが、じわりと心に沁み込んだ。
 音楽が一周するまで聴いて、朱里はゆっくりと目を開く。
「ありがとう。とっても嬉しい」
「喜んでもらえて良かった。君が笑顔になってくれると、僕も嬉しい」
 アインの肩にもたれかかり、朱里は再び目を閉じた。
 この、温かで穏やかな時間がずっと続きますように。